震災、合併、人口減少。「課題先進地域」越後川口で熱い住民たちと語る、ふるさとのこれから
大雪が降り続き、ようやくの晴れ間が見えた2026年2月17日。そこかしこに除雪によってできた雪の壁がそびえ立つなか、「な!ナガオカ」の恒例企画「TOWN MEETING」が開催された。第1回は宮内・摂田屋、第2回は下々条町内会という、いずれも長岡市の中心部に近いエリアでの開催だったが、第3回となる今回は2010年に長岡市と飛び地合併した中山間地・川口地域(旧・川口町)での開催になった。
歴史的にも地理的にも長岡より小千谷や魚沼、十日町といった地域とのつながりが強く、独自の文化を育んできた川口は、2004(平成16)年10月23日の中越地震(中越大震災)で最大震度7を記録し、家屋の倒壊や損壊などによる甚大な被害を受けた。それ以降、復興の遅れや中山間地という立地のデメリットもあって人口流出は止まらず、震災翌年の2005(平成17)年に5,233人だった人口は、2026(令和8)年6月現在、7割足らずの3,569人にまで減少している。
状況は厳しいが、一方でこの地域には近年、子育て世代の移住者も増え、長野県から流れてくる信濃川と谷川連峰から流れてくる魚野川の合流地点、および上越線と飯山線の結節地点であることを生かした沿川/沿線の各地域との交流イベント「えちご川口合流博覧会」など、ユニークな試みも目立ってきつつある。
川口に長く住む人、新しくやってきた人は、それぞれどのような思いで地域を見つめ、どのような実践を重ねているのだろうか。川口コミュニティセンターで開催したミーティングはさまざまな立場の意見や志が飛び交う、この土地ならではの熱いものになった。
「おせっかい」「勝手にやる人」が
震災後の地域をケアしてきた

——恒例の公開取材「TOWN MEETING」、第3回は中心部から一気にジャンプして、川口での開催となります。現在「長岡市」という広い括りの中で語られる場所ではありますが、やはり旧長岡とはまた異なる独自の文化を持ち、この土地ならではの暮らしを営んできた方々が考えていることを聞いてみたいと思っています。
ゲストのお三方をご紹介します。まずは、川口でこの人を知らない人はいないのではないかと思われる、スーパー「安田屋」の山森瑞江さんです。今日は安田屋さんのオードブルをつまみつつお話をできればと思いますが……瑞江さん、タイムリミットがあるんですよね。
山森瑞江さん(以下、山森)そうなんですよ、今日は夫が所用でいないので、私はこのあとレジ締めをしなければならなくて。早めに言いたいことを言って去る感じになるかと思います(笑)。
私が安田屋に入って、37年になります。家業ですが、最初は入る気はなかったんです。ただ、24歳のときに事情があって、「兄弟でお前が一番向いてるから継いでくれ」と母親に頼まれまして、結婚と同時に入社して。その時はまだ川口は本当に活気があって楽しかったし……もちろん今が楽しくないわけではまったくないんですけど、すごく様変わりしたなとは感じます。
私自身が大きく変わったのは、中越大震災の時ですね。社長である母も夫も不在で、私が子どもの面倒を見つつぐちゃぐちゃになった店を守らないといけない状態が続くなかで、店の緑色のエプロンを、寝るとき以外はずっとつけていたんです。10日間くらいかな。汚れていくんですが、エプロンに「安田屋」とあるのを見た人が「なにか食べるものはありませんか」とか声をかけてきてくれるもので、外すわけにはいかなかったんですね。
いろんな人を助けてあげたし、いろんな人から助けてももらったし。その経験から人と人のとのつながりが大事だ、よし、「おせっかいおばさん」になろうと思ったんです。今の川口は人口も減って、子どもも減って、寂しい感じになってますが、人とたくさん話して、困っていることや考えていることをどんどん聞くのが地域のためでもあるし、人が困っているところにはニーズもあるので、お店のためでもあると思っています。
——ありがとうございます。続いて、砂川祐次郎さん。川口の竹田という集落で、なんとすべて手書きのフリーペーパー「ぼちぼちたけだ」を発行していらっしゃいます。
砂川祐次郎さん(以下、砂川) どうも、砂川です。埼玉県の川口市からここ越後川口に、つまり川口から川口に来て30年弱になります。もともと温泉が好きで、川口温泉の近くに空き家があったから、歩いて行って一杯飲んで帰れるなと思って引っ越して来ちゃいました(笑)。
普段はここ(会場である川口コミュニティセンター)の主事をしていますが、住まいは全7世帯の竹田集落で、「竹田元気づくり会議」という団体の代表もしています。地震の前は10世帯だったんですが、7世帯に減って寂しくなったねという話から立ち上がった団体で、たまたま僕が代表を任されたまま、逃げられなくなっている感じですね。
今日もその活動で、集落内にある「きのこの展望台」に行ってきました。80歳のおじいちゃんから電話が来て、展望台の屋根の雪が心配だと。で、僕がかんじきを履いて展望台まで歩いて登って、屋根の雪を落として。それだけだと「大変ですね」で終わるんですが、そうした集落の出来事を何かしらニヤッとできる話題として書いているのが「ぼちぼちたけだ」です。今年で17年になりますが、定期的に出すものではなく、ネタが溜まってきて、そのうち神様が降りてきたら突然ペンを持って書き出すという感じで作っています。竹田以外にも、川口地域内のいろんな場所の話を掲載して、まあ、勝手に地域おこしのためにやっていますね。

——と言いつつ、なんと第86号まで出ているんですね。
砂川 17年で、定期刊行として計算すると86という数字にはならないんですが、なにせ神様が降りてこないと書けないので。2025年度は3号くらいしか出していません。

——では、次の神様待ちということで。続いては、川口でNPOやまちづくり団体を運営されている中林道泰さんです。
中林道泰さん(以下、中林)私は生まれも川口で、ずっと住んでいます。地震のときは「道の駅越後川口あぐりの里」という施設に勤めていました。前年に道の駅として登録されたばかりだったんですが被災して、なんとかそれを整えたあと、新潟県の地域復興支援員制度で、先ほど砂川さんがお話された竹田集落に入りました。5年ほどどっぷり地域の方々と触れ合ってからNPO法人「くらしサポート越後川口」の所属になり、その事務局をしています。もうひとつ「越後川口エンジン」というまちづくり団体への協力・支援を行っています。イベントの協力やシェアスペースの活用など協力しています。
今までいろんな地域の方々と接してきましたが、川口にはそれぞれの「ワザ」をお持ちの方がとても多くて。そういう人たちの力をうまく活かせる、活躍できる場を作れないかと思いながら活動しています。
——ありがとうございます。お三方とも、日々の仕事がありながら、それを超えて「おせっかい」とか、「自分で勝手にやる」とか、誰かが与えてくれたものじゃなく自分からやるべきことを見つけてこられたことがわかります。かつては人がたくさんいたから回っていた地域でも、今は自分の気にする範囲を1から1.2、1.5にしていくようなことが大事なんでしょうね。
それは一方で一人あたりの労力が増えることでもあるので「やってよかった」がないと続かないと思うんですが、そういうエピソードはありますか?
中林 具体的に誰とは言えませんが、地域おこしの活動をしてると「こんなことしたって意味ないだろ」っていう方もいらっしゃって。それでも活動を続けながらその方々とも話を続けていると、何がきっかけかはわかりませんが、ある日突然、カードが裏返ったように「一緒にやろうぜ」とスタンスがコロッと変わることがあるんです。 否定的だった人がめちゃくちゃ協力的になって一緒に活動したり、自身もプレイヤーになる方が現れたりすると、「諦めないでいてよかった」という気持ちになります。
砂川 傍観者的というか、言葉は悪いですけど待ってるだけだった人が、「勝手にやってる人」によってちょっとケアされたという気持ちになるのか、「自分にもこういういい影響があったんだから、自分ももしかしたらできるかも」と、やる側に回るのは、すごくいいことだと思います。
僕が地域活動で重要だと思っているのは、「やるからには、絶対に頑張りません」ということです。「竹田の元気づくり会議」でも、やりたい人だけで、やれる範囲でやりましょうと言い続けてます。7世帯だから全員に来てほしい、手伝ってほしいっていうよりも、たった7世帯の中で「やりたいな」と思った人が集まって、できることをちょっとずつ積み上げていけば、それはこの先も続いていくものになるだろうなと。
——仕組みとか義務感でやらせるのではなくて、やりたいという気持ちの人で同志のようになれれば、一番健全ですよね。
砂川 だから、集落の飲み会も、嫌な人は来なくてもいいと言っているんです。そうするとメンバーは固まってくるんだけど、「やるけど、無理に来なくてもいいんだよ」ということはみんなに伝えていれば、来ない人も差し入れだけはくれたりとか、そういう関係はちゃんと継続する。
顔を合わせる現場があることで
ニーズや困りごとが見えてくる
——なるほど。ちゃんと全員に同じ情報が共有されているというのは、公共の原点ですね。瑞江さんは寄り合いに仕出しなんかをされることも多いと思うんですが、そういう際に地域をどう見ていますか?

山森 「料理屋さんもいいけど、やっぱり安田屋の方がリーズナブルでボリュームがあるから」って頼んでくれる方がいるので、オードブルはおかげさまでいろんなところで出しています。ただ、一年ごとに地域の役員は交代するので、若い人の代になるとイオンなどのオードブルパックを選ぶ方も多くて、時代の変化は感じますね。
若い人たちを取り巻く環境でいうと、川口には公営住宅がいくつもあるんですけど、うちの息子が結婚して家を出るときに公営住宅への入居申請をしたら、入れなかったんです。調べたら、今の仕組みでは独立前の世帯全員の収入、つまり私・夫・息子の全員を足した収入が規定よりも多いと入れない。そうすると、自営業者の後継ぎなんかが世帯を構えても、公営住宅に入れないから川口の外に出ていってしまいます。小千谷とか、魚沼とかでアパートを借りて、そのうち家を建てて、とうとう帰ってこない。おかしいですよね。私がコミュニティセンターの運営委員の会議で「そんなことしてたらどんどん人口は減る、子どもだって減る。絶対おかしい」と意見を言って、それが市長まで陳情されて、今年度の4月から規定が変更になりました(※)。
※人口減少が深刻な中山間地域の川口・山古志に限って、従来設けられていた公営住宅の所得制限を撤廃し、二拠点を構える人や市外からの移住者でも入居しやすいよう要件が緩和された。
——そもそも、まちに人が残らない構造があったということですね。身近な人が困っていることに「おかしい」と思って声を上げる人がいなければ、行政はそれに気づかなかった。
山森 そうですね。うちの息子は間に合わなかったので、市外に住んでしまいましたが。
——やはり「現場」を持っていると、誰かの困りごとにも敏感になると思います。皆さんに共通して、いろんな人と面と向かって話をする現場をお持ちですよね。誰が困ってるとか、こんなことがあったとか。その瞬間だけじゃなくても、後からそれが別の話に発展したりする。リアルな場所ではないけど「ぼちぼちたけだ」もそうだと思います。これを媒介に人間同士の会話が生まれる一つの種、話のきっかけとして存在していますよね。

砂川 「ぼちぼちたけだ」は竹田7世帯だけのものではなく、部数はもっと刷っているんです。届け先は川口地域内のお店だとか、あとは竹田集落から出て行っちゃったお家だとか。
——出ていった人にも渡してるんですか。
砂川 お隣の十日町市とか魚沼市とかでも読みたいって言ってくれてる人がいるので、できる範囲で自分で届けています。
——自分で!?
砂川 郵送するのは簡単だけど、わざわざ持って行って「来ちゃいました。新しいのが出たよ」って届けると、そこでニヤッとできるわけです。「こいつ、マジで来やがった」って。そういう関係から地区の行事に参加してくれる人がいたり、不思議な縁がつながることもあれば、そうでないところもある。まあ、どっちでもいいんです。
——これが全部鉛筆で手書きというのもいいですよね。これが綺麗にデザインされてビシッとした作りだったら、ファンは増えなかったかもしれない。
砂川 電気がなくても書けますからね。あとは事業所さんとかお友達のところとか、いろんなところに行って「ごめん、コピーして」って言える。届けた先でも、「ごめん、これラスト一枚しかないからコピーして」。 そういう作戦で、ちょっとずつ部数を増やすという(笑)。その意味でも、自分が直接届けに行くのは大事だと思ってます。そこでの会話で、また新しいネタが生まれることもあるし。

——やはり、人が少なくなればなるほど話題の単位も小さくなるので、顔を合わせて話をしなければ何も始まらない部分はあると思います。それがお互いの安全と安心の確保であるということもありますし。
山森 安田屋で久しぶりに会ったおばあちゃん同士が、足が悪いのにずっと立って長話をしてるのを見ると、そう思います。一人で寂しい思いをするお年寄りの話をよく聞く今日この頃ですが、人の集まる憩いの場所は残していかなきゃいけないなと。
中林 私たちの管理している施設でも、よくお茶飲み会をします。平日昼間なのでおばあちゃんが多くなりますし、中には毎日のように来る人もいる。そういう方々の拠り所を作っているんだという意識でいます。冬になるとなかなか家から出るのが難しい独居老人の方もいらっしゃるんで、車で迎えに行って、お茶を飲みに来てもらうというのを試したら非常に喜ばれて。そこから、ようやくいろんな話が出てきたんです。「安田屋さんがあって買い物には不便ないんだけど、服が欲しくて」とか「薬が欲しいけど、もう運転はできないから病院にどうやって行ったらいいか」とか。話しだすきっかけが大事なんですよね。
最近は、子どもたちからも彼らの感覚やニーズを聞かせていただいたり。今日もたくさんの子育て世代の方がいらっしゃいますし、そういう方々がこうやってお話できる場を、今後も作れればと思っています。
合併による「人ごと化」を
再び「自分ごと」にするには
——外に出て、人と話すことで初めて顕在化するニーズもある。そういうのは個人個人の小さな望みに見えて、実は川口という地域、ひいては長岡市という大きな単位の問題につながっていることがありますよね。
中林 一番象徴的なのは先ほど皆さんが言われたように、長岡市になってから公営団地になかなか入れないことです。その結果、地域の少子高齢化はますます進みました。それを解決しないと、子育て支援をする人だって何も先に動けないと思います。
——支所地域に来ると、よく「合併して不便になった」という声を聞きます。大きな自治体の一部となったことで、小さいながらもそれぞれが“真ん中”として独立していた地域が “端っこ”になり、公共サービスが硬直化したり行き届かなくなったとか、行政はその補完を、「おせっかい」な民間の自助努力に期待しているとか。ただ、それはあくまで個々の善意が支えているものであって、行政がもっとシステム的にやれることはないのか? とも思います。支所というより、好きな言い方ではないですが「本庁」が現場を見ていない場合も多そうです。人ごと、というか。

砂川 私もコミュニティセンターにいますから「どっちを向いて仕事してんだ」って怒られないようにしなきゃと思います。何がどっちかというのはご想像にお任せしますが(笑)、様々な立場の人たちが本来見るべき方向を見ないで仕事をしている場合があるから、そこは本分を大事にしていきたい。そういう意識がもうちょっと広がっていくと、川口にしても、長岡市全体にしても、自分ごととして捉える人が増えてくるんじゃないのかな。
——自分が住んでいる場所のためのことと考えれば、本当は地域から市町村、国単位に至るまで全てが自分ごとのはずなんだけど、川口に限らず、日本中がいつしか、それを忘れているような。でも、どうやったらだんだん「自分ごと」にできていくんですかね。
中林 みんな子育てや仕事があるなかで地域活動に時間を割くことが難しいのは、当然なんですよ。ただ、フルコミットは無理でも「このイベントの、この部分だけやってみない?」っていうような小さな参加の積み上げならありかなと思ってます。せっかくの日曜日に「イベントをガッツリ主催して、そこにずっと居てください」は厳しいけど、プレイヤー的な存在になる可能性のある人がいるなら、まずは一部分でも楽しくその景色を見ていただきたい。そこからなんだと思います。
砂川 あとは、そういうのは「自分ごととして考えろ」という風に外から言われることじゃなくて、内側から出てくるものだと思うんですね。例えば誰かがおもしろそうなことに気がついて、その人の内側からそれがポロッと言葉として出てきた時に、周りの人が拾ってあげて一緒に楽しめる場所や関係をいろんなところで作れるといいかな。
——そういう、些細な積み重ねが自分も地域やコミュニティの当事者であるという感覚を作ってくれるんですよね。自分の居場所がないとか、誰も話を拾ってくれないと感じる場所を「自分ごと」なんて思えないですから。
あとは、誰も興味なくたって自分にとってすごく大事なものがあるとか、他人やメディアが言ってる価値とは違うよさもあるのだと気づいていけるといいですよね。

山森 私の場合は、それはお客さんが喜んでくれることなんでしょうね。お店でもお客さんが選んでいるものより「こっちの銘柄の方がいいよ」なんて言って渡したりするおせっかい焼きなのですが(笑)、次に来たときに「すごくおいしかった」って言ってもらえるのが自分にとってもうれしいことだし、自分にとっていいことをやっていると「自分ごと」が積み上がる。その繰り返しで、商売をしているんです。
今日は若い人たちが何を考えて、これから川口をどういうふうに盛り上げていきたいと思ってるのかをすごく聞きたかったんですけど、これからレジを閉めなきゃいけないのでここで失礼します。申し訳ないですが、記事を楽しみにしてますね。
——瑞江さん、ありがとうございました。また戻ってきてもいいんですよ(笑)。
マイナスに見える環境から
いかにプラスの面を見出すか
——そろそろ、会場にお越しの皆さんもお話ししませんか? どなたでもいいので、思ったことがあれば、なんでも。

宮美紀さん(以下、宮) 宮と申します。川口に住んで8年目になりました。今朝は子どもと「染み渡り」に出て散歩を楽しみました。染み渡りというのは雪が凍って、人が乗っても沈まなくなるという、この地域の、この時期ならではの現象です。気温がマイナス8度くらいになると、2メートル以上積もった雪の表面がカチカチに凍るので、その上をどこまでも歩けるんです。いつもと違った視点でまちを見られて、すごいロケーションですよ。
私は最初、地域おこし協力隊として川口に入って、そのまま川口で起業し、今は「カワコス」というコスプレイベントを運営しています。冬には「雪ロケ」といって、雪原と化した公園で撮影イベントを開催するんですが、いつも東京をはじめ、関東からたくさんの人が来てくれます。
中林 あ、同じ公園で、今夜は「雪中キャンプ」というイベントもやってます。雪上にテントを張って一晩過ごすんですが、今日来るのは18名だったかな? いつも市外・県外から多くの方が、この景色に魅力を感じて来てくださってます。雪もあるし、晴れたら越後の山が綺麗に見えますから。観光的には1月以降はほぼ収入源がないような場所なので、なんとか冬のアクティビティを増やしたいですね。
——特に冬は、ここまで来ないと絶対に見られない景色がありますしね。その魅力の一方で、生活している皆さんは雪おろしや人口減少などの大変さも味わっているわけですが、外から来られた皆さんはそのバランスはどう取られているんですか。
中林 砂川さんはもう雪おろしのプロ級ですよ。
砂川 はい、だいぶプロです(笑)。最近では隣の集落から頼まれて除雪に行ったりもしますね。エクササイズだととらえればいいんじゃないでしょうか。「除雪はエクササイズ」。キャッチコピーができますね。
宮 子育て世代としては、うちの下の子の代は川口全域で合わせても7人。その上が4人?今年は新入生がギリギリ2桁いるかいないかで、今後に不安はありますね。中学校と小学校を全部合わせても30人とかになってくると、教育はどうなるんだろうと。そうしたら小千谷の学校に行かせるのか、長岡のほうに行かせるのか……とするしかない。さっきの、若者や自営業の跡継ぎさんが流出しているというのと同じ話です。

——逆に、宮さんのように移住してくる方はどれくらいいるんでしょう?
宮 最近は少ないですが、人口に対する移住者の割合は、長岡の各地域と比べても突出して高いと思います。しかも、地域づくりに興味のある人が多いですね。「ここなら何かができる」と思わせる何かがあるんだと思います。山間地ですが、電車もあれば高速のインターチェンジもあって、意外と便利ですし。これは川口の人ももっと意識したほうがいいことだと思います。
——課題が多い地域は、ある面を見れば先進地域なのだとよく言われますね。やれること、試せることがあるという意味では、地域づくりや社会の未来像を考えたい人には、大いに余地がある場所なのかもしれません。いや、おもしろいですね。もっと他の皆さんの声も聞きたいです。
樋口こうたさん 川口で米を作っている農家です。米は秋には収穫してしまうので、冬場の仕事を確保するために、昨年からふきのとうを作りはじめました。
ビニールハウスなどは使わず、最初は露地で育てはじめます。秋口にランナーという地下の茎を畑に植えて株にして、11月くらいにそれを起こし、冬場に屋内の倉庫の一角でふきのとうにまで育てるんです。倉庫でも十分寒く、早ければ12月から収穫できるので、他の地場物に先んじて出荷ができるんです。冬は農業収入が激減するので、その対策の一環でやってます。

——なるほど、他が市場に出回る前、希少で値段も高いうちに出荷時期を持ってくるんですね。おもしろいですねえ。不利なシーズンゆえの商機を考えられるのは素晴らしいことです。宮さんや樋口さんの活動って、一般的には不便だとかマイナスに見える環境を、どのようにプラスにできるように使うかということですよね。地域の生活文化というのは、そもそもそうして育まれてきたものでもあるし。
中林 平沢兄弟も何かしゃべってよ。

平沢康隆さん 振られた(笑)。川口で毎年、中越地震があった10月23日の前後に開催する「おかげさま感謝デー」というイベントの実行委員会をしています。地震のときに全国からいろいろな物資を送っていただいたり、多くのボランティアの方に助けていただいたので、その方々に感謝を伝えるイベントですね。各地で震災復興支援をされているキャンドルアーティストのCandle Juneさんも川口に入ってくださっていたので、そのご縁で他の被災地域との交流もしています。
平沢康宏さん(以下、平沢弟)当時来てくれた方で、今も連絡をくれる方もいますし、地震で大きなダメージは受けたけど、それを経ていろんな関係が生まれたという事実も大切なこととして自分たちはとらえています。そのことを伝えたいという気持ちはありますが、ただ真顔でやるんじゃなく、音楽だったり、アートだったり、内外から人が集う・語るという部分を大事にして、フェスティバルのようなイベントを始めました。
当初は、いろんな人から反対されましたけどね。
——そうなんですか。
平沢弟 自分たちも含め、誰もやったことのないことでしたから。手探りで企画・運営・スケジュールなどの計画を支所に何度も持っていって、少しずつ実現に向かっていきました。今みたいにまちづくり・地域づくりをする人が外から来るような時代ではなかったけど、僕たちは地元で、顔の見える関係がすでにあったことで成り立ったと思っています。

——災害はもちろんないほうがいいですが、起こってしまった「その後」の時間の中で生まれたものをどのように財産にするか、新たにできた関係をどのように育んでいくかというのは、すごく大事なことですね。そういう意味でも、物理的な距離だけではない人のつながりの作り方というのは、これから先もっと重要になってきそうです。
中林 私は長らく川口の中だけで活動してきましたが、最近は「外とつながらないとこれ以上進まないな」と思うことが多いです。例えば、小・中学校の総合学習に協力させていただくなかで、川口の子どもたちが川口のよさを知らない、単なる田舎でしかないと思っている状況を感じています。メディアの情報と地元の風景を比べてしまうとそうなりがちですが、きちんと足元を見れば他の地域にないよさもある。逆に、実地での外部との交流を経て自身で学んでもらうことも必要だろうなと思っています。
砂川 外とのつながりと言っても、「どのつながり方が正解」というのは別にないですからね。それぞれのスタイルの中で糸口があるところとつながるしかない。川口は歴史的にも、長岡市内だけじゃなくて、魚沼とか十日町、小千谷といった地域とのつながりのほうが多かったりしますし。
私の話だと、十日町・津南町を中心に20年以上前から行われてる国際芸術祭「大地の芸術祭」のボランティア「こへび隊」の募集イベントがアオーレ長岡で開催された際、そこでつながったメンバーがそれ以降、芸術祭に行く前に川口に寄ってくれるようになって。川口の「ラーメンつり吉」でお昼を食べて、安田屋さんでメンチカツを買ってから十日町に入るコースが、こへび隊の一部にでき始めているんです。他にも、中越大震災がきっかけでつながったメンバーの中には、魚沼でゲストハウスを始めた子もいますよ。
いい面も悪い面も語りながら
無理なく地元の今後を考えよう
——いいですね。役所がどれだけ「外とつながろう」と旗を振っても、結局は個人レベルの交流からしか何も生まれないんですよね。理想を言えば、それぞれが自分の好きなことによって自分の世界を広げていけば、勝手に外とつながるものですし。そういう意味でも、川口は文化的に近い十日町や魚沼エリア、現在合併している長岡エリアと、中間にあることを生かして両方のいいところを学びながら、うまく使えるといいですが。

阿部友里さん ただ、制度的に見ると逆の状況です。私は川口が長岡市になってから引っ越してきたんですけど、子育て世代では「合併してからあまりよくない」という方が多いです。私も、例えば子ども向けのインフルエンザワクチンの助成が、隣の魚沼市や小千谷市ではあるのに長岡市にはないことが気になったりします。医療費は日々の積み重ねなのでけっこう大きくて、近隣の自治体では病院にかかっても 0円の場合もあることを考えると、「なぜここで暮らしてるんだろう」と時折思いもします。小千谷とか十日町よりも条件がよければ人が動いてくるでしょうが、現状は住居や医療費の問題で出ていくばかり。
住居と仕事と子育てがセットになって、医療を受ける条件なども揃えばもう少し人口流出も減るし、むしろ戻ってくるかもしれない。若者も帰ってきて、やっぱり地元で子育てしたいなって思う人が増えるんじゃないでしょうか。
どこの地域でも小さな積み重ねで人の出入りは起こりますし、川口は「おせっかい」というか困ってると助けてくれる優しい人が多いので、私としてはもっと暮らしやすい地域にしていければいいなと思うんです。「なぜここで暮らしてるんだろう」なんて思わずに。
——ありがとうございます。最初にも言ったように「おせっかい」はもちろん大事なことですが、そうした自助努力がないと回らない状況になっているのは、行政の問題ですからね。だんだん「選ばれない理由」ばかりが積み上がり続けていく状況が改善するといいですが。
喜多村茜さん バスが半日に一本しかないとか、空き家を活用したいと思っても不動産価値が評価されないとか、ネガティブな面を見ればたくさんありますけどね。
ただ、おもしろいのは、よそから来てくれた人たち、特にお嫁さんたちはみんなすごくポジティブなんです。一方、地元生まれの人たちはぜんぜんネガティブ(笑)。おせっかいな人はおせっかいだし、無関心な人は無関心。とはいえ、そういう対比ができてきたのもここ10年くらい、外の人が入るようになってからなので、みんなで交流して、川口をよりよい場所にできればいいと思っています。これからは私もどんどんおせっかい側に回っていくだろうなと思うので、みなさん、よろしく(笑)。

——ここまでお話を聞いていて、地元を思う人たちの熱い思いがうずまいている川口であるというのが、よくわかりますね。だからこそ、行政も甘えていないでちゃんと応えなければならない。今日は長岡市の職員、川口支所の方々もいらっしゃっていますが、ぜひ。……といったところで、そろそろ時間ですね。このあともお話の時間は続くんですが、いったん中締めということで、前にいるお三方、一言ずつお願いします。

中林 今日はいろいろな方の話が聞けて、とてもありがたかったです。単に「川口よいとこ」というんじゃなくて、いいところも悪いところも見ていなかければ、地域は絶対によくならない。そのために、少しでも多くの方に、ちょっとずつでも参加してもらうことでプレイヤーを増やしていけるといいなと思います。
砂川 地域おこしって、無理してやることじゃないと思うんですよ。だから、みんな「地域の未来を背負うんだ」みたいに思いすぎないで、できる範囲でやりたい人がやりたいことをやっているというのが一番自然でいい。いっときだけ頑張りすぎて息切れするより、きちんと日々の暮らしを送りながら、少しずつ工夫を加えていければなと思っています。
宮 こういう話を、月に一回でも集まってできるようになるといいですね。コミュニティセンターとかでも。今後ともよろしくお願いします!
——公開取材イベントとしてはここまでですが、今日が終わっても明日がありますし、会話というのは誰かが発したものを誰かが受け取って、そうやってずっと続いていくものですから、この会がその糸口になればと思います。今日はありがとうございました。あとは飲みましょう!
トークの終演後、現場はそのまま「地域の寄り合い」といった雰囲気に。この土地に生まれた人、この土地を選んで住み着いた人、それぞれの思いと課題感が改めて示され、共有される現場があることで、硬直していたものは少しずつほぐれていくのではないか——という予感に溢れる場となった。冬には雪に閉ざされる豪雪地帯にあっても、このような対話の場が継続して生まれる熱い土地柄が、次なる芽吹きを生み出していくだろう。
また、川口では2026年7月25日(土)・26日(日)の2日間、毎年恒例の夏祭り「川口まつり」が開催される。山里の夏の風情と情熱あふれる住民との交流を求めて、ぜひ足を運んでみていただきたい。



聞き手&Text:安東嵩史(な!ナガオカ編集部)/Photo:池戸煕邦
未来へつなぐ「川口まつり」2026
日程:2026年7月25日・26日
時間: 25日15:00〜21:30/26日9:00〜20:00
会場:おまつり広場 長岡市川口支所前
花火大会 魚野川河川敷
問い合わせ:川口まつり実行委員会事務局
(長岡市川口支所地域振興・市民生活課)0258-89-3113
URL:https://www.echigo-kawaguchi.jp/event/2258.html



