ウサギ狩りから「食べること」の意味を学ぶ。豪雪地帯で体験する狩猟ツアー・後編

2017.3.18

にいがたイナカレッジが主催する「狩猟・冬の暮らしツアー」。その体験ルポ前編では狩猟体験をご紹介しました。後編では、獲物の解体、猟師さんとの交流会などの模様をお伝えします。

※本記事は、狩猟・解体の描写がありますのでご注意ください。

 

「いのちをいただく」ということを
目の前で学ぶ

古民家に戻り、休憩を挟んだのち、いよいよ獲物の解体へ。仕留めた猟師さんたちが、自身の手で解体を行います。

この日の獲物は3匹。

獲物は、仕留めた場所であらかじめ血を抜くなどの下処理が行われています。猟師さんの自作(!)の刃物を使い、丁寧に処理をしていきます。

内臓を順々に取り出し、皮を剥ぎ、肉を取り出していく。つい先ほどまで元気に動き回っていたウサギは、まだ温かさが残っていました。取り出された内臓からは湯気が立ち上るほど。

こうした一連の流れを、このツアーではすべて見ることができるのです。

真剣な表情で解体を行う清一さん。

真剣な表情で解体を行う清一さん。

「ほれ、見てみれ」と猟師さんから声をかけられます。猟師さんが指をさす先には、ウサギの立派な脚部が。銃弾が命中した太もも付近の筋肉全体が赤黒く染まっていました。「これだけ内出血しても、100メートル近く走って逃げたんだな。生き物ってのはすごいな」と、異口同音に獲物への敬意をにじませながら、解体を進める姿を、参加者は神妙な面持ちで見つめます。

あまりにも手際が良く、淡々としているので、一見すると極めて作業的に見えてしまいますが、なるべく丁寧に、大事に解体をしてやろうという、獲物に対するプロとしての敬意が感じ取れた時間でした。

私たちが普段口にする動物の肉。どのような形で入手され、どのような形で私たちのもとにもたらされるのか。関東から参加されていたKさんは「なかなかそういったことを考える機会は少ないのですが、目の前で解体を見ると……これほどまでに考えさせられる機会はないのではないかと思います」と話してくれました。

 

猟師さんを交えた交流会

土間にある囲炉裏で反省会を行う猟師さんたち。

土間にある囲炉裏で反省会を行う猟師さんたち。

解体の後は、猟師さんや地元の方を交え、交流会が行われました。

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地元産の食材や保存した山菜を使ったきんぴら、昆布巻き、炒め物などなど。「おおごっつぉ(新潟弁で「大変なご馳走」の意)」がテーブルに並べられていきます。これらは、地元のお母さんたちの手作り。

ふきのとうの天ぷら。

ふきのとうの天ぷら。

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こちらは「カジカ酒」。近くの川でとれたカジカを焼き、熱燗の日本酒につけて味わう祝い酒です。熱々のお酒の中に浸すことによって、カジカのエキスが抽出され、独特で濃厚な味わいに。

実は、カジカを釣ったのも猟師さんの一人。串を打ち、囲炉裏で焼いてくれていたのです。

「一気にぐいっといくのは野暮らぞ! ちびちび飲むんが!」とは、猟師さんの弁。

荒谷の郷土料理「うさぎまんま」。

荒谷の郷土料理「うさぎまんま」。

宴会の主役はこちら。「うさぎまんま」です。細かく刻んだウサギ肉をニンジンなどとともに甘辛に煮て、炊いた米と合わせた混ぜご飯です。雪深い荒谷地区に伝わる郷土料理で、食材の乏しい時代には貴重なタンパク源でした。

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冬野菜たっぷりの「イノシシ汁」。こちらは塩・コショウで味つけられています。料理に共通するのは、潔いまでのシンプルさ。気取らない料理の数々からも、狩猟が生活に根付いていることを垣間見ることができます。

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話題の中心はもちろん、今日の狩りに関してですが、参加者さんからも色々な質問が飛び、話は深まっていきます。

参加者のひとりは「みなさんは、『マタギ』とは違うんですか?」と質問。「マタギってのは……狩りを生業にしてる連中のことを言うんじゃないかな。そういう意味では、俺らは違うな」とある猟師さんは答えます。

猟師さんたちは全員、何かしらの本業を持つ人たち。ある方は米農家を営む傍ら、またある方は建設業を営む傍ら、猟師として活動しています。

突然のイノシシとの邂逅を再現。

突然のイノシシとの邂逅を再現。

そのうち、皆さん、だんだんと良い感じに出来上がってきました。一人の猟師さんがおもむろに立ち上がると、かつて苦戦させられた獲物との戦いの話題へ。

「たまげたて。イノシシが一瞬で目の前に現れてよ、こっち向かってきたんだ。おもわず後ろにひっくり返りながら銃を撃ったのが良かったな。向こうもびっくりして駆け抜けて行ったんだ」

そう、雪山はあらゆる獣がともに生きる世界なのです。一歩間違えば、命が危険に晒される狩猟の世界は危険と隣り合わせ。動物も人間も同じなのです。

 

「向こうも必死なんだ。
だから、俺たちも真剣にやる」

猟師さんたちの話に共通するのは、獲物との向き合い方でした。話の端々に獲物への敬意が感じられるような気がしますね、とある猟師さんに聞くと、しばらく黙ってから、真剣な眼差しでこう答えてくれました。

「向こうも必死さ。生きたい、生きたいと思って必死に逃げるんだ。中には、脚と心臓を撃たれても、そのまま100メートルも走ったヤツもいた。それだけ、生きたいんだな。それを相手にするんだ、こっちも真剣にやるのは当然らね」

話題が「真剣に相手と渡り合うこと」に移った際、仕留め方の話に発展しました。ある猟師さんが「あの撃ち方はうまくなかったかもわからんね」と、今日の狩りへの反省を述べはじめました。「解体のときに見たと思うけども、太ももが大きく内出血してたろ。もう少し綺麗に仕留めるべきだったな」と猟師さん。

確実かつ早く獲物を仕留めることは、弾薬と体力の節約という意味合いがあるだけでなく、獲物をなるべく楽に仕留めてやりたいという猟師さんたちの思いもあるように見えます。

お話を伺った猟師さんたちの中には、ライフル銃の達人、散弾銃の名人など、あらゆるエキスパートが揃っていましたが、獲物を一撃で仕留めることへのこだわりは一致しているように思いました。得意分野は違えど、徹底的に狩猟技術を磨き、猟場では淡々とその成果を出していく。まさにプロフェッショナルです。

「強いて言うなら、確実に仕留めること。それが俺たちのモットーだな」

 

猟師が考える「仲間」とは

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宴会の席では、とにかく参加者に対する猟師さんの歓待ぶりが印象的でした。お酒をどんどん注いでくれるし、わざわざ料理を運んできてくれて、「これを食え」「あれは食べたか」などと言ってくれたり……申し訳なくなるほどでした。しかし、猟師の皆さんは「当たり前だろう」という顔をしています。

「私は狩りに同行させてもらっただけで、貢献したといえば掛け声を出し続けただけですが」と話すと、「立派な仲間らな」と猟師さんたち。

客人に対する猟師さんたちのあたたかい心遣いがあるのはもちろんですが、それ以上に、狩猟が根付いた土地が育んできた文化でもあるのかもしれません。雪に閉ざされてしまう冬の川口では、集落の外に出るのもままならないような厳しい日々が続きます。その中で集落の全員が生き延びるために、徹底してお互いを思いやり合うという、集団の無意識的な生存本能なのかもしれません。

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参加者みんなで夢中になって猟師さんの話を聞いていましたが、気がつくとすっかり夜が更けていました。明日も朝はやくから猟に出かける猟師さんたちとお別れし、会は終了。まだまだ盛り上がる人、疲れてぐっすり眠ってしまう人……思い思いに過ごし、長く濃厚な一日が終わりました。

 

「食べること」「生きること」の
本質を学べるツアー

翌朝の朝食「うさぎまんま握り」。

翌朝の朝食「うさぎまんま握り」。

一匹の動物を仕留め、その肉をいただくまでの過程の一部始終を体験するだけでなく、実際にその場で生活を営む猟師さんたちの暮らしぶりをも体験できる「狩猟・冬の暮らしツアー」。

いのちについて、生きるということについて、そして、仕事への向き合い方まで――。あらゆることを学ばせてくれるツアーでした。

県外からの参加者からは「川口の暮らしぶりを身近に感じ、一気に興味が湧きました。機会があれば、また是非川口へ足を運んでみたい」との声が聞かれました。地域と外部の方々の交流を増やそうという試みは数多くありますが、これほどまでに濃厚な体験とコミュニケーションができるイベントはなかなかないのではないでしょうか。

「食べることとは、どういうことか」。生きる上で最も大事なことのひとつですが、日常生活ではなかなか考える機会が少ないのではないでしょうか。普段自分が口に入れる食べ物は、どのようにもたらされるのか。このツアーに参加することで、自分なりに考えるきっかけを得ることができたように思います。しかも、普段は会うことのできないような人たちから教えていただけるのです。

もしこの記事を読んで興味が湧いたなら、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

 

Text and Photos: Junpei Takeya

 

にいがたイナカレッジ
https://inacollege.jp

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