長岡を犬猫の殺処分ゼロ・災害避難のモデルに!新潟県動物愛護センターで考える、これからの共生社会
「殺処分ゼロのまち」を目指す
長岡の動物愛護の現状
何かしらの理由で人間と暮らせなくなり、保健所に引き取られた犬や猫は、これまで多くが殺処分されてきました。日本では従来、殺処分率が非常に高く、環境省の統計によると、例えば2004(平成16)年には全国で418,413頭の犬猫が保健所に引き取られ、そのじつに94%である394,799頭が殺処分されていました。このような状況をどうにか改善するべく、さまざまな自治体や保護団体が「殺処分ゼロ」を目指す取り組みを少しずつ進めてきた結果、引き取り件数、殺処分件数はともに減少を続けています。2016(平成28)年には殺処分率がようやく50%を下回り(引き取り113,799/殺処分55,998)、2021(令和3)年には約24%(引き取り58,907/殺処分14,457)にまで減少してきました。そんな中、長岡市も新潟県動物愛護協会が猫の殺処分ゼロを目標に推進している「ゼロプロジェクト」に賛同し、2016年度から猫の不妊・去勢手術費用の助成事業を進めています。
[参考リンク]
猫の殺処分ゼロのまちを目指して! -野良猫、不幸な猫をなくしたい-
新潟県では継続的な取り組みの結果、犬猫の殺処分数は1997年の7431頭から2022年の228頭まで大幅に減少しました。2019年の殺処分数650頭を、2030年度には50%減の325頭にするという「新潟県動物愛護管理推進計画」の数値目標も2021年度に達成。新潟県の統計は収容中の死亡も含む数値であり、健康状態が悪くそのまま亡くなってしまった個体も含むため、実際の数値はさらに下がりますが、少なくとも県や市の動物愛護の取り組みに対する強い意思によって、殺処分数をゼロにするという目標が目前に迫ってきました。新潟県動物愛護センターの犬猫の状況は、ホームページで確認することができます。
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新潟県動物愛護センター統計情報【新潟県動物愛護センター】
愛護センターは新潟県の施設ですが、その業務は、動物と人間がともに少しでも健やかに暮らしていける社会であるようにという願いを抱く人たちの、組織や自治体の枠組みを越えた協働によって成り立っています。今回は、愛護センターと連携をとって活動している新潟県中越動物愛護協会の小池智幸さん、動物愛護センターの獣医師である村中幹宏さん、長岡保健所の佐藤直人さんに、それぞれの立場からの動物愛護について伺いました。
新潟県中越動物愛護協会 副会長・小池智幸さん(以下、小池):私はもともと動物が大好きだったことから動物愛護協会に長く所属しており、動物に関する正しい知識の普及・啓発を中心に、さまざまな活動を行っています。
以前は新潟県に動物愛護センターがなく、「中越動物保護管理センター」という組織の管轄で、各保健所管内単位で迷い犬を保護することなどがメインでした。しかし、この動物愛護センターができてからは設備・スタッフともに充実し、猫や犬の保護を手厚く管理できるようになり、譲渡数も多くなりました。
新潟県福祉保健部 生活衛生課動物愛護センター主査・村中幹宏さん(以下、村中):このセンターでは動物の世話や餌やり、トイレ掃除などは民間の会社に委託して、センターで勤務する私たち獣医師は動物の治療や引き取りなどの対応に注力しています。餌を与えていた猫が産んだ子猫の新しい飼い主がみつからない、飼い主が死亡してしまった、飼い主が入院となったが親族などで世話をしてくれる人がいない、ケガをした猫を保護したものの飼い主がわからない、などといった背景でやってくる犬や猫を引き取って保護しています。現状、年間50頭ほどの犬、700頭ほどの猫が入ってきて収容されています。
新潟県長岡地域振興局健康福祉環境部(長岡保健所)生活衛生課 主任・佐藤直人さん(以下、佐藤):保健所は動物愛護センターと同じく県の機関で、猫や犬に直接触るような作業はセンターで行い、保健所は事務仕事がメインになります。私たちは保健所という行政機関としての立場と、小池さんのように動物愛護の活動をされている方が集まって組織する地域の任意団体への支援も行っています。多頭飼育崩壊も社会問題となっていますが、これまでだと我々行政機関がタッチできない、またタッチしても可能な支援に限界がありました。しかし、多頭飼育においては不妊・去勢手術をして頭数を増やさないことが必要になってくるため、2023年度から新しい支援制度を作り、多頭飼育崩壊状態となった飼い主の猫の手術費用を補助するようにしました。新しい枠組み作りも重要な仕事のひとつですね。
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飼い主のいない猫の不妊去勢手術費用を補助します|新潟県
村中:私たち獣医師は、このセンターに収容された動物の治療はもちろんのこと、動物にまつわる苦情対応、生体販売や管理を行う動物取扱業者への指導、小学校への動物愛護学習プログラムの実施などを行っています。週末には、猫の飼い方セミナーや犬の飼い方・しつけ方セミナー、動物ふれあい体験学習など、動物にまつわるイベントも行っていますよ。
センター開所当初は猫の収容数が年間で約1300頭でしたが、2022年度では約700頭ほどと半分以下に減っています。引き取り数自体が減っていて、所有者のいない猫の引き取りや負傷猫など迷子でセンターに持ち込まれる猫より、多頭飼育崩壊などで飼い主からの引き取りの割合が増えている傾向にあります。犬に関しても、センター開所時の収容数は年間で230頭でしたが、2022年度では約50頭ほどと、4分の1ほどに減少しています。新潟県は野犬がいないこともあってか、迷子引き取りは共に年々減っていますね。
小池:いまは犬の新しい飼い主募集はほとんどありません。しかし、猫は犬と違って出産頭数も回数も多く、交尾するとほぼ100%受胎しますし、1年で3回も妊娠・出産できるので、1年に1回程度の犬と比べると増え方が桁違いなんです。このセンターができたときに私が一番驚いたのは、現センター長自らがここに収容されている乳飲子を連れて帰って、夜通しミルクをあげていたこと。職員だけですべて対応するのは難しいだろうと思い、犬友達に声をかけて「虹の会」を作り、ここにいる犬たちと触れ合ってしつけを行うボランティア活動を2012年5月から行ってきました。
以前はブリーダーが、引退した繁殖犬を引き取り希望で保健所に連れてくるなんて事例もあったほどですが、ここ数年で動物に関する法整備も進み、収容数はかなり少なくなりました。しかし、積極的に広報活動を行ってはいても、猫の譲渡数が収容数に追いつかない。最近は多頭飼育崩壊による収容が多いことも特徴です。
村中:高齢者が猫を飼い始めて、あっという間に増やしてしまったケースが多いです。本人が長期入院したり亡くなってしまったりで相談が入り、現地を確認するととんでもないことになっていたパターンですね。誰も餌をやらないで管理をしないとなると、緊急避難的にまとめて引き取ることもあります。高齢者だけではなく若い方でも交通事故で収入が減った等の理由で動物が飼えなくなくなることはあり得るので、誰かお世話をしてくれる人をさがしておくことが大切です。
子猫は3時間おきにミルクをあげないといけないので、面倒を見るのは多くても5頭が限界です。開所時はセンター長が子猫を家に連れ帰ってミルクをあげていたほどですが、いまはミルクボランティアさんが約40名いて、とても助けられています。その甲斐あって、以前は子猫の半分近くが処分となっていたのが、いまは9割以上も生かせるようになりました。開所してからの11年間でずいぶん変わったなと思います。
多頭飼育の場合は単に餌をあげているだけのケースが多く、人に触られたこともない成猫を収容しても、慣れていないので威嚇や攻撃してくることもあります。センターで成猫の馴化を進めていますが、それができるのもミルクボランティアに子猫の世話をお願いできているからこそ。成猫に力をかけられるようになったおかげで、譲渡数も増えてきていますね。
佐藤:多頭飼育崩壊状態となった飼い主の猫に対して、自己負担なしで全頭不妊・去勢手術をできるようにしたのは、2023年4月からの中越動物愛護協会の取り組みです。経済的な問題を抱えている方は猫の手術費用の捻出が難しい場合が多いため、雪ダルマ式に猫が増えてしまう。その解決のためにも、動物病院にも協力していただいて補助を始めています。この補助は、長岡市のガバメントクラウドファンディングで集まった資金を用いて可能になったものです。
小池:殺処分はとても少なくなっていますが、根本的に解決するには地域の民生委員や区長が訪問しながら、1頭のうちに不妊・去勢手術を行っていくことが必要です。しかし、きりがない。猫が1年に20頭のペースで増えることを知らない人も多いので、その実態を知ってもらって、飼う時に気をつけたいことや心づもりを多くの方に周知していきたい。増やしすぎないために補助金があるわけですし、大前提として飼い主が最後までしっかり面倒を見ることが、当たり前だけど大切なことですね。
[参考リンク]
不妊去勢手術費用の補助|新潟県
村中:新潟県の場合は「致死処分数」といって、収容中に亡くなってしまった動物も含めての数字を出しています。全国の統計の中では引き取り件数は多い方ですが、依頼があってもすんなり引き取るわけではありません。基本的には一緒に暮らしていた家族である以上、新しい飼い主探しをしたり不妊・去勢手術をしたりと、基本的にやれることはやっていただくようお願いしています。全部こちらがお膳立てして引き取ってしまうと、本人の反省が促せませんから。全体の意識を変えていくことを目指して、私たちは活動しています。
家族である動物とともに
災害時にどう逃げるか・過ごすか
長岡市のガバメントクラウドファンディングで集った資金をもとに動いている「殺処分ゼロ」プロジェクト。毎回、目標金額の100%以上が集まっており、世の中の動物愛護への関心の高さが伺えます。前回のクラウドファンディングでは200万円の目標に対して、300万円が集まりました。当初の予定通り、不妊・去勢手術の補助金に200万円を使用しましたが、残りの100万円で何をしているかというと、ペットとの同行避難の体制作りを進めています。
1995年の阪神・淡路大震災では、9000頭以上にのぼるペットの被災が話題になりました。長岡の人々の記憶に残り続ける2004年の新潟県中越地震でも、5000頭以上の被災が報告されています。2011年の東日本大震災では、ペットとともに避難所に入る人が多くいましたが、その際に生じる不都合やトラブルも多く聞かれました。日本列島ではこの先もさまざまな災害が予想される以上、そうした事例や経験にもとづいた知見を蓄積していく必要があり、いざという時の避難についても、時代に合わせたアップデートが必要です。長岡市としても、獣医師会と市町村の担当者を集めて動物愛護センターで勉強会を開くなど、実際の課題に向き合いながら、少しずつ検討を行っています。
村中:東日本大震災のとき、私は福島県の鳥獣保護センターで働いていました。妻の実家が避難区域にあたる飯館村だったので、福島県本宮市にある自分の六畳間のアパートに、祖母、義父と義母、義姉、妻、震災直後の3月13日に生まれた息子の7人でぎゅうぎゅうになって暮らしていたんです。さすがに狭かったので義父と姉が「避難所に行ってくる」と言って出て行ったのですが、避難所ではプライバシーもなく、いろいろとストレスがかかりますから、半日も持たずに帰ってきました。避難所に動物を連れて行くとなるとなおさら、トラブルを避けるため事前にある程度の議論や取り決めをしておくことが必要です。
小池:2004年の新潟県中越地震のときは道路が寸断され、住民はヘリコプターで避難できたものの、動物たちが取り残されていました。動物たちを救おうと、民間の動物愛護家や新潟県獣医師会、新潟県中越動物愛護協会、中越動物保護管理センターの職員の方々と一緒に奮闘しました。プレハブやテントをたてて避難させ、集まった犬猫の世話をボランティアたちで行いました。
2007年には中越沖地震がありました。現在の長岡市域(当時は合併前だった与板町なども含む)や上越市、三条市などで多くの方が被災しましたが、避難していた人は体育館で寝泊まりし、猫は体育館の階段・廊下で、犬は体育館の駐車場に立てたプレハブで管理してもらいました。この事例では、被災したことはもちろんショックだけど、同行避難した犬や猫が心の支えになったという側面があります。
応急仮設住宅に入居されている住民の方々からの要望として「ペット対応の公営住宅の整備」があがったこともあって長岡市の公営住宅である長倉団地と稲葉団地の一部にペット飼育可能な部屋ができ(長倉団地は2006年、稲葉団地は2009年頃から)、避難してきた人たちも多く入居しました。公営住宅でトラブルや、飼い方の問題があるとよくないので、私たち動物愛護協会がサポート役として入り、長岡市の環境業務課と連携しながら周辺の方とのコミュニケーションを行っています。
震災は動物愛護精神が民間にも広がったきっかけでもあります。新潟県中越地震のときは山古志の牛や錦鯉もヘリコプターで救出し、畜産農家などが積極的に協力してくれて、面倒をみて命をつなぎました。被災時の動物保護について、それ以前はノウハウがほとんどなかったと思いますが、実践の中でさまざまな事例を作ってきた新潟県は、動物保護管理に関して全国のモデル地域とも言えます。
[参考リンク]
ペット同行避難の受入れ|環境省(PDF)
佐藤:動物と一緒に避難する方法や場所について認識は確かに変わってきていて、地域防災計画でも、同行避難ができる避難所とできない避難所をしっかり分けて、できる避難所ならペットの居場所をどこにするかなど、長岡市は細かく考えている。ペット同行避難を想定した避難訓練も実施予定と聞いていますし、熱心に取り組んでいると感じます。
村中:環境省も、「何がなんでも避難しなさい」というよりも、自宅で安全が確保できるのであれば自宅待機も選択肢として検討するようになり、考え方も少しずつ変わってきていると思います。災害直後の混乱期にはペットを手放したいと思う方も出てくると思いますが、そうした飼い主の方をうまく支援し継続飼育を続けてくれれば、それも災害対応のひとつです。時間が経つにつれて震災を体験していない行政の人たちも増えているので、災害に備えてみんなでイメージを共有し、現実にできること・できないことを考えないといけません。そうやって考える机上訓練などの機会を事前に作っていくこと自体が大事だと思います。
人もペットも長寿になる時代、
健やかな未来のために何が必要?
小池:このセンターができてからは殺処分も非常に少なくなったし、犬や猫の飼い方についてもここでいろいろ教えてもらえます。動物と一緒に暮らしていくにあたっては、自分だけで何もかも抱えてはいけません。介護が必要になってくると一頭あたりそれまでの何倍も手がかかるし、ただ餌をあげていればよかった若い時とは、飼い主の労力も変わってきます。ご飯を食べないと心配になるし、違う方法を試してみたり、病院に連れて行ったり。人間だって、人生100年とは言っても歳を取るとどうしても体に変化はでてくるし、犬も猫も寿命が延びていますから、自分と動物の20年後を考えながら飼う必要があります。
村中:センターでも、65歳以上の方は譲渡の際に後見人を立ててもらいます。また、若い方でも例えば交通事故に遭ってしまうとか、病気の発症で飼えなくなったというケースもありえます。どなたに譲渡する際も家猫は計3頭までとルールを決めていますが、これは災害時に同行避難するとなっても、独力では3頭までが限界だという認識からです。自分が面倒を見られなくなったときに、助けてくれる誰かや相談できるところ、協力を仰げる人を日頃から考えてもらうのが第一ですね。
村中:譲渡だけに限らず、子どもたちと動物の触れ合いの機会を設けたり、飼い方・しつけ方のフォローアップを行っています。愛犬飼育相談室では犬と一緒にセンターにきてもらって、ドッグトレーナーが一緒に困りごとや悩みごとを解決します。このようなイベントは、センター出身の動物でなくても参加できますよ。
小池:集合住宅で生活している子どもたちは動物を飼えないことも多いですし、こういう場所での触れ合いの機会を活用してもらえたら。動物とのふれあいを通じて命の大切さを体感することで、心豊かに育ってもらえると嬉しいですね。
私たち人間も、犬も猫も、もちろんその他の動物も、みな地球で暮らす生き物です。一時の「かわいい!」という感情だけで飼うのではなく、飼い主の義務である終生飼育のもと、お互いが健やかな関係を築いていけるよう、少し先の未来を考えながら動物との生活を描いていくことが大切です。例えば犬には普段から迷子札、鑑札や注射済票、マイクロチップの装着などを行うこと、猫も不妊・去勢手術の実施やマイクロチップの装着などを行うことなど、ひとりひとりの飼い主の意識向上も、もちろん大事。とはいえ、独力では何をすればいいか、どこから手をつければいいか、わからないという人も多いはず。飼いはじめてみれば、それ以外の悩み事や疑問点もきっと生まれてきます。そうしたことの助けになってくれるのが、新潟県動物愛護センターの方々です。少しでも多くの動物と人間が気持ちよく共生できるように日々活動する、頼れるスペシャリストたち。その活動をぜひ知って、困ったときには気軽に力を借りてください。
Text&Photo:八木あゆみ(「な!ナガオカ」編集部)
新潟県動物愛護センター
住 所
長岡市関原町1丁目2663-6
電話番号
0258-21-5501