郷土料理を通じた多世代交流を。NPO法人「になニーナ」がめざす「誰も一人にしないまち」
訪れたのは、長岡市千歳エリアにある「子育ての駅 ぐんぐん」。2014年に長岡市教育委員会から業務委託され、現在、「になニーナ」のメンバー全14名で運営しています。
中越大震災をきっかけに志した
「“お互い様”な世の中」づくり
こちらが、「になニーナ」2代目代表理事の馬場裕子さん。発足時からのメンバーで、2年前から代表を務めています。現在、になニーナの拠点はありませんが、培ってきた多世代交流の経験を活かし、一歩先行く子育て支援施設の運営を行っています。過去には様々な拠点を転々としながら、多世代交流を広めるためのチャレンジを重ねてきたとのこと。どのような経緯で活動が始まったのでしょうか?
「前代表が“多世代交流”の必要性に気が付いたきっかけとなったのは、2004年の中越地震で、避難所を訪問した時のハッとした出来事でした。発災からわずか3日後には、避難所に子育て世代がほとんどいなくなっていたそうです。その理由のひとつは、『子供がいると迷惑をかけてしまうから』でした。
一方、若い世代も、高齢の方の行動や言動にイラついたり、不快に感じたりすることもあります。誰もが昔は子供で、いつかは高齢になるわけですが、日常的に“お互い様”じゃないから、その想像力がわかず非難や疎外につながってしまうんですよね。他世代と普段関わらないことで、そこにある違いを認められなくなってしまう――この現実を変えていきたという想いが、『になニーナ』のスタートになったんです」
千歳エリアにあった仮設住宅が最初の拠点に。
前代表の想いを受け、子育て中のママを中心としたメンバー数名が集結。そして2007年に県の震災復興基金を受け、長岡のまちなかにあった震災の仮設住宅を拠点に活動が始まりました。ところが、当初は「多世代交流」とはいうものの何をすべきか定まらず、全てが手探り状態だったといいます。
「多世代の人たちが集まるようにと、あらゆることを試しました。健康お茶会、子育てサロン、餅つき、郷土料理の実演・試食会、フード・雑貨の販売イベント、作家の講演会など……とにかく思いつく限りのことを。まさにトライ&エラーの精神です」
こうした馬場さんたちの活動は徐々に実を結び、イベントの単発参加だけでなく、リピーターも増えていったそう。やがて若い世代のママから、子育てが落ち着いた主婦、人生の先輩ともいえるシニアまで、幅広い人たちが集うようになりました。
好評だった企画のひとつが「山のお母さんの料理教室」。栃尾のあぶらげ料理、山古志の「こしょ煮」などの郷土料理を、少子高齢化が進む中山間地域のお母さんたちに教わるという企画です。その他、各地域の支援員やキーマンとつながることで、中山間地に住む高齢の方と一緒に食事をする交流会も何度も開催してきました。
「中山間地での交流会は、私たちスタッフを含め、子連れで参加するママも多いです。嬉しいことに山のお父さん・お母さんたちは、子供たちを抱っこしてくれたり、声をかけてくれたり、無条件に可愛がってくれるんですよ。
正直、子育てママって、スーパーなど公共の場で周囲からの冷たい視線を感じることもあります。でも、山にいくと子供の存在はただそれだけで手放しで喜んでもらえる。子供たち自身、『よく来たねー』『いい子だねか』と温かい眼差しある交流に、自己肯定感が育まれていると感じます。かつての日本で自然に行われていた“地域全体での子育て”が、そこにはまだ残っているんだと思います」
交流会に参加した中山間地の高齢男性からは、「幸せ。今まで生きてきてよかった!」という感激の声もあがったとか。中山間地では過疎化・高齢化で子供の数が減っていることはもちろん知っていたものの、ここまで喜んでもらえるとは想定外で、スタッフ一同やりがいを噛みしめたそうです。「多世代が交流することで心の距離が近付き、お互いを知って認め合う。そんな関係を築くきっかけづくりが、『になニーナ』の役割なんだなと改めて感じました」と馬場さんは話します。
これまで14年間活動を続けてきた「になニーナ」。多世代をつなぐ活動は高く評価され、住友生命「未来を強くする子育てプロジェクト」を受賞したり、中学校の「公民」の教科書(教育出版版)で紹介されたりもしてきました。その一方で活動の拠点であった仮設住宅の老朽化などで数回の移転を重ね、現在は拠点をもたず「子育ての駅 ぐんぐん」の運営がメインです。そのため、かつてのような頻度で講座やイベントの企画はしていませんが、「多世代をつなぎたい」という想いは変わらず活動を続けています。
「違い」を理解し尊重することで
人生は豊かに楽しくなる
多世代交流を目指す馬場さんにとって、一緒に企画を盛り上げてくれる“人生の先輩方”は尊敬してやまない存在。特に「中山間地に住む方々から、暮らしの知恵を教わるのが楽しいんです」と声を弾ませます。例えば、NPO法人名の由来にもなった「煮菜」は、もともと雪深い冬の間にも野菜をとるための保存食。この地の風土の中で昔の人たちが編み出してきた暮らしの知恵の結晶である食文化を学ぶ他、木々で作る笛や水鉄砲、アケビとりなど山の遊びもたくさん教わり、その度に新しい発見があり、視野が広がったといいます。
「私たちは違う世代の人たちと関わらなくても、致命的に困ることはありません。でも、お互いの違いに気付き理解することで、近い存在になれる。それって、人生が豊かになることだと思っています。誰かを非難してしまう原因は、相手の気持ちや考え方を理解できていないから。つまり、幅広い世代との交流は、多様な価値観を知るチャンスなんです」
家庭ごとの個性がにじみでる
郷土料理「煮菜」を介したコミュニケーション
“多世代交流”を進める「になニーナ」の名物企画といえば、毎年2月7日に開催する「煮菜の日」。「になニーナ」開設時から14年間欠かさず行ってきたイベントで、地元のお母さんたちに煮菜の作り方を実演してもらい、集まった人たちで試食を行うという内容です。
「新潟県中越エリアの郷土料理・煮菜は、お店で提供されることは珍しい、家庭ならではの素朴な料理です。おもしろいことに、家庭ごとに工夫があり個性がでるんですよ」と馬場さん。その作り方を詳しく教えてもらいました。
「まず用意するのが、“漬け菜”です。材料には、体菜、味美菜、野沢菜、大根菜、長岡菜などが使われ、それぞれ味わいや色味が異なります。最近では、きれいな緑色に仕上がる味美菜が人気ですね。これを約1か月以上塩漬けにして、乳酸発酵させます。この漬け菜は、12月~3月頃、新潟県中越エリアの直売所やスーパーで手に入れることもできますよ」
「続いて、漬け菜の塩抜きをします。丸のまま、もしくはカットした漬け菜を鍋に入れてたっぷりの水を加え、沸騰するまで火をかけたら、一晩おいて塩気を抜いていく工程です。塩気が残りすぎていると塩辛いし、逆に抜けすぎているとぼんやりして味気ない。絶妙な塩抜き加減が、煮菜の味わいを決めます」
「次に、塩抜きした漬け菜を油で炒めて、その他の食材を加え、味付けをしてだし汁で煮ます。漬け菜以外に入れる食材は、人参、打ち豆、油揚げ、練り製品、キノコ、車麩など何でもOK。味付けは、みそ、醤油、酒粕、砂糖など。漬け菜の塩気を活かして味付けの調味料は入れないという作り方もあります。このだし汁もまたバラエティ豊かで、昆布カツオだし、煮干しだし、干し貝柱だしなど、各家庭で個性があるんですよ」
「ちなみに、わが家の定番は煮干しだしに打ち豆、油揚げ、酒粕です。油で炒めずあっさりと仕立てるので山盛り食べます!」と馬場さん。子供向けにシーチキンを入れることもあるのだとか。漬け菜独特の香りが炒めて煮ることでまろやかな旨みに変化し、体になじむやさしい味わいになるのだから、不思議です。
「になニーナ」発足当時に初開催した「煮菜の日」は、参加者が“わが家の煮菜”を持ち寄り、それぞれを味見して、違いを楽しむという内容でした。馬場さんはそこで、今までこれが当たり前だと思っていた“わが家の煮菜”が、家庭ごとに全く違うことのおもしろさに気付いたそうです。
その後は地域のお母さんを講師に招いての実演会&試食会という形に落ち着きましたが、ここでも発見の連続だったのだとか。だし汁をつゆだくにしたり、逆に汁気がほぼなかったり。副材料を加えず、煮菜とだし汁のみというごくシンプルな作り方もありました。馬場さんは「みんな違って、みんないいんですよね」と話します。
実は今、家庭で煮菜を作る人は少なくなっています。漬け菜の消費量は年々下がり、若い世代が煮菜を食べる機会はほぼないのが現状です。「煮菜の日」でいただく煮菜は、市内出身の若い世代はもちろん、別の地域から長岡に移住してきたママやパパたちにとっても新鮮で、子供たちが喜んでパクパク食べる姿も多く見られるのだとか。作り手側も「素朴な料理が、こんなに喜んでもらえるなんて!」と感動があるそう。孤独を感じやすい子育て世代にとって、煮菜を食べながらの交流はリラックスできる貴重なひとときです。美味しいものを食べておしゃべりが弾むことで親同士のコミュニティも生まれ、この場は子育てセーフティネットの役割も果たしています。
2021年の「煮菜の日」は
Youtubeの動画配信で開催!
「になニーナ」開設以来、毎年2月7日に開催してきた「煮菜の日」。例年、地域のお母さんを講師に招いた実演と試食を行っていましたが、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため断念することに。その代わり、初の試みとしてYoutubeの動画配信で「煮菜の作り方」を公開します。その内容は、川口地域に住むお母さんの自宅を「になニーナ」スタッフが訪ね、みそ味の煮菜の作り方を教わるというもの。ぜひ2月7日公開の動画でチェックしてみてください。
※「になニーナ」Youtubeチャンネルへのリンクはこちらから。
ちなみに、昨年の「煮菜の日」の様子は、以下の記事で詳しくレポートしています。
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本来「煮菜の日」は世代を超えて交流を楽しむ場ですが、今はできることをできる形で続けると決意した馬場さんたち。多世代交流の魅力を世界に発信したいと、今後もYoutubeでの動画配信にチャレンジしていくそうです。様々な価値観とふれあうことは、共存して生きていくために不可欠なこと。多世代交流やコミュニティづくりを通じて「誰も孤独じゃないまち」を作るべく、これからも「になニーナ」の挑戦は続きます。
Text:渡辺まりこ