田舎で生きる。田舎で働く。
田舎暮らしのインターン。
田舎で暮らしてみたい。農村生活を体験してみたい。そんな声に応えてくれるのが、Iターン留学にいがたイナカレッジ。公益社団法人が運営する、農村生活の実践型インターンシッププログラムです。中山間地域の山や畑、田んぼが学校。先生は、ムラでの暮らしに精通している匠たち。有機農業を営む農家や、農家レストラン、和紙づくりのプロフェッショナルや、山での暮らしを教えてくれるマタギなど、さまざまな匠のもとで、これまで約40人のインターン生たちが農村生活を体験しています。「都内から来てくれる人もいれば、地方都市からイナカレッジの存在を知って問い合わせをしてくれる人もいますね」。事務局の日野正基さん(28歳)は、イナカレッジの立ち上げ当初から関わり、運営に携わる1人。「集まってくるメンバーの中には、学生もいれば、社会人経験者もいる。みんなそれぞれ個性があって、面白いメンバーばかりですよ」。
「生きる力」をつける場所。
ずっとこの地で生まれ育ち、先祖代々の土地を守り続けている「匠」たちに、インターン生が教わっているのは人間本来の生きる力。「みんな1年間も過ごすと、顔つきも変わり、たくましくなります」ムラの人々の生きる力が分かる象徴的なエピソードがあります。「新潟県中越地震の時に孤立してしまった集落があったんです」。3日間、救援物資が届かない状態が続いても、その集落ではまったく食料に困らなかったそう。一方で、避難所ではあっという間に食料が少なくなり、多くの人が不安な思いを抱えていたのだとか。「自分たちで食べるものを、自分たちでつくる。昔の日本人はみんなやっていたはずなんですけどね」。日野さん自身、山菜とりや田んぼの手伝いで、ムラに足を運ぶこともあります。「一緒に作業をしてみて驚いたのは、ムラの人たちの動きに無駄がないこと。先に僕の方が疲れちゃうくらい」。
応募ゼロからのスタート。
イナカレッジ事務局が担うのは、集客やプログラムの内容づくり、メンバーや受け入れ先のフォローなど運営に関わるすべての業務。立ち上げ時、もっとも苦労したのは集客の部分でした。今でこそ、定員が埋まるまでになりましたが、はじめはまったく応募が集まらず、なかなか定員に満たない時期が続きました。「応募ゼロが続いたときは大変でした。でもゼロをイチにしていく、その過程がいちばん面白いと思うんです」。スポーツでも弱いチームを応援したくなるタイプ。曰く「はじめからメジャーなものには、あまり惹かれない」。まだメインストリームになっていない小さな種を拾い上げて、育てていくことに喜びを感じるのだそう。イナカレッジの活動は、まさに日野さん自身がやりたいことに直結していると言います。「大学時代から、ムラでフィールドワークをしていたんです。そこから町づくりや町起こしに興味を持つようになりました」。
消える集落を、救え。
イナカレッジの、もう一つの大きな目的。それは、交流人口を増やすこと。「このまま何の手も打たなければ、消えてしまう集落もあるんです」。「移住してくれなくてもいい。でも、少しでも興味を持って、ムラに来てくれる人が増えるといいと思っています」。新潟県中越地震後に、ムラを出て行った人も多く、集落の高齢化も進んでいます。実際にいくつもの集落をたずねていた日野さん。ある時、耳を疑うような声を聞きました。「あるおじいちゃんが、地震は大変だったけど、起きてよかったのかもしれないって言ったんですよ」。地震が起きたことで、たくさんのボランティアの人がムラに来てくれたこと。そこから新たな交流が生まれたこと。「地震を経験したことで、それぞれの集落の受け入れの力が強まったんです」。一般的に、ムラ社会というと閉鎖的なイメージを持たれてしまいがちですが、長岡の中山間地域には、人を受け入れる器がすでにできています。「この強みを活かせば、もっともっとできることがあると思うんです」。
雇用ではなく、価値観をつくる。
発足して3年。イナカレッジの取り組みが少しずつ軌道に乗り始めた今、日野さんが考えているのは新しい価値観をつくること。移住する人を増やすためには、当然、新たな雇用をつくることが必要になります。「でも、それは既存の価値観ですよね。会社に縛られない生き方を選ぶ人も増えている時代。雇用をつくるよりも、新しい価値観を発信していかなければいけないと思うんです」。多くの人が農業を営んでいた時代は、いわば全員が自営業。産業が発展するにつれて、会社が生まれて、雇用する側、される側の立場が生まれていきました。「その価値観も、今崩れつつあると思うんです。一つの仕事に絞らずに、いろんな仕事を組み合わせる働き方があったっていい。たとえば、農作業の手伝いをしながらフリーランスでライターの仕事、デザインの仕事を受けたっていい」。日野さんの言う“新しい価値観”には、イナカレッジがさらに飛躍するヒントがつまっています。
イナカレッジ 日野正基さんの志
長岡の可能性を広げる。
長岡は、タレントがすごく多い場所だと思っています。土地の魅力、人の魅力、まだ知られていない“タレント”を掘り起こし、長岡の魅力を発信していくことが、僕たちの役目だと思うんです。“タレント”を輝かせて、長岡のいろんな可能性を引き出せるようになりたいと思っています。
(イナカレッジ事務局 日野正基)