地域資源を世界ブランドに!NEOSのデザインから学ぶ「地元のよさを形にする思考」
2018年5月、経済産業省・特許庁の研究会が「デザイン経営」宣言を発表した。欧米に比べ、デザインへの意識が低く競争力に欠ける日本企業の現状を前提に、ブランド構築とイノベーション実現にデザインを活用する「デザイン経営」を推進しようというもの。状況がどう変化するのか注目したいところだが、すでに企業や教育の現場ではデザインマネジメントは積極的に導入され、実践されている。
新潟県長岡市のNEOS(株式会社ネオス)は、グラフィックデザインの枠を超え、一歩踏み込んだブランディングを業務の主軸とするデザイン制作会社。「長岡の街を歩けばNEOSの作品に当たる」というくらい、目を引くポスターや商品を数多く生み出している。その心躍るデザインワークは、どのように作られているのだろう。事務所を訪ね、代表の山本敦さんとスタッフのみなさんにお会いした。
地域資源のブランド化で
街をもっと盛り上げたい
山本さんは長岡市の小国地域出身。長岡工業高等専門学校機械工学科を卒業後、上京して就職したシチズン時計田無製作所での外装設計がキャリアの出発点となった。デザイン室とやりとりする中でデザインを学びたいという意欲が高まり、在職中に桑沢デザイン研究所に通ってグラフィックデザインを習得。卒業と同時に退職し、都内のデザイン事務所と大手広告代理店系プロダクション、新潟市のデザイン事務所を経て長岡にUターンした。
1990年に山本さんが1人で始めたNEOSは、この夏28周年を迎えた。スタッフは男性が9人、女性が8人。少しずつ増えて手狭になり、また2004年には中越地震で被災し、市内で移転を重ねて現在の事務所が5番目となる。
「バブル後の不景気で売り上げがなくなったこともあったし、アップダウンが多々ありましたね。1993年にMacを導入して、たぶん長岡でいちばん最初にMacをデザインに使い始めた会社はうちだと思う。インターネットが話題になり、2000年にウェブを始めて、Adobe GoLiveというソフトを使って自分でウェブサイトを作ったこともあります。しかしあまりに⼤変で、ウェブは自分でやらないほうがいいなと(笑)。人を雇うことにして、徐々にスタッフが増えていきました。
現在のメインの仕事は中小企業や行政のブランディングです。ポスターやロゴマークをデザインしてほしいという依頼だとしても、そこから全体的なブランディングに関わらせてもらうことが多いです。この地域の資源をしっかりとブランド化し、長岡の街そのものを盛り上げていきたいですね」(山本さん)
“ココロを動かすデザイン”をコンセプトに、積み上げた実績はポスターなど紙媒体のグラフィック、パッケージ、CI・VI、ウェブや動画、空間の制作、そしてブランディングと多岐にわたり、受賞歴は枚挙に暇がない。
山本さんの右腕的な存在で、多くの企画を担当する村上さんはこう語る。「デザインだけだと奥まで入って話ができないので、納品したデザインがその後どのように汎用されるか、消費者の心をどう掴めるのか、どんな利益機会がこのデザインで設けられるのか。商品の販路までお客さんと一緒に考え、ご提案しています」
和紙、お米、お酒、錦鯉……
デザインにあふれる地元愛
NEOSはこれまでどんなものを手がけてきたのか、チャーミングな作品の数々を紹介したい。担当のみなさんがそれぞれ解説してくれた。
山本さんが教鞭を執る長岡造形大学の卒業生で、入社3年目の小林南穂さんが担当する「ふくら」は、和のある生活を提案する自社ブランド「わらぶ」の商品のひとつ。地元の小国和紙を使った愛らしい小物入れで、縁起物モチーフが32種+猫モチーフが8種、合計40種ほどある。この秋に開催された「第86回東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2018 LIFE×DESIGN」にも出品された。
「大学では山本研究室でグラフィックデザインを学び、卒業制作は紙ものがいいなと思ってこれを考えました。IDS大賞をもらったので、これは本気を出さなければ、と長岡市の『ものづくり未来支援補助金』に応募して採択されました。最初は完全に手作業だったので、数を作るためにはどうしたらいいか考えて。まぁ、いまでも、ほぼ手作業に近いのですが。和紙をふっくらさせる方法は企業秘密です(笑)」(小林さん)
小林さんと同様、長岡造形大学の卒業生で入社15年目の山本拓志さんは、デザイナーとして、またアートディレクターとして活躍中だ。NEOSで数多くのグラフィックやパッケージのデザインを手がけ、受賞歴も華々しい。
長岡市全域のプロジェクトに携わるNEOSだが、山古志のプロジェクトはとりわけ多い。錦鯉ブランドを広く発信するため、市内の酒蔵とコラボレーションした日本酒の提案も。
「錦鯉養殖組合からのご依頼は、錦鯉モチーフの扇子を作りたいというお話でしたが、きちんとキービジュアルを作り、錦鯉をブランド化していきましょうと提案しました。先に錦鯉のマークを作って、それを目立たせるために背景を黒地にして。日本酒は瓶にシルク印刷を施した特注ボトルで、印刷屋さんと一緒に苦労して作り上げました」(拓志さん)
「こういったコラボ商品の場合、どこと一緒にやろうか、企業さんを選ぶのに苦労しますが、越銘醸さんのお庭に大きな池があって、そこに山古志の養鯉場の錦鯉がいて。鯉が大好きな社長さんなんです。お酒の話をしに行ってるのに鯉の話で終わっちゃう(笑)。越銘醸さんはこのプロジェクトにぴったりでしたね。とても喜んでくださいました」(村上さん)
山古志の神楽南蛮を使った「小太郎サイダー」のパッケージデザインもNEOSによるものだ。
キリッと冷やせばピリッと爽快! 山古志の唐辛子「神楽南蛮」がサイダーに
長岡には美味しいお酒もあればお米もある。米どころ・越後長岡で誕生したブランド米の先駆け、コシヒカリ。「長岡うまい米コンテスト」の上位20位までの生産者のコシヒカリをブレンドした「金匠(きんしょう)」は、パッケージからトップオブザトップの輝きを放ち、「もっといい米を作ろう!」と生産者の意欲も掻き立てている。
ユニークなプレゼンで生まれる
ポジティブな競争意識
NEOSでは、クライアントへのプレゼンでユニークな方法を採ることがある。複数のデザイナーがそれぞれプランを考え、社内で絞らずに提出してクライアントに選んでもらうというのだ。
「複数のデザイナーの案をお客さんに選んでいただき、選ばれたプランを作った人が担当になります。こっそり私の案を混ぜることもあるんですよ(笑)。バリエーションがあるほうが、お客さんも嬉しいんじゃないかなと思います。長岡造形大出身のデザイナーが3人いて、デザインを引っ張ってくれていますが、複数案を出す方法でいい意味での競争意識が生まれ、切磋琢磨しているようです」(山本さん)
たくさんの米菓メーカーが競合する長岡市で、工場から作りたてを直送する通信販売のギフトが人気の「新潟味のれん本舗」。季節感あふれるパッケージとカタログをNEOSが担当している。
明治20年創業、長岡市三島地域で味噌や漬物を生産する柳醸造株式会社のブランディングでは、人口減少や少子化、食文化の変化などのマーケティング、競合他社のリサーチ、社員へのアンケート調査等をじっくり行い、コンセプト設計からロゴマークのデザイン、商品パッケージ、ウェブサイト、社員が使う名刺までトータルプロデュースを行った。
築85年、廃校の木造校舎に
3社のチームワークで息を吹き込む
長岡に友人が来たら、真っ先に連れていきたい場所がある。築85年の木造校舎をリノベーションした建物に地産地消のレストランやベーカリーが入った「和島トゥー・ル・モンド」だ。NEOSは建築事務所2社と共にこのプロジェクトに携わり、ロゴマークのデザインとエントランスのオブジェ「光壁(ひかりかべ)」を制作した。
「廃校になった島田小学校の最後の校長先生にヒアリングをして、校舎だけでなく、2万平米の敷地全体を司る言葉を考えて、レストラン、パン屋さんなどのコンセプトを提案しました」(村上さん)
和島トゥー・ル・モンドについては下記の記事もぜひ参照していただきたい。
100年の時をこえて、本物の物語を伝える~和島トゥールモンド~
2020年にいよいよ30周年
NEOSが夢見る未来とは?
30周年に向け、ますます円熟味を増すNEOSのデザインワーク。昨年から今年にかけての新作も、どれも高く評価されている。
次々にやってくるプロジェクトをピックアップし、伝えていくニュースレター「デザインの力」は2018年9月号で167号を数える。「毎月この1面をみんなで取り合うんですよ」と笑う村上さん。
さて、2020年に30周年を迎えるNEOSの未来を山本さんはどうイメージしているのだろうか。
「地方の中小企業の人材不足は長岡に限らず全国的なものですが、地域資源だけでなく、企業のプロモーションやブランディングもしっかりやっていかなければと、それが私たちの役割だと思っています。
私が大学の仕事で忙しいこともあり、プロジェクトはスタッフを信頼して任せていて、みんな責任を持ってやってくれています。9月に新潟ADC(アートディレクターズクラブ)の審査会があり、毎年応募することを目標としてやってきましたが、受賞が切れたことはありません。コンペに出していこうという、そのスタンスは続けていきたいですね。
月例の社内会議で拓志が『NEOSをこれからどうしたい?』といった質問を投げかけました。そうしたら『クリエイターが集う自社ビルを!』という話になって。料理ができるキッチンがあって、地下にはバーがあって、屋上では花火が見られて。ビルの中にライターやカメラマンなどフリーランスの人たちもいて、いろいろなジャンルの人たちが集う場所が作れたらおもしろそうですね」(山本さん)
国がデザイン活用に本腰を入れ始めたいま、改めてデザインの機能、デザイナーの職能が注目されている。長岡造形大学からデザイナーの卵が輩出される長岡は、若いクリエイターたちが共栄する「デザインの街」「ものづくりの街」として活路を切り拓くことも可能だろうし、質の高いデザインを享受する市民は目利きにもなれる。パイオニアのNEOSがその旗振り役となり、さらなる活況が生まれることを期待したい。
Text: Akiko Matsumaru
Photos: Hirokuni Iketo
(作品写真は株式会社ネオスからお借りしました)
株式会社ネオス
[住所]新潟県長岡市幸町1-3-10 パートナーズPLAZA内
[電話]0258-33-8836
[URL]https://www.neos-design.co.jp