【教えて! ご主人】殿町一、キャラの濃いラーメン店 そのルーツは?
長岡イチの繁華街「殿町」で、24時からオープンする「中華 大吉」。入り口にのれんはなく、降りているシャッターをお客さんが自ら上げて入店する独特のスタイル。麺の量はご主人の桑原さんが「客の顔を見てなんとなく」決めているそう。人気テレビ番組「月曜から夜ふかし」(TeNY)にて「やる気がなさすぎるラーメン店」として紹介されたほど、その奔放さは高い知名度を誇っている。平日の20時、仕込みを行う桑原さんにそのルーツを伺いました。
“生きあたりばったり”の人生
昭和54年12月20日にオープンした「中華 大吉」。ご主人の桑原さんは当時22歳。
「父親も姉も銀行員で、おじさんも公務員で、堅い家庭で育ったのに、大学受験に失敗したんだよね」。予備校に行き、再度受験するが希望の大学には受からなかった。「銀行も二浪は取らないとオヤジに言われて、専門学校に行くことにした」。
これが1度目の人生の分かれ道。
「転落の人生の始まりだ。ベリーフェイマスアクターになっていたかもしれないのに……」
2度目のターニングポイント
夜間の調理師専門学校に通いはじめたが、昼間はなにもしていなかったため、だんだんとバツが悪くなり、専門学校から煉瓦亭の近くにあったステーキ屋を紹介される。時同じくして、精肉店を営む親戚から「人がいないから行って」と強く勧められ、すずらん通りにある「中華料理 おがわ」で働きはじめた。
これが2度目のターニングポイント。
「洋食に行っていたら今頃、料理の鉄人になっていたかもしれないのに……」
3度目の分岐点は霊媒師の言葉
料理専門学校は1年半で卒業。進路を決めるとき、「料亭 いまつ」がオープンにともない、和食と洋食の職人を募集してると聞きつけた。和食を希望し、一生モノの名入れの和包丁を3本も作って気合い十分。たが、「オヤジが大島にいた霊媒師のとこにいって、俺の人生を見てもらったんだって。そしたら和食は合わない。60歳まで店が持てないからやめておけ。料理の道なら、中華か洋食なら悪くないって」と言われたのを真に受けて、「じゃあ、このままおがわでいいじゃん」と料亭 いまつへの就職を断念した。
これが3つ目の転換期。
「和食に進んでいたら、いまごろ花板になって偉そうにできていたのに……」
オヤジの意見に流されがちな桑原青年は、「中華料理 おがわ」で3年半修行を積み、昭和54年、オヤジが見つけてきた現在の場所にラーメン屋を開くことになる。
「これにかけて頑張るぞ!」って感じじゃなくて、「なしくずし的」に、が正直なところだった。
ガラガラガラ~っとシャッターが上がり、40歳くらいの男性が顔をのぞかせる。
お客「もうやってる?」
ご主人「まだやってないよ!いま取材受けてるから後にして~」
お客「何分後ならいいの?」
ご主人「まだ仕込んでないよ。うちは12時からだよ」
お客「まだ9時半かぁ。じゃあ、1時間半後にくるね」
ガラガラガラガラ~
「いつの間にか」24時オープンに
38年前の開店当時は21時~深夜2時までだったが、いつの間にか24時から開店になった。何年前からですか?と聞くと「忘れた、自然な流れかなぁ」。
殿町はスナックが多い。そして多くの店で、大吉のラーメンやギョーザの出前が食べられる。「シメにママたちがお酒飲みにくるよ」。
殿町で飲む人はハシゴ酒が好きだ。3軒4軒当たり前で、最後にラーメンを食べて解散。
さんざん飲んだ後、瓶ビールを傾けながらギョーザとメンマで3次会をし、ラーメンを頼んで、お腹を満たすのだ。
「オレは時間にルーズだからなぁ」
やっているうちに、だんだんとちょうどいい時間帯を見つけたのだろう。
どうせシャッターは閉めっぱなしで、やっているのかやっていないのかは曖昧だ。
シャッターを閉めるワケ
開店当時はシャッター開けていたが、お客さんが閉めるようになった。
「仲間同士で酔っ払って入ってきて、ほかのお客さんが入ってこれないように閉めちゃうんだよ。はじめは閉められる度に開けてたんだけど、またすぐ閉めちゃう。あと仕込みしてる時に勝手にシャッター開けて入ってきて、シャッター締めて、『ラーメンちょーだい』ってみんな我が物顔。昔っからそうなんだよ」
いちいち開けるのも閉めるのも面倒くさくなって、そのまま閉めっぱなしになった。
ちなみに夏の間は、熱気がこもって暑いから、できるだけシャッターを開けている。
が、勝手に閉められる。
お客さんに麺の量を選ぶ権利はない
ラーメンを頼むと、5玉や7玉の超大盛りが出てきたりする。「ちょっとぉ! 大盛りやめてっていったしっ」「いっぺ(たくさん)食べてけさ」と麺の量に文句を言いながら笑い合うのが定番の風景だ。
「麺の量は、常連のお客さんに冗談で超大盛り出してたんだけど、それがいつのまにかウワサになって、普通の量で出すとがっかりされちゃうんだよね。そうしたらこっちも期待に応えなきゃってなるでしょ」これが「オレが大吉のルールだ」の真意らしい。
牛スジや煮干し、昆布、さば節が利かせたスープは実にあっさりとしており、自家製の細麺との相性もいい。いくらでも食べられそうな気がするが、7玉はさすがに多い。皮から手作りで開店以来同じ味を守り続けるギョーザは、お皿いっぱいのって450円の安心価格だ。
体格のいいお客さんには、5玉(!!)入るボウルで提供する。
ガラガラガラ~
さっきのお客さん「もう入っていい?」
ご主人「まだ早いってー!」
さっきのお客さん「まぁまぁまぁまぁ」
ガラガラガラ~とシャッターを閉めて、中に入ってきた。
ご主人「今仕込んでるから、とりあえずビール飲んで待ってて。ギョーザ食べる?」
「お客さん入ってきちゃったから、今日はもう愛し合えないけどごめんね! お詫びにラーメンごちそうするから食べてけさっ」と取材は終了。
2時間仕込みをしながら、しゃべりっぱなし。
「オレはルーズだからさぁ~、決まった時間が苦手だし、味も量も適当なんだよ」というが、厨房はまことにキレイ。麺の量もギョーザの量も面白いくらい多いのはサービス精神の現れじゃないか。お客さんに親父ギャグを浴びせ、お客さんも冗談でシャッターを閉めて帰る。こういうやりとりがいつの間にか「殿町らしい」と街の名物になっていく。
オープンして37年。「来年、息子が長岡に帰ってくるんだよ。オレも年取っちゃったからさぁ、一緒にやろうと思って」。これからも大吉から目が離せない。
中華 大吉
[住所]新潟県長岡市殿町3-3-1
[電話]0258-36-8409
[営業時間]24時~朝4時ころ
[定休日]日曜(祝日の場合翌日)
[席]10席
[駐車場]なし