一家に一個。お手軽ポップな火焔型土器の作り方

2016/7/22

長岡は火焔型土器のメッカだ。1936年、市内にある馬高遺跡で「火焔土器」が発見されたのを皮切りに、大小さまざまな火焔型土器(最初に発掘された火焔土器と同タイプの土器を指す用語)が出土。今では長岡市のシンボルとして、駅のコンコースや橋の親柱、果てはマンホールのフタにいたるまで、あちらこちらに火焔型土器のモニュメントが採用されている。この歴史的遺物がいかに長岡の人々にとっての心の支えとなっているか、うかがい知ることができよう。

それだけ愛されている火焔型土器であればこそ、もっと身近に感じていたいと思うのは自然な流れ。そこで日常に溶け込みそうな火焔型土器を探してみたが、なかなかない。過去には火焔型土器のガチャガチャが売られていたこともあるようだが、リアリティを追求したがゆえの土色から漂う、そこはかとない「土器感」は、普段の生活に取り入れたいというわたし達の願望を真っ向から否定する。では逆にカラフルな火焔型土器であれば、親しみを持って接することができるのだろうか。

そうとなれば物は試しだ。さっそく手軽さと鮮やかな色で定評のある紙粘土を準備。専門家に火焔型土器の作り方を教えてもらうことにした。向かうは日本有数の火焔型土器所蔵数を誇る馬高縄文館だ。

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EPOCH社「歴史ミュージアム 埴輪と土偶+土器&青銅器」より。右下に「⑤火焔型土器」があるのが分かる。

 

土器作りは粘土選びから

今回、火焔型土器の作り方を教えてくれるのは、馬高縄文館で専門員を務める水島喬さん。知る人ぞ知る、火焔型土器作りのエキスパートである。さあ、土器作りの始まりだ!

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紙粘土ならお手軽に火焔型土器を作れるはず!

取材班「今日は手軽にポップな火焔型土器を作りたいと思い、紙粘土を用意してきました! これなら焼く必要もないですもんね」

水島さん「……紙粘土じゃ無理ですよ。火焔型土器は作れない。火焔型土器は棒状にした粘土を巻き上げて器を作り、その周りにも棒状の粘土をつけていくことで、あの独特の柄を形成するんです。紙粘土だと水を使って器に粘土をつけることができないからダメ。ムリ」

なんということだろう。良かれと思って選択した紙粘土が、まったく火焔型土器に向いていないとは。出鼻をくじかれるとはまさにこのことだ。しかし、だからといって「はいそうですか」と諦めるわけにはいかない。わたし達には、手軽にポップな火焔型土器を作るという使命があるのだ。

取材班「……それは大変失礼いたしました。ただ、なんとか紙粘土で作る方法を教えていただけませんでしょうか?」

水島さん「まあやれるだけはやってみるけど、どうなるかは知りませんよ」

わたし達の火焔型土器作りはこうして幕を開けた。

 

どんどん乾く紙粘土に苦戦

本式の作り方の代わりに、水島さんが取材班に提案してくれたのが「玉作り」の技法。丸くまとめた粘土を徐々に上部に引っ張って、器状にしていく方法だ。伸ばす途中でひび割れができたり、飾り部分までの粘土量の計算をミスって予想より大きくなってしまったり。そうこうしているうちにどんどん乾いていく紙粘土。己の技量だけでなく、時間との勝負も強いられる……苦戦!

汗をかく取材班の隣では、水島さんが黙々とピンクの土器を完成させていく。紙粘土での土器作りは水島さんにとっても慣れていないはずなのに、わたし達の土器とは確実に、何かが違うぞ!な、なんだこの差は!?

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「紙粘土だとね。できませんよ……」と言いながらももくもくと土器を形作っていく水島さん。

取材班「み、水島さん……どうしても火焔型土器っぽさが出ないんですが……」

水島さん「……実は、火焔型土器をそれらしく作るためには、押さえるべきポイントがあるんですよ」

取材班「えっ……!!!」

水島さん「それを守れば、だいたいは火焔型土器らしいものができるんです」

なぜそれを一番最初に教えてくださらなかったのか水島さん。いや、わたし達が身を持って火焔型土器作りの難しさ、ひいては縄文時代の人々の苦労を学べるよう、あえて何も言わなかったのだろう。さすがこの道、数10年のキャリアを持つ水島さんだ。一筋縄ではいかない男である。

なお、馬高縄文館が主催する火焔型土器作りのイベントでは、ひとつの火焔型土器を作るために形成だけでなんと5日間、20時間もかけているのである(これでも短縮バージョンらしい)。突然やってきて「紙粘土で〜。ポップで〜。手軽に〜。」などと言う取材班を見て、水島さんが呆れたのも無理はない。

しかしそんな取材班に対して、水島さんは快く「4つのポイント」を教えてくださった。わたし達と同じく火焔型土器を愛する読者のために、特別にここに公開するぞ!!

 

これさえ押さえれば完成!
火焔型土器作りのポイント

① まず形。下部はシュッと、上部はぐわっとひらく
② 下部の模様(隆線文)は、下の方を「逆U字状」、上の方を「横になったS字状」にする
③ 取手は中部につける
④ 上部は火炎のようにギザギザにする(鋸歯状突起)

上記のポイントを踏まえて、水島さんが作成したピンク土器を見てみよう。

▼水島さんの土器

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た、確かに全てのポイントが押さえられているではないか。さすが水島さん。紙粘土、玉作りというハンデをものともしない完成度である。一方われわれ取材班の土器はというと……。

▼取材班による土器A

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取手の位置が上部になってしまっており、アウト。

▼取材班による土器B

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形が寸胴すぎ。下部がシュッとしてないし、上部がぐわっとひらいてないし、ぜんぜんダメ。

今回のために、前日から写真集を眺めてはイメージトレーニングを積んでいたが、全くの完敗である。

しかし、今回の取材によって、上記の4ポイントさえ押さえれば、紙粘土であっても紐作りではなくても、「火焔型土器っぽいもの」ができ上がることが判明した。今までその渋い色合いゆえにお部屋のインテリアに合わず、大好きな火焔型土器を飾れなくて悔し涙を流していたそこのあなた。ラメ入り粘土でもプラスチック粘土でも、お好みにあわせて用意して、あなただけの火焔型土器を手作りしてみてくれ!

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水島さん(左)と馬高縄文館職員の小林徳さん(右)。各自が作った火焔型土器と一緒に!

ちなみにその後、自作の土器を手に長岡市の取材を続けたわたし達は、行く先々で出会う人たちから「あれ、土器!?ドキドキしちゃうわね!」というギャクをかまされたことも付け加えておきたい。

馬高縄文館
[住所]新潟県長岡市関原町1-3060-1
[電話]0258-46-0601
[営業時間]9:00〜17:00 ※入館は16:30まで
[定休日]毎週月曜日 ※月曜日が休日にあたる場合は、その日以後の休日でない最初の日)
[料金]高校生以下 無料/一般・大学生 200円(団体150円)
※団体は20名以上。障害者手帳の提示等により観覧料が免除
[HP]http://www.museum.city.nagaoka.niigata.jp/umataka/

▼お知らせ
馬高縄文館では、「縄文遺跡で昆虫採集!」「黒曜石の矢じりづくり」「滑石のまが玉づくり」「縄文遺跡の発掘体験!」「夏休みワークショップ」などさまざまなイベントを随時開催しています。詳しくは馬高縄文館HPの「活動紹介」をご覧ください。

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