雪かきを楽しく本気で学ぶ。「越後雪かき道場」入門レポ!
2017.2.15
越後雪かき道場とは?
雪国に暮らす人々にとって、雪かきは毎年必ず行うもの。しかし、近年は高齢化の影響もあり、雪かきを担う若い人手が減少。高齢者のみで作業を行うことも少なくありません。しかも、時として高齢者単独で行わざるを得ないことも。その結果、事故が発生しやすくなります。最悪の場合、死亡事故につながることも。
大雪の際には、危険性も増します。「平成18年豪雪」と命名された大雪災害では、全国で152名もの尊い命が失われました。
災害時、各地から「何か手助けをしたい」との申し出があったものの、受け入れ先では「雪に慣れていない『よそ者』の力を信じることができない」といった警戒感が生じるなど、せっかくの援助を活かすことが難しかったといいます。
「越後雪かき道場」は、NPO法人中越防災フロンティアが主催する、文字どおり「雪かき」を学ぶことのできる活動です。
しっかりした技術と経験を持った、安心して雪かきをまかせられるボランティアを育成する目的で2007年に設立されました。
レベルに応じた段位認定制度
雪かき道場には3つの段位があり、レベルに応じたレクチャーを受けることができます。レベルが上がれば、ゆくゆくは師範代として教える側の立場になることも可能。詳しくは下記をご覧ください。
(1)「初級コース」…スコップやスノーダンプの使い方など、基礎から教わる
(2)「中級コース」…初級コースを修了した方や、雪国での除雪経験がある方を対象に、主に屋根雪除雪に関する技術を学びます。
(3)「上級コース」…除雪リーダーを目指し、チームを率いて安全に除雪作業を行うため、作業現場での除雪の段取りや命綱指導などを学びます。また、コースの最後には筆記試験もあり、経験を積んでいずれは師範代に!
(「越後雪かき道場」公式ホームページより一部引用)
実際に入門(参加)してみました!
さて、どのような活動なのかを調べるには、参加してみるのがいちばん! と、いうことで、実際に雪かき道場に参加してみました!
訪れたのは1月28日から29日、会場は長岡市山古志地区です。越後雪かき道場誕生の地でもあり、いわば「ホーム」ともいえます。
今回の道場は「初級」と「中級」が開催されました。初めての参加となる「な!ナガオカ」編集部は初級に申し込み。
「山古志復興交流館おらたる」へ。続々と参加者が集まってきます。中にはリピーターと思しき人の姿もちらほら。
まずは多目的ホールにて、初座学による雪かき講座と雪かき体操が行われます。
座学の講師をつとめるのは、防災士の資格を持つ木村浩和さん。雪かき道場特製の「指南書」を手に、軽妙かつ分かりやすい解説で雪かきの基礎から教えてくれます。
奥付を見ると毎年バージョンアップしています。版を重ねるごとに内容がどんどん充実。英語にも完全対応させるなど、非常に熱のこもった一冊です。
座学では指南書の中から特に注意するべき点をピックアップし、教えてくれます。
ただ指南書を読み進めるのではなく、「ユキカキカルタ」を使って楽しく学んでいくのも雪かき道場の特徴。
「にい潟は 日本で一番 重い雪」……そう、雪は軽いものと思ってしまいがちですが、実は水分を多く含んでいるため予想以上に重いのです。とくに新潟の雪は水分量が多く、日本屈指の「重い雪」として有名。
「越後流雪かき」でとくに力を入れているのが、この越後特有の重い雪をいかに効率的に処理するかというところ。
・ 腰を曲げず膝を曲げること(重い荷物を持つ要領で。重い雪は腰を痛めやすい)
・ 「ストライクゾーン」で作業をすること(膝より上、肩より下が力を出しやすい)
・ 反動を利用して雪を運ぶこと(効率的なので体力消耗が比較的少なくなる)
このような「コツ」を頭に入れた上で効率良く行うことが重要なのです。この重要性は、後ほど実際に雪かきを行った際に思い知らされることになります。
また、健康に問題がない人でも必ず準備体操をすることが重要といいます。雪かき道場では、雪かきに出る前に「健康雪かき体操」を行います。
「健康雪かき体操」は、青森県教育委員会が開発したストレッチと筋力トレーニング中心の体操で、スコップを使う動きやスノーダンプを押し出すなどの「雪かき」の動作を取り入れている、まさに雪かきのための体操です。
さあ、雪かきをやってみよう!
いよいよ実際の雪かきが始まります。座学で学んだことを活かせるでしょうか……!?
初級コースで指導してくださる諸橋和行さん。「せっかくなので、雪かきに出る前に、かんじきを履いてみましょう」ということで、ますはかんじき講座から。
積雪に足が深く入り込んだり、滑ったりしないようにするための道具であるかんじきは、雪国に古くから伝わる知恵のひとつです。木製の輪に縄で足を固定するだけというシンプルな構造ながら、その効果は絶大。
雪の降る地域出身の参加者も何名かいましたが、かんじきは履いたことがないという方が多く、みなさん熱心に聞き入っていました。
ますは諸橋さんが動きの基礎を実演。座学でも学んだ「腰ではなく膝を曲げること」などを再確認。
大量の雪を効率良く運ぶことのできるスノーダンプも登場。スコップを使う人とスノーダンプを使う人に分かれ、チームワークで雪かきをしていきます。
こちらも諸橋さんが実演。スノーダンプは「ただ雪を載せて運ぶだけ。簡単そう」などと思ってしまいがちですが、大間違い! コツがあるのです。
「越後流」では、まず雪を運ぶコースをスノーダンプでならし、平らにします。これにより、重い雪の塊もスムーズに運ぶことができるようになるのです。
コースが少しデコボコしているだけで、いくら力を入れても押すことができない……なんてことも起こります。ポイントはあくまでも「なるべく疲れず、効率良く作業をすること」にあるのです。
雪かきをしながら「かまくら」を作ろう!
スノーダンプで雪を運ぶ人と運んだ雪を1箇所にまとめる人とに役割を分け、雪かきを進めていきます。
でも、あれ……? ちょっと集めすぎではないでしょうか……?
実は、今回の初級コースでには目標が設定されています。それは、「かまくら」をつくること。
雪を切り出し、他の場所に集めていく……。1箇所にまとめた雪をドーム状にくり抜くかまくら作りは、実は雪かきスキルを磨く格好の機会なのです。
まさか雪かきを学びに来てかまくらを作るとは思ってもいませんでしたが、参加者間の結束が自然と深まりました。
休憩を挟みつつ約1時間半の雪かき作業でしたが、みなさん汗びっしょり。
その後、今回の宿泊会場である山古志種苧原(たねすはら)地区「あまやち会館」へ移動し、温泉に浸かり1日の汗を流しました。
初日の締めは、山古志の美味しい料理で
「おらたる」に戻り、多目的ホールでの立食パーティで初日の締めを。スタッフのみなさんが用意してくれたのは、山古志産食材を使った手作り料理の数々。これは嬉しい……!
お酒を交えつつ、あらためて自己紹介や本日の感想などを交換し合いました。その後は「あまやち会館」に移動し、二次会を行いつつ、夜が更けていきました。
2日目は「本番」!
翌日は種苧原地区から、竹沢地区の研修施設「ロータリーハウス」へ。初級と中級コースの参加者合同で雪かきを行います。もちろん、作業前には「健康雪かき体操」を実施。
この日は見渡す限りの快晴。作業しやすいのではと思ってしまいますが、危険も潜んでいます。晴れているのに気温が下がる「放射冷却」の影響もあり、朝から冷え込みが激しく、所どころ凍っていました。
さらに、晴れの日は雪の落下も懸念されます。屋根から雪が落ちて来そうなポイントをレクチャーしていただき、作業に移ります。
自然落雪で屋根の雪はほとんど落ちているものの、日の当たらない建物ウラにはかなりの量の雪が積もっていました。今回は、参加者全員でこの雪を除去します。
2日目とあって、動作もお手のもの!そして、チームワークがとても良い!予想以上にサクサク雪かきが進んでいきます。
こんもりと積もっていた雪の塊が1時間ちょっとでご覧の姿に。
最後は雄大な山古志の雪景色をバックに、みんなで記念撮影。お疲れ様でした!
最後は認定証授与式
&山古志牛の牛丼で昼食
昼までみっちり雪かきを行なった後は「おらたる」に戻り、認定証の授与式に。
初級コース認定者は青色、中級コースは緑色の認定証を授与されました。なんだか誇らしい気分になります。参加者の皆さんの表情も一様に明るいです。
最後はスタッフ特製の山古志牛の牛丼を全員で味わい、解散しました。グルメも非常に楽しみなイベントでもありました。
道場での経験を活かし、
困っている人の助けになろう
雪かき道場に参加してみての感想は「正しい技術を学べば、たとえ雪国出身でなくとも誰でも担い手になれるのでは」ということでした。
さらに重要なのは、楽しく学べたこと。みんなで楽しくかまくらを作ったり、開催地域の美味しい料理を楽しんだりと、雪かきだけでなく地域の暮らしを垣間見ることのできる体験型旅行でもありました。
雪かきをする担い手が減少しつつあるのは、全国の降雪地帯で共通する問題です。雪かきを正しく学んだ人が1人でも増え、レベルを上げていくことで、事故等の災害を未然に防ぐことにつながるはずです。
また、上級コースまで進み、テスト等を経て「師範代」に認定されると、のれん分けを受けることも可能。現在、群馬県では実際にのれん分けが行われ、「上州雪かき道場」がスタート。雪かき道場は新潟県外へも広がっています。
正しい方法論と技術を身につけることで、自信が身につきます。今後もし豪雪があった際には、困っているお年寄りを率先して助けに行きたいと思います。そして、ゆくゆくは師範代を目指したいと思います!
Text and Photos: Junpei Takeya
一部写真提供:浅井利彦氏(一般財団法人魚沼地域づくり振興公社)
越後雪かき道場
http://dojo.snow-rescue.net/