開催は13年ぶり!男根猛々しい巨大な藁人形「道楽人形」を燃やす奇祭が復活

2017.2.18

1月15日は小正月。小豆粥を食べる、繭玉を飾る……、全国各地にさまざまな習わしが伝えられています。

なかでも「どんど焼き」「サイノカミ」と聞くと懐かしさを覚える方もいるのではないでしょうか。お正月にお招きした年神様を火にのせて天にお返しする祭りです。正月飾りや書初めなどをその火で焼き、字が上手くなるように願ったり、また、その火で餅やスルメなどを焼いて食べると、その一年、無病息災で過ごせるなどの言い伝えがあります。

全国各地のサイノカミ行事のなかでも「奇祭」と呼ぶにふさわしい祭りのひとつが、今年、なんと13年ぶりに復活を遂げました。

それが新潟県長岡市小国町の法末(ほっすえ)集落のサイノカミ、「道楽人形」。猛々しい巨大な男根がそびえ立った、人の背丈をはるかに超える大きな藁人形(道楽人形)を作り、燃やす伝統行事です。エロティックかつユーモラスな人形を燃やす様は、まさに「山奥の集落の奇祭」!

近年の人口減少にも負けず、法末に集落ができてから約500年もの間、脈々と受け継がれてきた伝統文化でしたが、2004年に中越大震災が起こり、遂に作ることを断念。しかし、一昨年、若者による山村活性化の取り組みのひとつとして、首都圏の若者が「留学生」として法末を訪れ、道楽人形の写真を発見したことが復活のきっかけとなり、途絶えてしまっていたこの祭りを、集落のお年寄りたちと、若者たちの手による共同作業で復活させる試み、「ムラビトになる旅」ツアーが開催されることになりました。

「な!ナガオカ」では、昨年秋、道楽人形の藁となる「稲刈り」の様子を取材し、『小国の「道楽人形」の復活へ。一泊二日の「ムラビトになる旅」体験レポート』にまとめていますので、こちらもぜひご覧ください。

いよいよやってきた今年の小正月。どんな道楽人形ができ上がったのでしょうか。「ムラビトになる旅」ツアー参加者たちの前日の準備から、当日の祭りの様子までをレポートします。

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美しい景観を誇る小国地域の法末集落。大惨害を被った中越大震災から14年。高齢化も進みましたが、粘り強く復興を遂げてきました。(写真提供:中越防災安全推進機構)

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「道楽人形」を作り上げていく「ムラビトになる旅」は、田植えからサイノカミ作りまで計5回のツアーからなります。写真は第3回の「稲刈り」の様子。

第4回は、トバ編み。秋雨が降る寒い日に小屋で、前回刈り取った稲藁を使って、ムシロを作りました。これが道楽人形のボディになります。

第4回は、トバ編み。秋雨が降る寒い日に小屋で、前回刈り取った稲藁を使って、ムシロを作りました。これが道楽人形のボディになります。

 

都会からの参加者に雪トラブル続出!

ツアー参加者が法末入りする1月14日は、北陸と東北が大荒れの天気予報。日本で有数の豪雪地帯の法末集落も前日から雪が降り続いていましたが、迎える村人たちは、朝の3時から除雪を行い、みんなを迎える準備を整えてくれました。

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除雪車が集落までの道を開けてくれます。

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集落の女性たちも手作りのご飯を作ってツアーを支えています。

一方の「ムラビトになる旅」参加メンバーは、法末に向かう道程でトラブル続発! まず新幹線で長岡駅に着いた、都会から参加の男子2名が「都会の冬支度」仕様で登場。雪国を知るメンバーからは「ありえない!」と総ツッコミを受け、地元のホームセンター「コメリ」で雪国装備一式を購入してから向かうはめに。

さらに、小国の法末に向かう車は、路面の雪に悪戦苦闘。雪降りしきる中、スリップした車を押すこと三回。それでも都会の若者たちは、全然へこたれることなく「来る道だけでイベント満載!」と興奮気味。

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手前は東京から来たナカジマさん。何度も法末に来ているだけあり、冬装備万全。奥のサワくんはこの1時間前には東京仕様の冬支度でしたが、ホームセンターで装備を揃えてようやくムラビトらしくなりました。

 

かまくら作りと会場までの道つけ

到着したツアー参加者たちの使命は、東京都小金井市から来た20数名の子どもたちのために、かまくらを作ること。しかし、子どもたちのためと言いながら、結果的にすっかり楽しんでいたのは大人たちのほうでした。

村人4名、ツアー参加者7名は、ふわふわの新雪で4つのかまくらを作りました。ところが、ツアー参加者だけで作ったかまくらは、もろかった! 入口を掘っている間に崩れて、「な!ナガオカ」ライターも、雪に埋まる貴重な体験をしました……。

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最後にツアー参加者の選抜メンバーが新雪をかんじきで歩いて、明日、道楽人形を作る会場まで道をつけに行きました。これが難儀!(なんぎ・新潟県の方言で「仕事がきつい」の意)

村人の内山昭平さんの歩く様子はすいすい、ところが、参加者の足は一歩ごとに新雪に沈み込み、引き抜くたびにモモ上げ運動のような負荷がかかり、終わらない筋トレのよう。

「きつかったぁ~」。

その後、暗くなってから除雪車が到着。道を作ってくれました。

「あの苦労は、何だったんだぁ!!!」

機械の力は偉大です。機械のない時代に生きてきた村人たちは、かんじき歩きも達人です。機械に頼ることで私たちが失ってしまった能力は、いっぱいあるのでしょうね。

かんじきをはいて、雪の中へ。

かんじきをはいて、雪の中へ。

ふかふかの雪。静けさの中に新雪の音だけが聞こえてきます。

ふかふかの雪。静けさの中に新雪の音だけが聞こえてきます。

 

いよいよ本番。道楽人形作りへ!

1月15日の本番の日。みんなの道楽人形復活への思いが届いたのか、天気予報では「大荒れ」の見込みだったのに、雪がやんで青空も! 朝7時半から、ツアー参加者が宿泊する「法末自然の家 やまびこ」では、餅つきが行われました。ずっしりと杵が臼に振りおろされる音が響き、あんこ、大根おろし、きなこ、お雑煮のお汁も食べてお腹はいっぱい!

もちつき

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9時からスタートした人形作り。稲を手刈りして準備をしたワラと、トバ編みをしたムシロを会場に運んでいきます。大人数だとさすがに早い。村人たちは、事前に準備した土台に、手際よくワラや葉のついた枝などを巻いていきます。脚立とハシゴの上での作業は、バランス感覚が必要とされます。驚異の村人たちの身体能力!

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土台は木を十字にくんでスタート。枝を巻きつけ、芯にし、さらに、どんどん藁を巻きつけて円錐の形にしていきます。

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左はじが、サワくん。内山正平さんと男根の角度を決めます。

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男根を紙で巻いて神飾りをします。

円錐型に「男根」や手をとりつけ、周りをトバ編みしたムシロで巻いて綺麗にしていきます。サイノカミは新潟県のあちこちで見られますが、法末の道楽人形は希少です。「男根」をつけて、「顔」と「手」もつくのが珍しい。「男根」の位置も「もっと上だ」「いいや下だ」とそれぞれの主張があり、なにせ13年ぶりだから、「ああでもない、こうでもない」と言いながら、参加者たちは手も足も動かしていきます。

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顔を書いたのは、正平さんから頼まれた、ツアー参加者のヤマザキさん。ハシゴの上で堂々と描き上げました。結構高い位置だから怖いはず。

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腕や飾りをとりつけ、ディティールにこだわった、若々しく凛々しい道楽人形が誕生しました!

東京からきた参加者のサワくんは「手伝おうと思ってきたけれど、出る幕がなかった。途切れていたのに、さすがです。長年続けてきた匠の技を見せてもらいました」とのこと。そう言いつつ、十分活躍していましたけどね。

 

めらめらと道楽人形が燃えていく

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総代の大橋昭司さんが挨拶をして、みんなで道楽人形に2礼。

朝9時から3時間もかけて作ったのに13時には点火というスケジュール。道楽人形の寿命はたった1時間。しかも、みんなお昼を食べに戻るので、完成した道楽人形と過ごす時間は10分~20分くらい。

13時に総代の大橋昭司さんの挨拶で、道楽人形に深々と頭を下げて、年男、年女がそれぞれ点火をすると、あっという間に人形は炎に包まれます。

年男で点火をしたオノ君は生まれも育ちも東京育ち。「一生懸命作ったのに、一瞬で燃えていきました。はかなさを感じました」

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年女・年男が点火します。写真左が年男のオノ君。

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煙の方向の家が子宝に恵まれ、この煙やすすが体につくと、健康で幸せでいられるとか。

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火が弱まったら、するめや餅を焼いて食べます。そうすると風邪をひかないと言われています。

サイノカミはそういうものだと分かっていても、こんなに切ない気持ちになったのは初めて!(;_;) 汗をかきながら、稲刈りをしたこと、秋雨の中、トバを編んだこと、その時間が愛おしく思い出されます。

村人たちは、でき上がった道楽人形を神様とあがめて、潔く燃やします。道楽人形には、「男根」の角度が上だとか下だとか、面白おかしく、大変な作業をユーモアたっぷりに、みんなで協力して作り上げていく、昔からの知恵がありました。

医療も農業の技術もない時代は、無事で健康でいられること、豊作であることを切に願うことしかできなかった。だからこそ生まれた道楽人形。合理的で便利な暮らしからみたら、「面倒くさい」ことかもしれません。でも、合理的にいろんなものをそぎ落としたら、ギスギスした社会になって息苦しくなってしまいます。昔は集落の結束を強める役割も果たした道楽人形。2017年、今ここに、中山間地域と都会の若者を結び、復活しました。

「せっかく復活した道楽人形が続いてほしい。来年もできる限り応援したい!」と参加者一同。法末に住む協力隊の方々も同様に継続を願っていました。

「道楽人形は作っても楽しい。見ても楽しい。ぜひ来年も作って、大勢の人に見に来てほしい」と大橋昭司さん。来年も道楽人形づくりに、若者の力が加わることで、集落が力づけられ、匠の技と心が若者に伝えられていくことでしょう。

 

Text and Photos : Ayumi Takahashi

 

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