【教えて!ご主人】野菜炒めは標高13センチ!? 愛されるデカ盛り食堂「喜味屋」
長岡駅から車で約15分のところに、みそやしょうゆ、日本酒など醸造がさかんな町・摂田屋エリアがある。この住宅街にひっそりとたたずむ、一見すると普通の食堂。
お店の名は「喜味屋」。店の脇には小さな川が流れ、穏やかな雰囲気だが、駐車場は常にいっぱい。平日、休日と問わず、県外ナンバーの車もちらほら見かける。
のれんをくぐり、自動ドア(引き戸ではないことに少し驚く)の入口が開くと、ホールスタッフの元気な「いらっしゃいませ!」という声が聞こえてくる。
約60種ほどあるメニューは、そばやうどん、ラーメン、定食や丼などザ・食堂といったラインアップ。幅広いメニューが楽しめて、とても使い勝手が良さそう。
しかしこの「喜味屋」、ただの食堂ではない。今や県外からも足繁く通うファンがいるという、長岡きっての大盛り食堂なのである。
何はともあれ、まずはそのデカ盛りっぷりをご覧いただこう。
「チャーハン界のエベレスト」との呼び声高いチャーハン大盛り(スープ付き、950円)。チャーシューを煮込んだタレとコショウでしっかり味付けし、強火で一気に炒めることで香ばしさを出している。大盛りの場合、ご飯は普通盛りの2倍、スープも1.5倍で超特大に。
かもせいろ大盛り(1,000円)。隣の普通盛りと比べると、その差は一目瞭然! 蕎麦をはじめ、ラーメンや冷うどんは自家工場で造る自家製麺で、蕎麦のつなぎにはフノリを使っています。県外からも蕎麦を求めて来店する人もいるとか。
このように、すべてのメニューにおいて、とにかく尋常ではない量が特徴。普通盛りでも他店の1.5倍はあるのに、大盛りはさらにハンパない激盛り……。「コストパフォーマンス」というみみっちい言葉など軽々と超越したその盛りっぷりと味が評判を呼び、北海道や九州、四国からわざわざ来店するお客さんもいるとか。
「当店にご来店されたお客様は、確かに大盛りを注文される方も多いですね。細身の女性でもペロッと平らげる方もいらっしゃいますし、中には1人で2品、3品頼む強者もいます」と語るのは、3代目のご主人であり、社長の田中啓太さん。31歳という若さながら、弟の健さんとともに喜味屋を切り盛りしている。ここまでのデカ盛りメニューを提供するに至った経緯は?
創業から51年経った今もなお、老若男女から変わらず愛され続ける喜味屋のヒミツを探った。
現在進行形で増量中?
お客さんの声から生まれたデカ盛り料理
「自分が生まれる前のことですが、創業時は畑や田んぼだらけで、周りに農家が多かったので、その方達がおなかいっぱいになるように盛りを良くしていた、と聞いています。その盛りの良さを現在でも続けています」
体を使う仕事の男たちの空腹を満たすため、ボリュームは徐々に増えていった。「おいしい料理をいっぱい食べて笑顔になってほしい」。それが初代の願いだったという。啓太さんの父親が2代目として後を継いでからも、盛りの良さはそのまま。3代目になってから、むしろ、パワーアップしていったとか。
「やっぱり、来てくださるお客様には満足していただきたいですし、盛りの良さは当店の売りでもありますから」
100キロのお米が3日でなくなる時もあり、大きな業務用炊飯器で一日30回炊く日もあるというから驚きだ。
SNSなどで話題になっている喜味屋のメニューの中に、「野菜炒め定食大盛り」がある。「デカ盛りというかギガ盛り!」「運ばれてきた時、一瞬夢を見ているのかと思った」などのクチコミからも分かるように、その姿は圧倒的なインパクト。まずは全体像をご覧いただきたい。
野菜炒め定食大盛り(1,000円)。キャベツやモヤシなど約10種、合計約1キロの食材を使った野菜炒めが山のようにどっさり。ご飯は2合半と、マンガのような大盛り。巨大な器を埋め尽くす圧倒的な量に我が目を疑ってしまう。
果たして完食できるのか……。
こんもりと美しいドーム型の盛り付けは熟練の技。強火で一気に炒めることで時間が経っても野菜のシャキシャキ感が持続する。野菜炒めをご飯にのせて丼にして食べる人もいれば、小鉢として付いてくる半熟温泉玉子を後半で投下して味変をする人もいるらしい。とにかく高さがスゴイので、土砂崩れが起きないようバランス良く食べ進めるのがポイントだ。
お味の方もしっかりしていて、モリモリご飯が進む。しかし、食べても食べてもなかなか終わりが見えない。2合半の山盛りご飯もなかなか減らない……ピンチである。喜味屋ビギナーのため、何も考えず最初にみそ汁や漬け物をほとんど食べてしまったことが悔やまれる。副菜は何が何でも後半のために残しておくべきだった。必死で食べ進めるも、半分も食べられないまま胃が限界に。
「すみません……」とふがいない気持ちで正直にギブアップを伝えると「包みますのでお持ち帰りしていただいてOKですよ」とご主人。
食べきれなかった残りの野菜炒めをパックに入れてもらった。それでもこの量! ありがたくテイクアウトした野菜炒めをその日の夜に食べたところ、なんと、あのシャキシャキ感がしっかりと残っている。味がなじんだことでまた違ったおいしさも感じられ、1人感動したのだった。
愛される理由は“盛り”だけじゃない
おいしさにはとことんこだわる
「創業当時は長岡市にもいわゆる“デカ盛り”のお店がいくつかあったんですけど、今も変わらず続けているのはうちだけじゃないかな。今のご時世、この値段でこのボリュームを維持するのは大変だし、いくら量が多くてもおいしくなければお客さんはすぐに離れてしまいますし……いろいろと試行錯誤していますよ」
そう、喜味屋が単なる見た目のインパクトだけにとどまらずファンを増やし続けている理由は、徹底した「おいしさの追求」にある。「オムライスはもともとケチャップのみだったのですが、若い女性のお客様が増えたのでデミグラスソースバージョンも増やし、2種類から選べるようにしました。時代に合わせてメニューは増減しますし、味付けや盛り付けも徐々に変えているんです。先代から通ってくださるお客様にも、新しく当店を知っていただいたお客様にも『おいしい』と思っていただけるよう、日々研究しています」
みそラーメンに使うみそはオリジナルブレンド。料亭にも卸している名物の自家製生そばは、国産そば粉100%。一つ一つのメニューは素材からこだわっていて、おいしいからこそ規格外の量でも最後まで飽きずに完食できるのだ。そこまで味を追求しつつも低価格で提供できているのは、少しでもコストを抑えられる仕入れ先を常に探し、開拓しているから。
「SNSやブログでお客様がうちを紹介してくださったり、有り難いことにテレビや雑誌などの取材のお話もいただきます。これから消費税が上がったりしてお店的にいろいろ厳しい面もありますが、うちの料理を見て、食べて、喜んでくださる方がいる限り、この盛りは変えられませんね」と話す。「おいしい料理をいっぱい食べて笑顔になってほしい」という初代店主の思いは、50年たった今でも確実に受け継がれている。カウンターの奥に掲げられた「千客万来」ののれん。今日も店内に「大盛り一!!」の声が飛び交う。
喜味屋(キミヤ)
[住所] 長岡市摂田屋5-10-21
[電話番号] 0258-33-4392
[営業時間] 11時~14時、17時~20時(19時40分LO)
[定休日] 火曜(祝日の場合営業、翌日休み)
[席数] 60席
[駐車場] 20台[Facebook] https://www.facebook.com/喜味屋食堂-158018467548944/?fref=ts
Text & Photos : Sonoko Imaizumi