リノベーション人気で大注目! 古材のワンダーランド「井口製材所」

2016.11.23

新潟、もしくは越後長岡と聞いてイメージするものはなんでしょう。これからの季節だと、やはり雪かもしれません。日本有数の豪雪地帯である越後の雪は、さらさらのパウダースノーではなく、日本海からの湿った風を受けたずっしり重いベタ雪。ここで暮らす人にとっては少々厄介で気が滅入る雪ではありますが、雪国ならではの資源もあるんです。

その中のひとつが、古民家などに使われている古い木材。いま、住居やオフィスのリノベーション材料やインテリアの素材として、全国的に脚光を浴びています。

長岡市不動沢、越路地域にある「井口製材所」は、豪雪地帯の冬を耐え抜いた良質な古材を「越後古材」として国内外に広めている会社。在庫量が日本トップクラスを誇る1万本の古材のほか、古道具や家具、骨董など時代の空気を醸し出す古物全般が揃う同社には、映画やTVドラマの制作スタッフもやって来ます。お会いしたのは三代目で30歳の若き専務、井口達哉さん。東京から長岡に戻って3年目、フレッシュな感覚で古材をPRする井口さんが、“古き良きもの”が詰まった12棟の倉庫を案内してくれました。

 

高品質で造形も美しい新潟の古材
「越後古材」をブランドに

カーナビに導かれて井口製材所に到着したものの、どこへ行けばいいやら、あまりに広い敷地で不覚にも迷子に。電話をすると、社長の井口由久さんがすぐに車で迎えに来てくれました。「広いからね、初めて来た人は迷うんです。事務所は道の反対側、まずはそっちへ行きましょう。今日は息子が案内しますよ」と笑顔で先導していただき、事務所へ。「トイレはこことここの2ヶ所。ぜんぶ巡ると数時間かかるけど、ゆっくり見てきてください」と手渡してくれた地図がこちらです。

02マップ

想像以上に広い! 今日の取材は時間がかかるかも? という予感が確信に。資料提供:井口製材所

井口製材所は大正12年創業。当初は建築資材の木材を扱う “ふつうの材木屋さん”でした。新潟にいまも多く現存する古民家の解体に関わった井口由久社長が、太い梁や柱など古材に惹かれて買い取りをスタート。さらに欄間、ふすまなどの建具、箪笥やランプ、器など、ありとあらゆる古物も収集して販売を始め、少しずつ倉庫が増えていきました。

03井口社長

「古材や古民具にはそれぞれの歴史や物語があり、ヒビやサビ、傷だって味わいです。越後古材は曲がったカタチもかっこいいし、使えるものを処分するなんてもったいない」。古いものの魅力を語り始めたら、もう止まらない井口社長。「エコの視点でも再利用は大切です。自由なアイデアで活用していただきたいですね」

03-1古民家解体

古民家解体の現場には立派な古材がたくさん。1本1本丁寧に処理して再利用します。写真提供:井口製材所

専務の井口達哉さんは社長のご長男。高校卒業後、関東で空間デザインと建築を学び、建築会社での現場監督を経て2年前に長岡にUターンしました。大学在学中から「いずれ会社を継ごう」と考えていたと言います。「もともと家具は大好き。この仕事はほかにない業態で可能性もあるし、おもしろそうだと思っていました。若いデザイナーや設計士のみなさんと一緒に古材の活用法を考えるのは、とても楽しいですよ」

さて、肝心の古材はどのように活用されているのでしょう。ここで、同社の商品の施工例を紹介。写真はすべて井口専務がカメラ機材を担いで現場に赴き、撮影したもの。プロ顔負けです。

新潟名物・笹団子など和菓子を製造販売する、長岡市の「江口だんご本店」2階の甘味処。古民家を再生した空間に広がるダイナミックな梁組みが見事。写真提供:井口製材所

新潟名物・笹団子など和菓子を製造販売する、長岡市の「江口だんご本店」2階の甘味処。古民家を再生した空間に広がるダイナミックな梁組みが見事。写真提供:井口製材所

同じく「江口だんご本店」内、蔵づくりのカフェ「雪甘月」入り口。蔵戸の施工例。写真提供:井口製材所

同じく「江口だんご本店」内、蔵づくりのカフェ「雪甘月」入り口。蔵戸の施工例。写真提供:井口製材所

新潟県南魚沼市にある宿「里山十帖 created by 自遊人」のレストラン「早苗饗 −SANABURI−」。梁のほか、テーブルには蔵戸を再利用。写真提供:井口製材所

新潟県南魚沼市にある宿「里山十帖 created by 自遊人」のレストラン「早苗饗 −SANABURI−」。梁のほか、テーブルには蔵戸を再利用。写真提供:井口製材所

井口製材所は2015年に「越後古材」を商標登録し、新潟産古材のブランド化を進めています。「古材が好きで全国を巡っているお客さんが岐阜からいらしたのですが、岐阜の雪は軽いんだそうです。新潟の雪は重いので、それに耐え得る太さ、硬さ、曲がり方がユニークな古材がたくさんあります。1本でインパクトを与えるような個性的な使い方をするなら、新潟の古材がいいとのことでした」

古材が豊富なのは十日町市や六日町。長岡市内では山間の雪深い場所ほど、丈夫で質のいいものが見つかるそう。飲食店の内装など、古材のニーズが多いのは東京を中心とする関東と大阪。「越後古材」は300を超える店舗で使用され、中国やフランスなど海外からも注目を集めています。

神奈川県鎌倉市のダイニングバー。ワイルドなカーブの梁は存在感たっぷり。写真提供:井口製材所

神奈川県鎌倉市のダイニングバー。ワイルドなカーブの梁は存在感たっぷり。写真提供:井口製材所

神奈川県横浜市のダイニングバー。社寺古材の梁、柱、古建具、照明器具で居心地のいい空間に。写真提供:井口製材所

神奈川県横浜市のダイニングバー。社寺古材の梁、柱、古建具、照明器具で居心地のいい空間に。写真提供:井口製材所

09施工例(関東03)

同じく神奈川県横浜市のダイニングバー。美しい装飾が目を引き付ける社寺古材の梁。写真提供:井口製材所

東京都港区のカフェレストラン。洋風の白い空間の中で、梁がナチュラルな存在感を発揮。写真提供:井口製材所

東京都港区のカフェレストラン。洋風の白い空間の中で、梁がナチュラルな存在感を発揮。写真提供:井口製材所

 

映画やTVドラマのクルーも来訪
古材も古物もアイデア次第で大活躍

戦後、大量生産の安価な建材が市場を席巻するようになったため、古材としておもしろいものはそれ以前の建築物に多いそうですが、戦後のものでも状態とアイデア次第。ものづくりのセンスがある人なら、内装や家具など様々な用途に活用できます。

11古材

豪雪に耐える太さや硬さなどの強度、ひとつひとつ異なる造形美が「越後古材」の魅力。

12倉庫外観

古材以外にも、40〜50種類のバラエティに富んだ木材を販売。小さなものから大きなものまでサイズも多様で価格設定が低めなので、日曜大工や木工作品に使う板1枚から気軽に購入できます。

設計事務所やハウスメーカー、アートギャラリー、地元の造形大学の先生や学生も材料を求めて訪れます。また、長岡市内でロケが行われた大林宣彦監督の映画『この空の花 長岡花火物語』の撮影クルーが、シベリアの住まいを再現するための資材を探しにやって来たことも。豪雪地帯で冬場によく見かける「冬囲いの落とし板」(雪の力で窓が割れないように、1階の窓の外側にはめる板)を気に入り、それを使って小屋を作ったそうです。風雪による傷み具合が独特のテクスチャーとなっている落とし板は、什器や家具の材料としても活躍しています。

この映画がきっかけとなり、戦中・戦後が舞台のNHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』のセットに井口製材所の商品が使われることに。「時代の空気を伝え、ストーリーがある古材や古物は、ポンと置くだけでその場の雰囲気を作ります」と井口専務。

12-1『梅ちゃん先生』01

NHKドラマ『梅ちゃん先生』のセット展示より。写真提供:井口製材所

12-2『梅ちゃん先生』02

NHKドラマ『梅ちゃん先生』のセット展示より。写真提供:井口製材所

13井口達哉さん(木材の説明)

「古いものから新しいものまで、ほかで見られない珍しい木材が見つかりますよ」。神社仏閣で使われていた特殊な社寺古材、テーブルやカウンターなどに使う一枚板も人気。

13-1一枚板テーブル

ウォールナットの一枚板を、ナチュラルな質感が魅力のテーブルに。写真提供:井口製材所

古材と組み合わせたステンドグラスの照明は、社長夫人の井口康子さん作。会社の事務・広報担当の康子さんによる、活用例の素敵なプレゼンテーションです。

古材と組み合わせたステンドグラスの照明は、社長夫人の井口康子さん作。会社の事務・広報担当の康子さんによる、活用例の素敵なプレゼンテーションです。

「お客さんに喜んでもらえたときが最高に嬉しい瞬間」と語る井口専務。「提案を気に入って、リピーターになってくださる人がたくさんいます。古材は扱いが難しそうという先入観を持っている人も、一度使っていただけたらそうではないとわかっていただけるはず。敷居を下げたいから、価格もウェブサイトで公開しています。

同じ骨董品でも、お年寄りが見る目と若い人が見る目は違いますし、やはり感覚そのものが違いますよね。古材が持つストーリー性を若い人たちに知ってもらうために、若い感覚で提案していきたい。木の知識や経験ではまだまだ社長に敵いませんが、古物については私のほうが勉強を重ねて詳しくなってきたんですよ」

15テーブル

建具を再利用して新たな息を吹き込み、テーブルに加工。金具のデザインや錆さえも個性的な味わいに。

15-1階段箪笥

階段の下に引き出し収納が付いた階段箪笥の活用例。スペースを有効利用する知恵が詰まっています。写真提供:井口製材所

時代の空気をいまに伝える箪笥はどれも個性豊か。昭和の薫り漂うホーロー看板は、居酒屋などの飲食店がまとめ買いしていきます。

時代の空気をいまに伝える箪笥はどれも個性豊か。昭和の薫り漂うホーロー看板は、居酒屋などの飲食店がまとめ買いしていきます。

ぜひ一度、井口製材所のウェブサイトを覗いてみてください。商品や施工例の写真撮影、テキスト執筆、ウェブの更新まで井口専務がひとりでこなしていると聞いてびっくり。活用方法の提案が見事な施工例のページも必見です。古材や古民具が買えるネットショップもあるので、古物ファンはまめにチェックを。

お菓子の型。その用途で使わなくても、組み合わせて壁面に飾るなど使い方はいろいろ。

お菓子の型。その用途で使わなくても、組み合わせて壁面に飾るなど使い方はいろいろ。

18田植え定規

田んぼに転がして印を付ける「田植え定規」は米どころ・新潟ならでは。照明器具や棚などに使えそう。

20建具

建具もリーズナブル。「インテリアとして気軽に使ってほしいので、衝動買いできるような価格設定に」と井口専務。

アンティークの照明器具もたくさん。古道具を東京の雑貨屋さんが仕入れに来ることもあるんだとか。

アンティークの照明器具もたくさん。古道具を東京の雑貨屋さんが仕入れに来ることもあるんだとか。

一緒に働いてみたい人、募集中!
解体・買い取りの相談も気軽に

関東で学び、働いた経験を活かし、ご両親と一緒に会社を切り盛りする井口専務。その言葉の端々に、仕事へのやりがいと未来への意気込みを感じます。

井口社長は「ウェブサイトが充実してきて、お客さんが増えているのは息子のおかげ。問い合わせが急に1.5倍くらいに増えたんじゃないかな。北海道から九州まで、全国からお客さんがやって来るようになりました。彼は私にできないことをやってくれるから」と嬉しそう。古材の売り上げの9割が県外。ウェブサイトを見て知った人がほとんどで、飛行機に乗ってマニアックなお客さんが次々にやってくるそうです。

22井口達哉さん(古材の説明)

「長岡に戻ってみたら、地元の活性化に取り組んでいる同世代の人が意外とたくさんいて励みになっています。若い感性で発信していきたいですね」

「ウェブでの情報発信に古物鑑定の勉強、古民家の移築・再生現場や山に行くこともあり、毎日忙しくて休みなしですが楽しい仕事です」。そんな、いつも多忙な井口専務と一緒に仕事をしてくれるスタッフを募集中。古材、アンティークな家具や道具が大好きで、この仕事に熱意のある人はぜひ!

22-1倉庫内部

アンティークファンなら大興奮必至、倉庫の中は古き良きもののワンダーランド。心ゆくまで掘り出し物を探して。写真提供:井口製材所

宝探しに夢中になるうちに時間が経つのを忘れ、ついつい長居すること間違いなし。1時間を予定していたこの取材も優に2時間を超え、お昼過ぎになってしまったので個人的なお買い物はあきらめて、日を改めて出直すことにしました。井口製材所を訪ねるときは余裕を持って出かけましょう。

また、「うちの空き家や蔵も解体して、古材や古道具を買い取ってほしい!」という人も、気軽に相談してみてください。

Text: Akiko Matsumaru

Photos : Tsubasa Onozuka (PEOPLE ISLAND PHOTO STUDIO)

井口製材所
[住所]長岡市不動沢568-1
[電話]0258-92-2357
[営業時間]10:00〜12:00、13:00〜17:00
[定休日]4月〜11月は無休、12月〜3月は土・日曜、祝日定休
[HP]http://echigokozai.com

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