このまちに、子どもの自由な遊びを育む環境を。一人の青年から広がり始めた「プレーパーク」の輪

「子どもは遊びの天才」と、よく言われます。しかし現実は、「学校や保育園から帰宅すればYoutube動画やテレビを見てばかり……」とため息をついている親御さんも多いのではないでしょうか。特にコロナ禍の昨今は、友だちの家に集まって遊ぶことも遠慮しがち。公園に出ても、特に都市部では「あれも禁止」「これも禁止」という看板が目につくようになり、子どもたちの遊びの機会が社会から失われつつあります。

夢中になる遊びがあれば没頭するもの――そんなワクワクする気持ちを大切にする遊びの場「蔵王の城プレーパーク」が、長岡市にはあります。この場所をメインで運営しているのは、弱冠24歳の青年・星野洸太さんです。ヨーロッパでは「プレーワーカー」という専門資格があり、専門知識を有したプレーワーカーがプレーパークを運営しています。しかし、日本ではまだ知名度が低いのが現状です。星野さんは県内では数少ない「プレーワーカー」であり、自由な遊びの場づくりをするプロとして活動しています。よい遊びの場とはどんな場所なのか、星野さんがここをどんな思いで運営しているのか、取材しました。

子どもたちの創造力をかき立てる
自由な遊びが生まれる場

「蔵王の城 プレーパーク」は、プレーワーカー星野洸太さんと「蔵王のもりこども園」園長の佐竹直子さん、ほか10名ほどの世話人によって運営されています。

2022年5月某日、訪れたのは長岡市内にある金峯神社。境内の一角に、遊び道具を並べてプレーパークの準備をする星野さんの姿がありました。普段は特に固定の遊具があるわけではないスペースですが、ここでいったいどんな遊びが始まるのでしょうか。時刻は午後3時、放課後の授業を終えた小学生たちがポツポツと集まってきました。

自転車に乗ってやってきた近所の小学生たち。星野さんにいたずらを仕掛けてはしゃいでいました。プレーワーカーと子どもたちとの距離の近さを感じられます。

「よっ!」と星野さんに声をかける少年たち。月に一度開催されるプレーパークの常連であり、この日を楽しみにしていたようです。興味津々で星野さんの動きを見ている子どもたちに、星野さんは「準備のお手伝いをしてくれる?」と話しかけます。

「シャボン玉遊びに使うシャボン液って作れるんだ!」とびっくり!

お願いしたのは、シャボン玉遊びに使うシャボン液づくり。ドラッグストアに売っている台所用中性洗剤などを混ぜてつくります。もうお気づきかもしれませんが、これはお手伝いと称しながら、子どもたちの学びであり、遊びの機会でもあるのです。身近な材料を使用することが分かると、「へぇ~、シャボン液をつくるのって簡単じゃん!」とにっこり笑顔になっていました。

奥の黒板に書かれた「ベム」とは星野さんのあだ名。「妖怪人間ベム」の主人公に似ていることからついたニックネームなのだとか。

プレーパーク開催を知らせるウェルカムボードも、子どもたちが手書きしてくれました。黒板とチョークで自由にお絵かきを楽しんでいます。

星野さんが持ってきた遊びグッズを覗いてみると、ロープ、長い棒、大きな桶、ナイフ、生き物図鑑、虫かごなど。単なるおもちゃというのではなく、自分で体や頭を使って楽しむための道具がほとんどです。

焚き火の火おこしにチャレンジ。星野さんはあえて上手くいくための方法は教えず、子どもたちから生まれるアイディアを大切にしながら挑戦をサポートしています。

「焚き火もできるよ。やってみる?」との星野さんの声かけに、「やってみたい!」とノリノリの子どもたち。焚き火台に集めた落ち葉や枯れ木を入れて、着火したマッチを入れますが、なかなか火は安定しません。「石を叩いて火を起こせばいいんじゃない?」「細かい枝を入れたらどうかな?」とアイディアを出しながら奮闘します。単に「焚き火をする」という行為ひとつをとってもどのプロセスを楽しむかという子どもたちの反応はさまざまで、マッチで火をつけるのがおもしろいと感じている子、火種づくりに凝る子、水を入れたコップでお湯を沸かしてみる子など、それぞれが自分のワクワクすることを自由に追求しています。

シャボン玉遊びは小さな子どもたちに大人気!

近くの保育園から帰ってきた、小さな子どもたちも加わりはじめました。居合わせた親同士の会話も弾みます。

学校や学年が違ってもプレーパークでの遊びを通して、つながりが生まれています。

気づけば、総勢60人ほどの子どもたちが集まり、にぎやかな雰囲気になってきました。誰からともなく「鬼ごっこしようよ!」と掛け声がかかり、神社の敷地内をエリアにした鬼ごっこがスタート! 年齢も性別も関係なく、その場に居合わせた子どもたちの間では、自然発生的に遊びが生まれていきます。

プレーパークでは自由な遊びがいっぱい。それぞれが思い思いに夢中になれる遊びをしています。

「自分の気持ちがワクワクすることをやる」というのがテーマのプレーパーク。主催者である星野さんは、遊びのちょっとしたきっかけをつくるだけで、「今から〇〇をしよう」と強制することはありません。子どもたち一人ひとりの様子を観察し、「自由に遊べる場づくり」に徹しているのが印象的でした。

よりよい地域活動の場を求めて長岡へ
子どもたちの笑顔のため奔走する日々

星野さんは、長岡市で唯一のプレーワーカーです。学生時代から子どもと関わる仕事をしたかったそうですが、保育園や幼稚園の先生ではない独自の道を歩むことを決めました。いったいどのような経緯で、現在の活動を行うことになったのでしょうか?

プレーワーカーの星野洸太さん。

「僕の出身は、栃木県高根沢町という小さなまちです。小学校の頃の思い出といえば、放課後に遊んだ児童館。先生たちがみんな優しくて、何気ない日常のあれこれを話せる場でした。中学生になっても児童館に関わっていきたかったので、放課後に児童館ボランティアを始めました。そこには障がい児施設も併設されていたので、いろんな特徴をもつ子たちと関わりましたね。当時は奉仕という感覚ではなくて、ただ純粋に子どもたちと遊ぶことが楽しかった記憶があります」

児童館でのボランティアを通して、地域に関わる仕事に興味を持った星野さん。地元である高根沢町を盛り上げるためにまちづくりを学びたいと、東京の大正大学地域創生学部に入学しました。そして、大学で子育て支援を中心に「暮らしやすいまちとは何か」について学ぶなかで、初めて「プレーパーク」という存在を知ったそうです。年齢も性別も問わず、たとえ障がいをもつ子どもでも自由に遊ぶことをサポートする場所を作るという考え方に、深く感銘を受けたといいます。

さらに地元に貢献していきたいと学び続け、なにか自分にできることはないかと探して出会ったのが「おもちゃコンサルタント」という資格でした。

東京・大正大学の学生時代。おもちゃコンサルタントの資格試験に合格! ぬくもり感ある木のおもちゃを中心に、子どもたちの五感を刺激するおもちゃを提案しています。

「おもちゃコンサルタントとは、おもちゃが子どもに与える影響を理解したうえで、どんな選び方をすればよいのかアドバイスをするための資格です。なんとなく興味を惹かれて勉強を始めたのですが、これがまた面白いんです。プレーパークが子どもの自由な遊びのきっかけづくりをする一方で、おもちゃコンサルタントは新しいおもちゃとの出会いを提供します。そもそも僕のスタートは『地元高根沢町を盛り上げたい』という思いでしたが、子どもたちを楽しませたり親御さんたちをサポートしたりすることへと興味が変化していきました」

そんな星野さんに転機が訪れたのは、大学4年生の頃。長岡造形大学大学院が主催する「イノベーター育成プログラム」の募集案内を発見し、「やりたかったのはこれだ!」と確信したそうです。長岡造形大学大学院の修士課程イノベーションデザイン領域に在学しながら、地域おこし協力隊として地域活動にチャレンジする内容で、任期は2年間。星野さんは、おもちゃコンサルタント×プレーワーカーの知識を活かした研究テーマを掲げて応募し、見事に採用されて長岡に活動の地を移すこととなりました。

地域交流施設「まちなかキャンパス長岡」での講座の様子。「今の子どもたちって本当に遊べてる?」をテーマに遊びをサポートするコツを伝えました。

長岡造形大学大学院に在学中は、地域とのつながりづくりに奔走。おもちゃコンサルタントとして講座を行ったり、子どもの自由な遊びをサポートするコツを伝える講座を開いたり、少しずつ活動の幅が広がっていきました。2021年の春からは月に一度のプレーパークを開催するようになり、世話人として8人の大人によるサポートの協力体制を得ることにも成功。そして、2022年3月に大学院卒業した星野さんは、4月からは長岡市内の子育て支援施設で子どもたちや母親たちの子育て支援活動を行いながら、プレーパークの運営を続けています。

年齢や障がいのあるなしを問わず
遊びの世界に没頭できる公平な場所

プレーパークは春夏秋冬の季節の楽しみも。夏は水遊びが人気です。

星野さんによるプレーパークの活動は、現役保育士や小学校の先生からも注目されており、視察や見学に訪れる人たちが絶えません。その理由について星野さんは、「プレーワーカーは、保育士や学校の先生とは違った子ども達との関りを通じて、子ども達に様々な体験を提供できるからなんです。」と語ります。

初めてのナイフにドキドキ。ゆっくり慎重に木を削っていきます。

「例えば、プレーパークでは一般的に子どもには危ないと思われるナイフも遊びの道具として用意しています。しっかりと大人が見守って安全を確保することで、『ナイフで木を削ることができた!』という、子どもにとって達成感のある楽しい経験になるんです。

あとは焚き火も、大人がしっかり気をつけないと危ない遊びのひとつです。でも、子どもたちは普段マッチで火をつける機会なんてないから興味津々で、目をキラキラさせながら火起こしにチャレンジしているんですよ」

焚き火の温もりが心地良い秋のプレーパーク。マシュマロを焼いて食べるのも楽しい時間です。

 

池にザリガニを発見!生き物が大好きな子どもたちがキラキラとした表情を浮かべています。

また、プレーパークならではの特徴として、「限られた遊び道具しかないこと」が逆に子どもたちの創造力を豊かにしているといいます。例えば夏のある日は、境内にある池にザリガニを見つけた子どもたち。釣ってみたいけど釣り竿はない……ということで、長い棒に糸を巻き付けて即席の釣竿を完成させていました。そういうとき、星野さんは正しい答えを与えるのではなく、子どもたちのアイディアに対して「その考えいいね!」「どうしたら上手くいくか、一緒に考えてみよう」と寄り添うスタンスをとっています。

2021年はプレーパークで2頭のヤギ、シロとメェを飼育していました。ヤギとのお散歩にみんな大興奮!

さらに、プレーパークは赤ちゃんから小学生まで、幅広い年代の子どもたちが遊びを楽しめるのも魅力です。小さい子だと人見知りだったり、慣れない場所で緊張したりしてしまうことも多いものですが、そういう子たちにも遊びの入り口を一緒に見つけてあげるのがプレーワーカーである星野さんの役割。シャボン玉遊びや葉っぱ集めなど、ほんの小さな遊びをきっかけに、やりたい遊びに自分から向かっていけるようにサポートをします。その際、その子が何を楽しんでいるか表情や行動を注意深く観察することを大切にしているそうです。

「プレーパークは障がいを持っている子も大歓迎です。それは、この場所にはルールのない遊びがほとんどだから。自分のペースで好きなことを思いっきり楽しめるんです。例えば、ある障がいのある子は、焚き火に使う炭をひたすら石で割ることに夢中になっていました。周りにいた子たちも、それを見て同じ遊びを真剣にやっていましたね。こんな風に遊びを通じて、子どもたち同士のゆるやかなつながりも生まれています。これこそプレーパークの醍醐味ですね」

まち全体で子どもたちを見守りたい
「プレーパーク」を未来につなげる

2021年3月から始まったプレーパークは、無事に1周年を超えました。月に一度の開催を楽しみにする常連さんが増え、もっと開催してほしいという声もあがっています。星野さんは、長岡市におけるプレーパークや遊びの未来をどのように描いているのでしょうか?

「大学院卒業後はすぐに地元に帰るはずだったのですが……」と星野さん。子どもたちや保護者たちからの信頼も厚く、いまや長岡になくてはならない人となっています。

「今年は、神社以外の会場でもプレーパークを開催してみたいですね。いま候補地として考えているのは、夏場の市営スキー場です。固定の遊び遊具が何もない場所ですが、子どもたちにとって絶好の遊び場になるに違いありません。その他、公共施設でうまく活用できていないところもプレーパーク会場として利用できると良いなと考えています」

次なるステージをめざす星野さん。ですが、この先は自分ひとりだけの力でプレーパークを運営するのではなく、「まち全体でプレーパークを支えていく仕組みづくり」を構築していきたいと語ります。

「まずは多くの人にプレーパークを認知してもらい、子どもたちの自由な遊びの場をつくる大切さを知ってもらいたいです。そして、地域の人たちがまちのあちこちでそれぞれにプレーパークをひらくことで、長岡にプレーパークが当たりまえのようにある空気感が生まれてほしいですね。僕の使命は、プレーパークをこの地に根付かせること。あと2~3年間はかかるのではと想像しています」

もともと地元の栃木県高根沢町が好きで、数年後にはUターンしたいと思っていると話す星野さん。ですが、長岡でたくさんの人々とつながり、この地に愛着が増しているのも確かです。「もし長岡でいい人が見つかれば永住する可能性もありますが、どうなりますかね……(笑)」と冗談っぽく笑います。

現在、プレーパーク開催日は毎月第3金曜日の15時~17時。蔵王地区にある金峯神社の境内で行われています(雨天時も開催)。誰もが気軽に参加できる自由な遊びの場です。まずは一度足を運んで、子どもたちが自由に遊べる楽しさを感じてみてください。

Text:渡辺まりこ

●Information

蔵王の城プレーパーク
[会場住所]新潟県長岡市西蔵王2-6-19 ※金峯神社
[facebook]https://www.facebook.com/zaonomoriplaypark/

 

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