リノベーション人気で大注目! 古材のワンダーランド「井口製材所」
高品質で造形も美しい新潟の古材
「越後古材」をブランドに
カーナビに導かれて井口製材所に到着したものの、どこへ行けばいいやら、あまりに広い敷地で不覚にも迷子に。電話をすると、社長の井口由久さんがすぐに車で迎えに来てくれました。「広いからね、初めて来た人は迷うんです。事務所は道の反対側、まずはそっちへ行きましょう。今日は息子が案内しますよ」と笑顔で先導していただき、事務所へ。「トイレはこことここの2ヶ所。ぜんぶ巡ると数時間かかるけど、ゆっくり見てきてください」と手渡してくれた地図がこちらです。
井口製材所は大正12年創業。当初は建築資材の木材を扱う “ふつうの材木屋さん”でした。新潟にいまも多く現存する古民家の解体に関わった井口由久社長が、太い梁や柱など古材に惹かれて買い取りをスタート。さらに欄間、ふすまなどの建具、箪笥やランプ、器など、ありとあらゆる古物も収集して販売を始め、少しずつ倉庫が増えていきました。
専務の井口達哉さんは社長のご長男。高校卒業後、関東で空間デザインと建築を学び、建築会社での現場監督を経て2年前に長岡にUターンしました。大学在学中から「いずれ会社を継ごう」と考えていたと言います。「もともと家具は大好き。この仕事はほかにない業態で可能性もあるし、おもしろそうだと思っていました。若いデザイナーや設計士のみなさんと一緒に古材の活用法を考えるのは、とても楽しいですよ」
さて、肝心の古材はどのように活用されているのでしょう。ここで、同社の商品の施工例を紹介。写真はすべて井口専務がカメラ機材を担いで現場に赴き、撮影したもの。プロ顔負けです。
井口製材所は2015年に「越後古材」を商標登録し、新潟産古材のブランド化を進めています。「古材が好きで全国を巡っているお客さんが岐阜からいらしたのですが、岐阜の雪は軽いんだそうです。新潟の雪は重いので、それに耐え得る太さ、硬さ、曲がり方がユニークな古材がたくさんあります。1本でインパクトを与えるような個性的な使い方をするなら、新潟の古材がいいとのことでした」
古材が豊富なのは十日町市や六日町。長岡市内では山間の雪深い場所ほど、丈夫で質のいいものが見つかるそう。飲食店の内装など、古材のニーズが多いのは東京を中心とする関東と大阪。「越後古材」は300を超える店舗で使用され、中国やフランスなど海外からも注目を集めています。
映画やTVドラマのクルーも来訪
古材も古物もアイデア次第で大活躍
戦後、大量生産の安価な建材が市場を席巻するようになったため、古材としておもしろいものはそれ以前の建築物に多いそうですが、戦後のものでも状態とアイデア次第。ものづくりのセンスがある人なら、内装や家具など様々な用途に活用できます。
設計事務所やハウスメーカー、アートギャラリー、地元の造形大学の先生や学生も材料を求めて訪れます。また、長岡市内でロケが行われた大林宣彦監督の映画『この空の花 長岡花火物語』の撮影クルーが、シベリアの住まいを再現するための資材を探しにやって来たことも。豪雪地帯で冬場によく見かける「冬囲いの落とし板」(雪の力で窓が割れないように、1階の窓の外側にはめる板)を気に入り、それを使って小屋を作ったそうです。風雪による傷み具合が独特のテクスチャーとなっている落とし板は、什器や家具の材料としても活躍しています。
この映画がきっかけとなり、戦中・戦後が舞台のNHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』のセットに井口製材所の商品が使われることに。「時代の空気を伝え、ストーリーがある古材や古物は、ポンと置くだけでその場の雰囲気を作ります」と井口専務。
「お客さんに喜んでもらえたときが最高に嬉しい瞬間」と語る井口専務。「提案を気に入って、リピーターになってくださる人がたくさんいます。古材は扱いが難しそうという先入観を持っている人も、一度使っていただけたらそうではないとわかっていただけるはず。敷居を下げたいから、価格もウェブサイトで公開しています。
同じ骨董品でも、お年寄りが見る目と若い人が見る目は違いますし、やはり感覚そのものが違いますよね。古材が持つストーリー性を若い人たちに知ってもらうために、若い感覚で提案していきたい。木の知識や経験ではまだまだ社長に敵いませんが、古物については私のほうが勉強を重ねて詳しくなってきたんですよ」
ぜひ一度、井口製材所のウェブサイトを覗いてみてください。商品や施工例の写真撮影、テキスト執筆、ウェブの更新まで井口専務がひとりでこなしていると聞いてびっくり。活用方法の提案が見事な施工例のページも必見です。古材や古民具が買えるネットショップもあるので、古物ファンはまめにチェックを。
一緒に働いてみたい人、募集中!
解体・買い取りの相談も気軽に
関東で学び、働いた経験を活かし、ご両親と一緒に会社を切り盛りする井口専務。その言葉の端々に、仕事へのやりがいと未来への意気込みを感じます。
井口社長は「ウェブサイトが充実してきて、お客さんが増えているのは息子のおかげ。問い合わせが急に1.5倍くらいに増えたんじゃないかな。北海道から九州まで、全国からお客さんがやって来るようになりました。彼は私にできないことをやってくれるから」と嬉しそう。古材の売り上げの9割が県外。ウェブサイトを見て知った人がほとんどで、飛行機に乗ってマニアックなお客さんが次々にやってくるそうです。
「ウェブでの情報発信に古物鑑定の勉強、古民家の移築・再生現場や山に行くこともあり、毎日忙しくて休みなしですが楽しい仕事です」。そんな、いつも多忙な井口専務と一緒に仕事をしてくれるスタッフを募集中。古材、アンティークな家具や道具が大好きで、この仕事に熱意のある人はぜひ!
宝探しに夢中になるうちに時間が経つのを忘れ、ついつい長居すること間違いなし。1時間を予定していたこの取材も優に2時間を超え、お昼過ぎになってしまったので個人的なお買い物はあきらめて、日を改めて出直すことにしました。井口製材所を訪ねるときは余裕を持って出かけましょう。
また、「うちの空き家や蔵も解体して、古材や古道具を買い取ってほしい!」という人も、気軽に相談してみてください。
Text: Akiko Matsumaru
Photos : Tsubasa Onozuka (PEOPLE ISLAND PHOTO STUDIO)
井口製材所
[住所]長岡市不動沢568-1
[電話]0258-92-2357
[営業時間]10:00〜12:00、13:00〜17:00
[定休日]4月〜11月は無休、12月〜3月は土・日曜、祝日定休
[HP]http://echigokozai.com