給食からおいしく楽しく学ぼう! 食育の工夫とアイデア豊富な「長岡の学校給食」の現場をリポート

2022.1.25

新潟県長岡市の小中学校では、給食を通じて子どもの食育に力を入れる取り組みを続けています。地元の旬の食材を積極的に取り入れたり、郷土の歴史や食文化を紹介する献立が組まれたりと、幅広いテーマの学びが仕掛けられたイベント性のある給食で、子どもたちに地域の食文化について伝えると同時に食そのものへの関心も高めています。その仕掛け人となるのが、市内の学校を担当する「栄養教諭・栄養職員・栄養士(以下「栄養教職員」と表記)」と呼ばれる方々です。

学校給食が明治22年(1889年)にスタートして、130年以上。給食の役割は、子どもたちの健康な体を育むだけでなく、今や「食育」の場として、食に関する正しい知識と理想的な食習慣を学ぶ役割を期待されています。その給食を栄養と学びの両面で支えている栄養教職員の方々は、日々どのような取り組みをされているのでしょう。小学校の現場での取り組みを通じて、長岡市の食育の内容をお伝えします。

長岡産野菜を使った給食メニューを
児童たちが自分で考え、提案する学習

子どもたちが提案した長岡産野菜の料理が給食に出ると聞いて訪れたのは、長岡市立新町小学校です。5年生の総合学習の一環として学校でも今年初めて行う試みで、長岡の野菜についての発表も校内放送を通じて行われるという、いわばこれまでの学びの集大成となるイベントです。

5年生の総合学習を指導した担任の佐藤慎哉先生。

「新町小学校ではこれまで、5年生の総合学習の時間に、米作りなど長岡の食を体験しながら学ぶことを続けてきました。今年の学年は、長岡の夏野菜を自分たちで育てて食べてみることになり、八石ナス、梨ナス、巾着ナス、神楽南蛮を育てて、実際に食べてそのおいしさを学びました」と話してくれたのは、5年生の担任の佐藤慎哉先生です。秋以降は、おもいのほか(という名前の食用菊です)や雪大根、大口レンコン、里芋など、長岡の秋冬野菜についても学び、子どもたちは地域の食についての関心を深めていきました。その関心を「給食で食べること」でさらに印象付けているのが、栄養教諭の津軽智子先生です。

栄養教諭の津軽智子先生。

「今日の給食は、5年生がアイデアを出してくれたんです」と早速、メニュー案が書かれたワークシートを見せてくれました。

子どもたちはインターネットで野菜をおいしく食べるためのレシピを探し、アイデアも入れながらワークシートを完成させた。タブレットの使い方や検索方法を学ぶのも総合学習の一環だ。

 

給食の献立表

楽しくておいしそうな給食の献立表。この月の後半は、5年生が考えた「長岡産野菜メニュー」が連日登場した。

課題は、長岡産野菜の魅力が伝わる給食を考えること。「その野菜が嫌いな子もいるから見えないように使おうとか、味付けは子どもが好きな味にすれば食べてもらえるのでは、といったことも、児童がインターネットからいろんな情報を自分で探して考えています。検索も勉強ですよね」(津軽先生)

18班の子どもたちがそれぞれ考えて提出した案から津軽先生は8案を採用。実際に給食に採用するために、材料や味つけ、アレンジ方法を提案してくれた班の子どもたちに相談しながら決めていき、実現に至ったそうです。
取材した日の主菜は、「長岡野菜の花しゅうまい」。ワークシートに書かれたアイデアはどんな給食に仕上がったのでしょうか。学校の給食室から出来立てほかほかの給食が運び出されます。クラスの給食の様子を見に行ってみましょう。

 

今日のメニューも児童が考案!
「里芋とレンコンの花しゅうまい」

5年生の教室は配膳の真っ最中。5年生考案のメニュー、「長岡野菜の花しゅうまい」を見てみると、まるでカップケーキのような大きさで、見た目のインパクトが抜群! 細く切ったしゅうまいの皮がまぶしてあって、確かに花のよう。これはおいしそうです!

いただきます、の合図で食べ始めた子どもたち。5年生が提案した給食の味はどうでしたか?と聞いてみると、
「レンコンのカリカリがきいていて、おいしかった」
「しゅうまいの皮のなかにお肉がいっぱい入っていて、柔らかい食感でおいしかったです」
「長岡の野菜のおいしさをお肉が引きだしているような感じでした」
と、みんな口々にノリよく食レポをしてくれました。私たち取材班も実食。確かに、肉だね部分がとても柔らか! 里芋のねっとり感がいい具合のつなぎになっているようです。さらにレンコンの歯ごたえと、細切りのしゅうまいの皮が、アクセントになっています。子どもたちの言ったとおり! みなさん、お見事な食レポでした。

しゅうまいを提案した班のメンバー。料理の提案は「みんなが食べやすくて、おいしいって言ってくれるように工夫した」とのこと。「れんこんも里芋も入っていて、おいしかったです」と完食して笑顔でした。

地元野菜についてのクイズなど
給食時間が発表の場としても生かされる

放送室では、5年生による長岡産野菜の紹介が始まりました。総合学習の時間にタブレットを使って作った力作のスライドが各教室のテレビ画面に映されます。

発表準備を見守る担任の佐藤先生。「子どもたちは最初は情報を何もかもつめこむのですが、『それって見やすい?わかりやすい?』と聞くことで、じゃあ文字を減らそう、絵を増やそう、クイズにしたら、と見せ方に自分から気づいていきます」。地域や食を知るだけでなくプレゼンの仕方も学べる、まさに総合学習となっている。

「体菜は漬物にするとおいしい」「レンコンの先端部は特に柔らかい」といった野菜知識が紹介されたり、やはり子どもたちが考えた野菜クイズが出されます。
「ここでクイズです。体菜は別名でなんというでしょうか?」(正解は、しゃくしな、ほていな)
「長岡でとれるレンコンの名前は、大口レンコン、新潟レンコン、長岡レンコンのうち、どれでしょうか?」(正解は、大口レンコン)

教室では、子どもたちが給食を食べつつ、思い思いに回答しています。5年生による長岡産野菜の発表を、全校の生徒が楽しみました。

クイズに回答しながら発表を楽しむ子どもたち。

 

児童玄関の前にも、子どもたちがまとめた長岡産野菜の特徴が掲示されている。

 

「自分たちの考えたメニューが給食に出るというだけでみんなテンションが上がりますし、他の子も5年生が考えてくれたんだ、ということで食べる意欲がわくんです」と、話す津軽先生。楽しいイベントの背景には、現代の子どもの食体験不足、偏食、小食過食など、数多くの食の問題をなんとかしたいという熱い思いがありました。現代の給食や食育が抱える課題については、後半のインタビューでご紹介します。

 

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