販路開拓とコスト管理で“最高鮮度”を目指す!新世代「攻める農業家」の奮闘記

2018.10.8

長岡駅周辺から車を走らせること40分。旧三島郡にほど近い脇川新田町に、米と野菜を18ヘクタールに及ぶ土地で育てている久保農園がある。

この農園の跡継ぎ・久保和喜さん(32歳)は「攻める農業家」だ。父はもともと兼業農家の米農家だが久保さんは野菜に力を入れ、枝豆、小ねぎ、キャベツなど様々な品質の高い野菜を育てあげ、さらに農協任せではなく野菜を買いたいところに取りに来てもらうという独自の販路を作り出した。農家としての生き方を考えるようになったきっかけとは?また、多くの農家が販路を農協に依存する中、自分で売り先を見つけるに至った経緯とは。枝豆収穫シーズンの8月末、農園にお邪魔して話を伺った。

 

農業への志はゼロだった農業高校時代

今年で農業を初めて11年目になるという久保さんは、現在32歳、3児の父でもある。地元の長岡農業高校出身で生徒会長も務め上げた。と言っても別に農家を志していたわけではなく、自分の学力に見合っていて推薦入学もあることから、農業高校への進学を決めたという。

「面接だけで、筆記試験を受けなくてよかったので。当時はやんちゃで荒れてましたし、でも今度は入学したらしたで、進級できるか厳しいライン。そこで生徒会長になれば進級できるんじゃないかと思ったんです。みんなの支持を得て、経験値を積めばなんとか進級できるだろうと。だから、その頃は農業に夢もへったくれもなかったですよ」(久保さん)

当時のことをユーモアたっぷりに振り返る久保さん。

そんな高校3年間を終える頃、「親元を離れて東京に行ってみたい」という思いから、寮がある学校に絞って探すと3年制の農業者大学校(現在は廃校)を見つけた。だが入学条件には県知事の推薦状が必要。明確な農業に対する目標がなかった久保さんは一旦諦めようとしたものの、なんとか推薦してもらうことができて入学へと至った。

しかし、始まってみると校内には各都道府県知事の推薦を受けているだけあって、「日本一のりんご農家になりたい」などと明確な目標を持った同志ばかりで驚いたという。

「農業の夢を持ったエリートの集まりでした(笑)。でも、単なる生真面目とは違ってそれぞれに思いがあり、いい意味でネジが外れた人が多かった。目標も違えばやり方も全部違う。それに比べて自分には何もない。だから『道を間違えたかな』と不安になった時期もありました」(久保さん)

自宅から畑へ向かう久保さんのトラック。久保農園のある脇川新町は緑の美しいところだ。

大学のカリキュラムには多くの外部研修があり、どこで何をするのかは自分で決めることになっていた。その中で久保さんは、日本にある数知れぬ農家の中から“とにかく売り上げを伸ばしている農家”にテーマを絞り、静岡県浜松市で、河合夫婦が営む小ねぎ(青ネギ)農家に行き着いた。そしてここが久保さんの人生の転機となった。

 

農業を通して「生き方」「考え方」を

教わった研修時代

河合夫婦の元に滞在した約3ヶ月間、とにかく2人の経営に対する情熱に圧倒されたという。

「河合夫婦とは今でも仲良くさせてもらっていますが、今に至るまで“農業を教わった”という印象がないんです。栽培も大事だけれど、物事をどう捉えるか。農業を教えるんじゃなくて、考え方を教えたい、とも言ってましたね。それが農業に必要なんだって。あとはお金の尺度や人としての姿勢。そんな風に、河合さんには生き方を教わったと思っているんです。またその研修の中で『こんな自由で恵まれた環境の中で学べているんだから、しっかり考えを持ってやれば変われる』って言われて、そうか、自分も変われるんだって。それでやっと火がついたんです」(久保さん)

小ねぎの周りに生える雑草を抜く久保さん。

大学校卒業後、研修で得た勇気を胸に、地元の長岡に戻って就農した。両親は米農家で、現在はコシヒカリ、五百万石、こしいぶきに加えてゆきん子舞という品種を手がけている。しかし春から秋にかけては忙しいものの、冬は収入がない。そこで、久保さんは通年の収入を確保するためにまずは小ねぎの栽培を始めた。久保さんが大学生時代の2010年頃、関東ではすでに小ねぎの人気が出ていたものの、新潟、長岡では白ネギが主流だった。だが、久保さんは「消費者のニーズは上がっており、新潟でも人気が出る」と見込んだのだ。その後さらに、従業員の冬の収入を確保するため、12〜3月にかけて出荷できる里芋の栽培もスタートさせた。

「大事なことは、そこ(研修)で得たものを自分の中でどうしていくか。教わったことをそのままやったんじゃ意味がない。それは河合さんのやり方ですから。親父からも「やりたいようにやってみたらいい」という後押しもあって、今まで自由にやってこれました。今ではうちに研修にくる人もいるんですよ。」(久保さん)

ベトナムから来た研修生にもらったお礼の色紙。

ぐんぐん生える久保農園の小ねぎ。

 

収穫から食卓までの時間を短く!
持続・継続可能な販売体制を構築せよ

久保さんのこだわりは、野菜の鮮度と独特の販路にもある。農作物は作って農協に卸すという流れが一般的だが、久保さんは農協だけに頼るのではなく、信頼を置ける業者に農園まで野菜を取りに来てもらう販路を構築。その理由としては、従来の出荷方法だと値段やルールに縛られることが多く、鮮度をキープする上でも久保さんのスピード感や経営理論と合わない点が多く、イレギュラーな案件にも対応しにくいからだという。

ふっくらとした久保農園の枝豆。

また鮮度に加えて「持続可能な方法で」とのこだわりもある。その一例が長岡駅直結CoCoLo長岡食品館内にある、やさい・くだものの店シミズの久保農園独占ブース設置だ。5品目以上の新鮮な野菜が並び、その中でも人気があるのは、その日の朝に採れた枝豆だ。実はこの枝豆、11時に店頭に並び、オープンの10時に間に合っていない。なぜか?そう、もちろんここにも久保さんなりの哲学がある。

その理由は、朝10時オープンに間に合わそうとすると、早朝4時から作業を開始しなければならず、毎日そのために従業員に早起きしてもらうのは酷だし、久保さん自身も早起きが大の苦手ということもあったからだ。久保さんが就農した10年ほど前は、直売所ブーム到来で野菜を日の出前から収穫していた時代もあったというが、久保さんはそれでは長続きしないという判断をした。それでも朝採れの新鮮な枝豆を届けたい、そして農家としても持続可能な方法ということで交渉を重ね、あえての1時間遅れの店頭出しに至った。

枝豆の房の大きさをチェックしている様子。

「野菜は1日遅れただけで鮮度が落ちてしまいます。だから、枝豆をもいでから茹でるまでの時間をいかに短くできるかが大事なんです。朝7時ごろ収穫して11時に店頭なんで、最速で収穫から4〜5時間で食べている人もいると思いますよ。関西だと京都高島屋とかに枝豆を出していますが、これも、採ったものを最低でも次の日には店頭で並ぶようにする。そのスピード感を維持するためには従来のやり方ではなく、自分で策を考えるしかない。そこで、誰でも使えるヤマト運輸を使っています。コストはその分かかる。でもそれだけの売り上げが見込めればいい。これだって、農協任せでは実現しないことです。野菜を作る技術も大事。でも、それを消費者にいかに新鮮なまま届けるか。そこを考えるのだって農家の仕事だと思うんです」(久保さん)

久保さんの朝採枝豆は、11時の店頭出しの際にそれを求めてお客さんがブース前で待っており、毎日完売するという人気ぶりだという。

CoCoLo長岡食品館内にある、やさい・くだものの店シミズの久保農園独占ブース設置の様子。(写真提供:久保さん)

久保さんは年に一度関西に出向いて出張販売も行なっている。写真は大阪のデパート、あべのハルカスにて。(写真提供:久保さん)

出荷前の袋詰めされた枝豆。筆者も茹でたものを味見したが、粒が大きくて甘みがあり、美味!

通常、枝豆は40日程度の出荷期間が主流だが、久保農園では100日間の出荷を目指している。世界に42台しかない枝豆専用のコンバインも導入し、より多くの収穫量実現を図ろうと奮闘中だ。

オレンジのボディが目印の枝豆専用コンバイン。

また、農園を拡大していく中では「お金をどう使うか」を常に意識することが重要で、その中には農薬に対しても久保さんなりの考えがあった。

「農薬は多くの人が使いたくないと言いますし、僕らだって使いたくない。食の安全もそうですが、一番の理由は散布する我々自身にも健康とコスト上のリスクがあるからです。農薬だってコストなので、考えなしに何でもかんでも撒いていられない。だから、そう謳ってはいないけれど、無農薬で作った野菜はたくさんあります。でも『無農薬野菜』として契約すると、万が一不作だった時に、何も提供できなくなってしまう。だから契約に縛られず、でも農薬は極力ふらないようにする。 農薬より、人件費を使って草を取った方が安くて早い、ということはよくありますし。でもそのためには日々の観察が必要です。予防すべきか、地道に手で草を取りのぞくのがいいのかを研究してます。長年続けてくると何%位虫に喰われるかわかりますし、それなら100%を目指すんじゃなくて、喰われるであろう20%を余分に作っといたらいいとかね。うちは田んぼと畑を輪作してますが、水田に水を張ることで虫が生きていけない環境を作り、自然と防虫力が増した耕地も出来上がっています。そんな風に、やり方はいくらでもあるはずです」

取材日は雨で多くのカエルたちが枝豆の豊作を見守っていた!?

 

念願の“農業用高級外車”導入!
農家を継ぐにあたって決めた3つの目標とは

久保さんは農家を継ぐにあたって3つの目標を立てた。そのひとつめが世界最大の農業機械メーカー、アメリカのディア・アンド・カンパニーのトラクター「ジョンディア」に乗ることで、今年の春にその念願の夢を叶えた。これについて奥様に話を聞くと、「もう家(が買える値段)です。だからもうそこ(ジョンディア)に住んで欲しいって言いました」と苦笑いで話してくれた。数千万円ほどの大きな出費だったが、久保さんに後悔はない。

久保さんの子ども達とジョンディア。タイヤだけでもかなり大きいのがわかる。(写真提供:久保さん)

「“親子三代で使える”、がキャッチフレーズで、その名の通り耐久性がものすごくあります。どんな面積でどんな風に使いたいかが明確なら、非常に使い勝手のいい機械。長い目で見れば良い投資ですよ」(久保さん)

ジョンディアの日本代理店からいただいたというケーキ。「これもらったら買うしかないですよね」と久保さん。(写真提供:久保さん)

ジョンディアトラクター本体(緑部分)と後ろのパーツ(白色部分)は別々で、このパーツを替えると様々な使い方が可能になる。

ふたつめは、1億円の売り上げを達成すること。現在久保農園は従業員2名、父母2名、 パートさん1人、久保さん夫妻の計7人の少人数体制ながら、目標達成に向け日々邁進している。しかし久保さんは、1億円達成にはまだまだ課題が山積みで、戦略を練り直す必要があるという。

「やっぱり商売だから稼がないと。稼げなかったら、どんなにいいもの作ってても長続きできない。だから自分でやればタダ、みたいな考えは一切なし。自分の人件費はむしろ高く設定するんです。その中で自分はどんな役割を果たせるか。常に企業としての尺度、お金の尺度を意識しないと。自分が働く人件費、社員、パートさんたちの人件費、みんな違います。それが一緒だったら、僕がパートしたほうがいいってなっちゃいますから。誰が、どのタイミングで何をするかを見極めて、そのパズルをするのが自分の仕事。事業も売り上げも拡大しているのに、就労時間は減っています。だから長く働けばいいということではなくて、いかにちゃんと考えて、みんなで意識を持ってテキパキやるかなんです」(久保さん)

気さくな久保さんはいつも笑顔を絶やさない。

最後に、三つめの目標はベンツの車に乗ること(プライベートで!)なのだとユーモアたっぷりに語ってくれた。

「みんな農業は大変って言いますけど、僕は大変でもいいじゃんって思ってます。ジョンディアを買うときも、「そんなの使ってるやついないから、できないよ」と周りから言われたんです。でも、それっておかしいと思いませんか? やったことがないからって、できないことにはならない。だから今までがどうとか、他の農家がどうっていうのは気にしません。そもそも他の人と比べていても意味がないと思うんです。どんな態度で農業に臨むか。僕はそれが大事なことだと思っています」

従業員と笑いながら作業をする様子。

まだまだ続く、若手農家の奮闘記。久保さんの姿勢や明るさ、ユーモアは、これからの日本の農業にとどまらず、それを取り巻く環境さえも変える光を放っている。

 

Photos &Text Shizuka Yoshimura

久保農園
[電話]   0258-29-0623
[E-mail]   kubonouen@hotmail.co.jp
[Facebook] https://www.facebook.com/profile.php?id=100015083807972
▼久保農園の野菜が買える場所
やさい・くだものの店シミズ
[住所] 長岡市長町1丁目1668-1
[電話]  0258-86-5363

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