開催は13年ぶり!男根猛々しい巨大な藁人形「道楽人形」を燃やす奇祭が復活
都会からの参加者に雪トラブル続出!
ツアー参加者が法末入りする1月14日は、北陸と東北が大荒れの天気予報。日本で有数の豪雪地帯の法末集落も前日から雪が降り続いていましたが、迎える村人たちは、朝の3時から除雪を行い、みんなを迎える準備を整えてくれました。
一方の「ムラビトになる旅」参加メンバーは、法末に向かう道程でトラブル続発! まず新幹線で長岡駅に着いた、都会から参加の男子2名が「都会の冬支度」仕様で登場。雪国を知るメンバーからは「ありえない!」と総ツッコミを受け、地元のホームセンター「コメリ」で雪国装備一式を購入してから向かうはめに。
さらに、小国の法末に向かう車は、路面の雪に悪戦苦闘。雪降りしきる中、スリップした車を押すこと三回。それでも都会の若者たちは、全然へこたれることなく「来る道だけでイベント満載!」と興奮気味。
かまくら作りと会場までの道つけ
到着したツアー参加者たちの使命は、東京都小金井市から来た20数名の子どもたちのために、かまくらを作ること。しかし、子どもたちのためと言いながら、結果的にすっかり楽しんでいたのは大人たちのほうでした。
村人4名、ツアー参加者7名は、ふわふわの新雪で4つのかまくらを作りました。ところが、ツアー参加者だけで作ったかまくらは、もろかった! 入口を掘っている間に崩れて、「な!ナガオカ」ライターも、雪に埋まる貴重な体験をしました……。
最後にツアー参加者の選抜メンバーが新雪をかんじきで歩いて、明日、道楽人形を作る会場まで道をつけに行きました。これが難儀!(なんぎ・新潟県の方言で「仕事がきつい」の意)
村人の内山昭平さんの歩く様子はすいすい、ところが、参加者の足は一歩ごとに新雪に沈み込み、引き抜くたびにモモ上げ運動のような負荷がかかり、終わらない筋トレのよう。
「きつかったぁ~」。
その後、暗くなってから除雪車が到着。道を作ってくれました。
「あの苦労は、何だったんだぁ!!!」
機械の力は偉大です。機械のない時代に生きてきた村人たちは、かんじき歩きも達人です。機械に頼ることで私たちが失ってしまった能力は、いっぱいあるのでしょうね。
いよいよ本番。道楽人形作りへ!
1月15日の本番の日。みんなの道楽人形復活への思いが届いたのか、天気予報では「大荒れ」の見込みだったのに、雪がやんで青空も! 朝7時半から、ツアー参加者が宿泊する「法末自然の家 やまびこ」では、餅つきが行われました。ずっしりと杵が臼に振りおろされる音が響き、あんこ、大根おろし、きなこ、お雑煮のお汁も食べてお腹はいっぱい!
9時からスタートした人形作り。稲を手刈りして準備をしたワラと、トバ編みをしたムシロを会場に運んでいきます。大人数だとさすがに早い。村人たちは、事前に準備した土台に、手際よくワラや葉のついた枝などを巻いていきます。脚立とハシゴの上での作業は、バランス感覚が必要とされます。驚異の村人たちの身体能力!
土台は木を十字にくんでスタート。枝を巻きつけ、芯にし、さらに、どんどん藁を巻きつけて円錐の形にしていきます。
円錐型に「男根」や手をとりつけ、周りをトバ編みしたムシロで巻いて綺麗にしていきます。サイノカミは新潟県のあちこちで見られますが、法末の道楽人形は希少です。「男根」をつけて、「顔」と「手」もつくのが珍しい。「男根」の位置も「もっと上だ」「いいや下だ」とそれぞれの主張があり、なにせ13年ぶりだから、「ああでもない、こうでもない」と言いながら、参加者たちは手も足も動かしていきます。
顔を書いたのは、正平さんから頼まれた、ツアー参加者のヤマザキさん。ハシゴの上で堂々と描き上げました。結構高い位置だから怖いはず。
腕や飾りをとりつけ、ディティールにこだわった、若々しく凛々しい道楽人形が誕生しました!
東京からきた参加者のサワくんは「手伝おうと思ってきたけれど、出る幕がなかった。途切れていたのに、さすがです。長年続けてきた匠の技を見せてもらいました」とのこと。そう言いつつ、十分活躍していましたけどね。
めらめらと道楽人形が燃えていく
朝9時から3時間もかけて作ったのに13時には点火というスケジュール。道楽人形の寿命はたった1時間。しかも、みんなお昼を食べに戻るので、完成した道楽人形と過ごす時間は10分~20分くらい。
13時に総代の大橋昭司さんの挨拶で、道楽人形に深々と頭を下げて、年男、年女がそれぞれ点火をすると、あっという間に人形は炎に包まれます。
年男で点火をしたオノ君は生まれも育ちも東京育ち。「一生懸命作ったのに、一瞬で燃えていきました。はかなさを感じました」
サイノカミはそういうものだと分かっていても、こんなに切ない気持ちになったのは初めて!(;_;) 汗をかきながら、稲刈りをしたこと、秋雨の中、トバを編んだこと、その時間が愛おしく思い出されます。
村人たちは、でき上がった道楽人形を神様とあがめて、潔く燃やします。道楽人形には、「男根」の角度が上だとか下だとか、面白おかしく、大変な作業をユーモアたっぷりに、みんなで協力して作り上げていく、昔からの知恵がありました。
医療も農業の技術もない時代は、無事で健康でいられること、豊作であることを切に願うことしかできなかった。だからこそ生まれた道楽人形。合理的で便利な暮らしからみたら、「面倒くさい」ことかもしれません。でも、合理的にいろんなものをそぎ落としたら、ギスギスした社会になって息苦しくなってしまいます。昔は集落の結束を強める役割も果たした道楽人形。2017年、今ここに、中山間地域と都会の若者を結び、復活しました。
「せっかく復活した道楽人形が続いてほしい。来年もできる限り応援したい!」と参加者一同。法末に住む協力隊の方々も同様に継続を願っていました。
「道楽人形は作っても楽しい。見ても楽しい。ぜひ来年も作って、大勢の人に見に来てほしい」と大橋昭司さん。来年も道楽人形づくりに、若者の力が加わることで、集落が力づけられ、匠の技と心が若者に伝えられていくことでしょう。
Text and Photos : Ayumi Takahashi