地域のみんながチームメンバー。下々条町内会の「奇策なき」まちづくりに地域再生の光明を見た
分断されてしまった地域を
「楽しさ」でつなぐ
——納涼祭、すごい盛り上がりですね。下々条町内会のこうした活気は大竹さんが会長になって5年ほどでかなり形作られてきたということですが、そもそもそれ以前はどういう地域だったんでしょう。
大竹祐介さん(以下、大竹) 私はもともとこの地域の生まれ育ちで、小学校や中学校には往復一時間ほどかけて通っていました。当時は農家さんばかりだったので、田んぼに囲まれた道を歩いて登下校し、そこらの家の柿の木をもいで食べて怒られたり、野原で火遊びをして怒られたり……していました(笑)。まあ、どこにでもいる悪ガキでしたが、ちゃんと怒られたというのは、地域の人たちが子どもたちを見守ってくれていたということなんですね。怒るほうも怒られるほうも、相手が誰だかわかっていた。それだけ、地域住民の距離が近い町内だったんだなと思います。
——そのうち、近隣の企業勤めの方たちが主に住むような新しい住宅街ができて、まちに大別して二つの文化圏が混在するようになったんですね。
大竹 はい。私自身も一時長岡から出て暮らし、戻ってから家を構えたので、その新興住宅街の住人になりました。そこで初めて、地域が完全に分裂していることに気づいたんです。古くからの住民と新しい住民の交流は皆無だし、町内会の運営に関しても、当然、新しい住民の意見は通らない。だから、一時期は新しい住民だけで「町内会を脱退しよう」という話まであって……あ、苦笑してる人もいますね(笑)。私は古い地域のことも知っていますし、「これではいけないな」と思って。新しい地域のほうから古い地域に入っていく、その仲立ちをしようと思って町内会長になったんです。
——とはいえ、世代や生活スタイルも違えば、大事にしているものも違う人たちが「はい、交流しましょう」と言っても、いきなりは難しいですよね。そのあたりはどのように?
大竹 自分の子ども時代を思い返すと、地域のお祭や行事がとても楽しかったんです。しかし、今やその担い手もいなくなり、子どもも大人も楽しく集う場がない。だったら、もう一度それを作ってみたらいいんじゃないか。そう思って、まず「昔のようにお祭をやってみましょう」とか、「地区のお花見を再開しましょう」という提案から始めたんです。楽しいこと、おいしいものを食べることといったシンプルなことを核にして、地域の交流を図ろうということですね。
——運営や準備が大変で地域のお祭が廃れてしまうということは全国各地で起こっていますよね。いっぽう、今日の納涼会には本当に老若男女さまざまな人が集まって、それぞれ出店をしたり、準備に力を合わせています。イベントをただやっても特定のメンバーしか集まらなかったりして、なかなか開けた場にならないことも多いですが、この町内の何が、ここまで賑やかにさせているんでしょう。
大竹 昔はうちの町内でも、例えばカラオケ大会では各地区の班長が絶対に歌わないといけないとか、必然性がない慣例もたくさんあって負担に感じる方が多かったので、そういうルールは無くして、多くの人が楽しめる部分だけ残しているんです。自分がまず来たくなるような場にしないと、人は集まらないですからね。
——「自分ごと」にできるような工夫ということでしょうか。
大竹 はい、それはイベントに限らず心がけています。下々条町内会では、私が会長になってから町内会誌をリニューアルして、毎月の町内会費がいくらで、予算を何に使ったかなど、すべての収支を掲載しています。うちの町内は年間8,000円の町内会費を納めていただいていますが、これまでは用途がわからず、誰もが疑問を持っていました。ただその中身を明らかにしただけなんですが、それによって町内会が信頼してもらえるんですよ。
——内訳を見ていると「防虫・ゴミかご」「防犯灯メンテナンス費」など細かい費目があり、これを見れば「自分たちのまちは、これだけ細かい仕事で回っているんだ」ということがわかりますね。それが自分たちのお金で動いていることを意識すれば、自分もこのまちを作っているのだとわかる。地域の成り立ちが見えるようになれば、そこに参加しようという気持ちが生まれる。これは立派な市民参加の仕組みですね。
大竹 やってることは普通のことなんですけど、皆さんが納得して地域に参加してくれるようになったことで、結果的に若い人と先輩たちの距離も近くなりました。お祭をやるのにも「あの頃はこうだったんだよ」という話をお年寄りに聞くことができるようになったし、皆さんも「地域がにぎわって子どもたちのためになるなら」と進んで協力してくれる。今まで話をしようとしていなかっただけで、話してみたら地域のことや暮らしのことなど「こんなに豊かな知恵を授けてもらえるのか」という驚きを、若い世代も感じたと思います。
対話を重ねて作り上げる
「いい空気」の流れる風景
——ここで、永田さんにもお話を。永田さんは下々条町内会が信濃川の河川敷に所有している土地に作った「みんなの農園」を管理されています。この農園も、大竹さんが会長になってからこの形になったんですよね。
永田孝一さん(以下、永田) はい。えーと……すみません、マイクを持ち慣れないものでね。カラオケならよく持つんですが(お客さん爆笑)。
——歌のステージのつもりでお願いします(笑)。
永田 河川敷の土地はもともと畑でしたが、それまでは誰がどこを区分所有しているかもわからず、管理にもお金がかかるしということで、草ぼうぼうの土地も多くなっていたんです。それを町内会に相談したところ、大竹さんが役所で謄本を取って調べてくれました。そうしたら、えらいことになっててね。
大竹 そんなに広い土地でもないんですが、区分所有者が88名もいたんです(笑)。町内が代表所有ということで、固定資産税も町内が払っている。なのに以前の会計の資料もほとんど残っていなくて、お金の流れを遡って調べることもできないし、お手上げ状態でした。所有者の組合も残っていることは残っていたんですが、「もう、何もしなくていいよ」という方が大半だったんです。そこを、永田さんが頑張ってくださって。
永田 放置された土地をどうすればまた作付けし、生きている土地にできるかという話し合いを重ねました。その結果「みんなの農園」ということで、地域の若い人や子どもたちに新しく貸して、農作物を作ってもらう場にしようと。今日この場に出ている枝豆も、皆さんが春から一生懸命育てたものなんです。おいしくできてますよね。
この7月には、蕎麦も植えたんですよ。秋には刈り入れをするので、地域の皆さんにも手伝っていただきながら、その収穫でみんなで蕎麦を打とうと思っています。自分たちの刈った蕎麦を自分たちで打って、食べる。これを地域のみんなでできるのは、最高じゃないですか。
大竹 いま、15世帯と2団体に土地を貸し出しています。普段は会わないご近所さんとも、畑に草むしりに行くと、ご家族で来ているところにバッタリ会って話が弾んだりする。そういうの、楽しいじゃないですか。(会場から「楽しいですよね!」と声が飛ぶ)。こうなるんだとわかれば、これまで手が回らなくて土地を荒れるに任せていた人たちも、「じゃあ、町内に貸してみようか」と思えるようになってくる。健全に活用される土地が増えれば、みんな喜ぶわけですよ。
永田 最近、畑で若い子ども連れの親御さんの姿を見ることが増えました。ピーマンやオクラなど作物の絵を描いた看板が立っていたり、その前で子供を遊ばせながらお母さんが「ほら、これがピーマンだよ」と教えていたりする。私は長いこと畑をやっていますが、今ほどあの場所にいい空気が流れているときはなかった。その中で育てた作物を子どもたちが食べる。最高の食育だと思うんです。
——食育というのは、単に食べ物の知識を得ることだけではないですものね。その作物が生まれた土地のこと、作物や料理を作った人のことを意識することからも食育が始まるわけですから。子どもたちが、自分たちの暮らす土地のことをいろいろな角度から知る機会が、この町内にはたくさんあるのだと思います。
今日は子供会の皆さんもお越しになっていますが、子供会と町内会はどのような関係にあるんでしょう?
西原亜希さん 子供会と町内会は別の組織なんですが、最近は町内会さんと子ども神輿や、年間行事をご一緒するようになりました。一時期途絶えていた昔からの行事が、昨年から復活しまして。町内会に運営の仕方や人の集め方などご協力いただき、最終的には140人という規模で子ども神輿を復活することができました。
河田里華さん 私は子供会のお祭り担当なんですが、町内会と同じで、やはりこれまでの引き継ぎ資料がまるでなかったんです。どうにもできないので、「これは町内会長さんに相談だね」となって。下々条は子どもがすごく多いので、子供会の役員たちも「子どもが楽しめることをやりたい」とは常々考えているんですが、エリアもすごく広いですし、マンパワーにも限度があるので、新しい取り組みをする余力がなかったんです。そのあたりを助けていただきました。
大竹 何をしたというわけでもないんですが、とにかく対話をしました。これまで、町内会は子供会に毎年補助金をポンと渡して終了で、それ以上の関わりはしてこなかったんです。それは老人会など他の会も一緒で、お金を渡したら終わり。行事も完全に別で交わることはなかったんですが、それを話し合うようにして。「今年はこういうルートでお神輿をしたいんですけど」「じゃあ町内会はこの部分でお手伝いをしますよ」とか、子供会のできないことを町内会がカバーするというふうにしました。やはり、対話をしないと相手のことはわからないし、何も始まらないですね。
——ある意味、イベントごとはその対話のきっかけとして存在していると。
大竹 「一緒にやろうよ」と言っていたら、自動的にそうなりますから。老人会にしてもそうです。実は私、最初は「老人会をいじめる悪い会長だ」と思われていた節があるんですよ(会場爆笑)。収支の可視化もそうですが、いろいろな仕組みを新しくしていったので。ですが、地域の祭や花見を先輩方の知恵を借りながらやっていくうち、話をする機会もできる。そうすると、そのうち「この前の花見、楽しかった。またやろう」と言ってくださるようになるわけです。
永田 ここ数年、町内の雰囲気が以前と全然違うんですよ。恥ずかしながら私も以前は町内会の副会長をしておりましたが、その当時と比べても、今の役員の方たちはよくやってくれていると思います。
昔の町内のお祭では、結婚などで外に出ていった女性たちがその日に里帰りしてきて、振袖でお披露目をしていたんです。親御さんも正装をしてね。「ああ、あそこの娘さんはお嫁に行ったんだね」と、地域のみんながわかる。子どもが生まれたら連れて帰ってきて、またそのお披露目をする。祭りはそういう場でもあったんですね。そんな場が絶えて久しかったですが、今またお祭が復活して、昔とは違う形であっても地域のみんなが互いにつながれる場になっているのは素晴らしいことです。
大竹 下々条では、お祭の日には里帰りした娘さんを囲んでみんなでお客をする(お客をもてなす)習わしがありました。それも祭りと一緒に絶えていたんですが、最近、スーパーの「原信」さんから「下々条のお祭の日にはお赤飯やオードブルがよく売れるんですよ」とご連絡をいただいたことがあって。お祭の日に里帰りをしたりお客をする文化が、また復活しているようなんですね。「お孫さんを連れてお店に見えるお年寄りが多いんですよ」と聞いて、やっててよかったと思いましたねえ。祭の現場にもお孫さんの手を引いてきてくださって、「昔みたいで楽しいなあ」と言ってくださる。こんな嬉しいことはないですね。
「楽しさ」は自分のためでなく
「みんな」に返すためのもの
——多岐にわたる町内会の仕事ですが、役員は大竹さん以外に何人いらっしゃるんですか?
大竹 全員で5人です。会計担当の副会長・森山芳子さん、防災担当の副会長の山岸英樹さん、環境整備担当の齋藤亮さん、お祭り担当の北村友和さん。それぞれ仕事もある中で、そのプロフェッショナルな現場の知見を町内会の運営にいかしてくださったり、つながっている人を紹介してくださったりと、すごく頼りになります。この下々条町内会もありがたいことに取材などを受けるようになり、どうしても私が目立ってしまいますが、私だけでは何もできないんです。
——まちには、実はあらゆる得意技を持っている人がいるんですよね。「木を切るのがすごく上手」とか「福祉関連の知識が豊富」とか。ですが、ほとんどの地域ではそもそも日常のコミュニケーションが不足していて、近隣の人の得意技はおろか、どんな人が住んでいるのかすらわからない。だから、その力も生かせない。その部分が、この下々条ではクリアできつつある。単純なことに見えますが、多くの地域でできていないのはなぜだと思いますか?
大竹 そうですね……。私が最近、よそで下々条の取り組みについてお話しする際、たいていは懇親会などで地元の顔役的な方が「いやー、いい話だったね!でも、うちじゃ無理だね!」と言って終わってしまうことがあって。その人が帰ったあとで若い人に話を聞いたら、「あの人がずっと上にいるからできないんですよ」という話だったり……。もちろん、経験豊富な先輩がいることはいいことですが、経験が自分たちを縛るものになるくらいなら、頼りなくてもいいから若い人に任せて、新しく「試す」ことをやったほうがいいと思います。試して、失敗して、経験をみんなのものにしていけばいいんですよ。自分を守るためじゃなく、子どもたちの世代を守るためなんだから。
——「みんなの」という言葉が出ました。「みんなの農園」「黒条みんなの食堂」と、この下々条では、「みんなの」がつく取り組みが多いですね。「子ども食堂」といった一般的な名ではなく、「みんなの」。このように呼んでいるのはなぜですか?
大竹 その前に、「黒条みんなの食堂」は町内会の活動とはまた別で始めた、個人プロジェクトなんです。町内会の予算ではできないので。
もちろん、いわゆる「子ども食堂」的な役割もあります。でも、重要なのは、ここは子どもだけじゃなく、子育て世代の親御さんたちとも対話をする場なんです。皆さんの困り事や要望を聞きたいと思っても、町内会がお願いするだけではなかなか答えてくれない。でも、食を通してならできる。みんなおいしいものも楽しいことも好きですから、機会さえ作れば集まってくれる。これまで、その機会がなかっただけなんです。そういう場所でみんなの望んでいることを聞いて、「じゃあ、お祭を復活させよう」というふうに町内にフィードバックする。それは老若男女、みんなのための場所になります。そりゃ私も祭は楽しいですけど、私の楽しみのためじゃなくて、あくまでもみんなに必要なものを、みんなが楽しめる形でやりたいんですよね。だから「みんなの」。
——なるほど。他に「みんな」でやっている活動はありますか?
大竹 草刈りですね。これまで、草刈りも町内会と子供会でバラバラにやっていました。町内会は環境美化、子供会は公園のラジオ体操スペースの確保のためなんですが、うちの副会長が「一緒にやりましょう」と声をかけて、連携を始めてくれました。
——私が子どもの時は草刈りや廃品回収といった地域活動は「面倒だなあ」と思いながら参加していたものですが、大人になってたまに地元に帰ってみると、風景の中にそうした活動の記憶が鮮明に残っていたりします。
子どもは子どもで勝手に自分の思い出の風景を作りもしますが、お祭やこうした草刈りなどを通じて、それを少しでも増やしてあげるという、行政っぽい言い方をすると「愛着形成」みたいなことの手助けも、大人の仕事なのかもしれません。
自発的に地域活動に
関わる大人が増えてきた
——こういう会合の場はなんとなくかしこまってしまいがちですが、この下々条では会場を縦横無尽に子どもたちが駆け回っているのもいいですね。
大竹 子どもの頃は「なんで大人たちは、あんなに飲み会ばかりしてるんだろう」と思っていたんですよね。その後、自分がまさに飲み会ばかりする大人になって(笑)わかったことですが、地域の飲み会は大人だけの場じゃなくて、こうして子どもたちも一緒に……お酒は飲めないけどスイカを食べたり焼き鳥を食べたりするのがいいですね。老若男女がわちゃわちゃ一緒にいるうちに「ああ、あそこの家の子だね」とわかるし、子どもから見ても、知らない大人が「ちょっと顔を知ってるおじさん」くらいにはなりますね。そうすると、次に会ったらもう無視するわけにもいかない。例えば何か災害があったときに、近所のおじいさんの顔が浮かぶと「ああ、あの人まだ家にいるんじゃないか」なんて気にかけることにつながり、人命が救われるかもしれないわけです。
この町内には、1000世帯ほどが暮らしています。高齢者や障害のある方は災害の際に支援が必要ということで、役所からリストが町内会や消防団などに配られます。ですが正直、地域の規模が大きすぎて、いざという時に我々だけで助けるのは無理なんですね。だから、住民間が相互に助け合える雰囲気を作らなければいけない。防災担当の副会長である山岸さんは、まさにそれを実践してくれています。
山岸英樹さん (会場の拍手を受けながらマイクを持つ)特に変わったことをしているわけじゃないんです。希薄化するコミュニティの中で、隣に住んでいる人のことすらよくわからないという人も多いですが、基本的には隣近所だけでも顔見知りになってもらうこと。それこそ「一緒に飲もうよ」って言ったりね。そうやって、どこの家にどんな人がいて……といった情報をお互いに知ることから、いざということにお互いの助け合いが生まれると思っています。
大竹 簡単に言ってますが、山岸さんは新興住宅街に新しい人が引っ越してくるたびに自分の家で飲み会を開くということを、ずっとやってきてくれたんですよ。そこから発展した「おやじの会」というLINEグループがあるんですが、これがすごくて。「道に手袋が落ちてたよ」と誰かが画像を送ってきたら「これくらいのサイズの子供がいるのはあそこの家じゃないか」といったやりとりがすごい勢いで生まれて持ち主に辿り着いたり、大雪の日に「あそこの屋根が潰れそうで、通学路にかかっているから危ないね」という話になれば、翌朝にはみんなが集まってきて雪を下ろしてくれる。単に男たちだけで飲んだくれているわけじゃなく、みんなが積極的に地域にコミットする文化が自然とできているんです。
——地域づくりに魔法はなくて、日々のコミュニケーションが全てなんですね。ただ、そういった飲み会や、地域の祭り、またはこういう会に出てきてくれる人たちであればいいですが、例えばひとり住まいの方だとなかなかきっかけがないし、そもそも人とワイワイやるのは好きじゃないという人もいる。そういう人たちには、どうリーチするんでしょう?
大竹 「みんなの食堂」はそのきっかけになるんじゃないかと、最近は思っています。もともと親子連れがメインでしたが、最近そこに、単身者のお年寄りや、障害のある方がひとりで来てくださるんです。そういう方とはなるべく話をするようにしているので、少し遅い時間に来たら「今日はお仕事、忙しかったですか?」とか些細な話をしているうちに、日々の困りごとだったり、いま考えていることを話してくれるようになる。そこで初めて「今度、町内会でこんな催しをやるんですが、来ませんか?」とお誘いできるんですよね。アプローチはなかなか簡単にはいきませんが、なるべく接する機会を増やすしかないんです。
——誰もが安心して心の内を話せる場があれば、まちの生きやすさや、ひいては安全さの向上にもつながる。そういう意味では、「まちづくり」は「居場所づくり」とも言えるのかもしれません。
大竹 そうかもしれませんね。人と人との間の無関心によって断絶が生まれてしまうので、それを少しでも少なくしていければ。
——大竹さんは一見派手に見えますが、そういうベーシックなことを大事にしてきたからこそ、下々条の盛り上がりがあると言えます。とはいえ、このまま大竹さんがずっと町内会長を続けるわけにもいきませんし、大竹さんがいなくなったらすべてが無になってしまうようでは、サステナブルな地域づくりとは言えませんよね。その点はどうお考えですか?
大竹 そうなんですよ。ずっと私が居座っていてはよくないのは確かです。
そこで、町内会に青年部というのを新たに作りました。これまで子供会と老人会はあったけれど、その間の現役世代の集まりがなかったもので、組織的に子どもとお年寄りの間をつなぐ仕組みがなかったんです。地域活動の人手も足りなかったし、消防団を卒業する人がいても「次、頼むわ」という相手がいなかったりして、地域に継続性が生まれにくかった。それで、そこにいる池田くんに音頭を取ってもらって、青年部を組織したんです。彼は町内の誰もが知る人気者なので、若い人を巻き込んで楽しいことを企画してもらいたい。若い人には「なんだかおもしろそう!」と思って町内会と関係を持っていただき、そのうち町内のことに関心が出てきたら、町内会の役員にでもなってもらえれば。楽しさがベースにないと、続かないですからね。
池田さん 町内会の役員の仕事量はすごいですから、それを少しでも肩代わりできるといいなと思ってお引き受けしたんですけど、本当に大変ですね(笑)。それでも、この場所に根を下ろして暮らしているもの同士が顔を合わせて腹を割って話すことで、少しずつでも何かが形になっていく。その時間を一緒に過ごしていくことが、こんなに有意義なんだな……と改めて感じています。
(会場の声)50代後半の人は青年部と老人会、どっちに入ればいいんですか?
池田さん ぜんぜん青年部に入れます!(会場、笑)
大竹 青年部では来週も「水かけ祭り」というのを企画しているんですが、若手の中でもすでに「池田さんの手が回らなかったら僕が動きますよ!」と言ってくれる人がいて。自主的に動く人が増えているのは、とても希望が持てます。
発言や意見が止まらない!
これぞ「まちのミーティング」
——義務感や決め事によって嫌々ながら参加するのではなく、また面倒は他人に任せておけばいいやというのでもなく、自分なりの動機を見出して地域に関わっていく人が増えてくれば、確実にまちの景色は変わっていきますよね。せっかくなので、地域の皆さんにももっと何かを聞いていきましょう。この地域にほしいもの、考えていること、何かありますか? ……おお、会場からこんなに手が挙がる。すごい!
木嶋さん ここって、市の中心部から少し遠いじゃないですか。「まちキャン」(まちなかキャンパス)とか「ミライエ長岡」の図書館のような、中学生や高校生が集まる場所が少ないなと感じていて。お金を払わなくてもいられる場所があることって、彼らには大事なんですよね。そんな子たちが、この公民館を活用して自習ができるようになるといいなと思うんです。
——それは、すごくいいですね。都市空間では近年どこにいるにもお金が必要になってきつつあり、非常に不自由だなと思うことがありますが、生活の場である地域には、自習なり、おしゃべりなりができる、いわば「溜まり場」のような場所が必要だと思います。
木嶋さん この公民館がそんな場所になったら、私が館長をしてもいいかなーと(満場の拍手)。こういうことも役員さんたちに言ったら実現しそうな雰囲気があるのが、今の下々条町内会なんですよね。
大竹 実は、今年になって、公民館のシャッターとドアを変えたんですよ。ここにスマートロックを導入して、私や町内会の役員にLINEで連絡をくれれば、遠隔で鍵が開けられるようにしようと思っています。使いたい人が、使いたい時に使えないと意味がないですから。だから皆さん、この公民館でやりたいこと、町内でやりたいことをどんどん提案してほしいです!
大橋興治さん バーベキューやデイキャンプができる場所がほしいです。火を起こせて、煮炊きができる場所があれば、子どもたちにもいい体験をさせてあげられると思うので。
永田さん 実は、「みんなの農園」の近くに広い土地があるんですよ。あそこでキャンプ場なんかにできないかなという話はあるんです。
大橋さん おお!
永田さん あそこは長岡市じゃなくて国土交通省の管理だから、どうやって認可を取るのがいいのかな。ちょっと相談しましょう。ただ、トイレなんかも必要だよね。
大竹 今はレストカーという、休憩所やトイレを完備した車もありますから、なんとかなりますよ。長岡市内の企業も一台持っているはずだから、防災訓練がてらレンタルすることもできるかもしれない。
——すぐにこういう具体的な相談になるのは、ちょっとすごいですね。「できない理由」を探す会話がない。
小川栄一郎さん 私はこういう場にこれだけの人が集まって、活発な意見が出ること自体が得難いことだなと思います。つい5年前に大竹さんが町内会長になって、役員さんや周りのスタッフさんがきっちりサポートして、ものすごく地域が変わってきました。みんな同じ方向を向いて、「楽しいこと」というのを中心に据えて……まあ、酒や食べ物に釣られているところもありつつ(笑)、その先には子どもたちのために地域をよくしていこうとか、誰も取りこぼさない地域にしようという志がある。
そのベクトルが一緒なので、なんというか、無理がないんですよね。
——「無理がない」、すごくいい言葉ですね。「まちづくり」という言葉は堅苦しい割に曖昧模糊としていて、ちょっと自分と接続して考えられない部分がありますが、そうでなくて自分たちが望む地元の姿が明確だからこそ、無理なくやってこられた。その結果が、いまの下々条の姿なのかもしれませんね。
大竹 そうですね……子どもたちのためというのはもちろん、我々大人のことを考えても、やっぱり未来のためなんですよ。例えば、会社勤めの人で、家や地域のことを妻に任せて仕事ばかりしていて、退職をして肩書きがなくなってしまったら途端に社会からも地域からも隔絶されてしまう方が多い。体感的にも統計的にも、これは男性が多いです。我々は都会の方と違って、一度家を建てたらほぼ一生この場所に住むことが前提になりますから、今のうちにこの地域を、そうならなくてすむ場所にしておきたいんですよ。仕事とは関係ないつながりがたくさんあって、日常的に「みんなで飲みに行くか」「畑でキャンプでもやらないか」なんて言い合える場所になっていれば、我々大人たちにとっても未来は明るい気がします。
地方にありがちな空き家問題もそろそろ出てきているので、考えるべきことはまだまだ山積みなんですけど、「この地域だったら楽しいことができるかな」と思って移り住んでくれる人がいれば大歓迎ですし、これからも、楽しい地域にしていきたいですね。
今日この場だからというのではなく、常日頃からこうした会話が繰り広げられる土壌がある地域なのだという雰囲気に満ちた、下々条町内会のタウンミーティング。このあとも話は尽きず、さまざまな世代の住民たちがビールやジュースと枝豆を囲んで語り明かした。
印象的だったのは、誰もが「自分のため」でなく、「みんな」「子どもたち」「次の世代」など表現は違えど、自分だけの領域の外にいる、けれどその顔が想像できる誰かのために、少しずつ面倒をシェアしながら「こうありたい」地域への流れを作っていこうという思いがあること。行政や民間を問わず、決まり文句のように「コミュニティ」という言葉を使うようになって久しいが、その言葉に必ずしも「実」が伴っているとは言い難い。その「実」とは何かと問うならば、町内会メンバーが語る「誰かのために」の意識なのかもしれない。それを時代に即しながら実践する下々条町内会に、地域再生のひとつの光を見ることができはしないだろうか。
text: 安東嵩史(な!ナガオカ編集部)/photo: 八木あゆみ(な!ナガオカ編集部)