離れていても、心はそばに。コロナ禍で孤立する学生を支えた人々と「冬の長岡花火」の恩返しの話
長岡市学生応援プロジェクトを立ち上げた側の話に続いて、その支援を受け取り長岡市への恩返しのプロジェクトを立ち上げた渡部秀美さん、羽鳥航平さんにもお話を伺いました。ふたりとも進学で長岡を離れ、渡部さんは東京、羽鳥さんは宮城で大学生活を送っています。今回インタビューしたおふたりに加え、滋賀で学生生活を送る小島尚之さんの3人を実行委員会とし、クラウドファンディングで資金を集め花火を打ち上げる「長岡市恩返しプロジェクト」が立ち上がりました。
【学生企画】長岡市恩返しプロジェクト〜みんなの想いを2021年の空に〜
心の拠り所である花火で地元を応援したい
もともと高校の同級生で、生徒会の幹部だったという3人。高校卒業まで長岡で過ごし、いまは別々の場所で学生生活を過ごしています。そんな彼らに等しく訪れた、コロナ禍の困難。不安な中で長岡市学生応援プロジェクトにより特産品を受け取ったとき、故郷を離れてからも応援してくれている気持ちが伝わり、なにかしたいという気持ちが生まれたそうです。そうして生徒会同期が久しぶりにオンラインで集い、ミーティングを重ね、プロジェクトを少しずつかたちにしていきました。
「『なにか恩返ししたい』とSNSで呼びかけて、実行委員会の3人で動き出したんです。まず3人で話して企画書をまとめ、『ながおか・若者・しごと機構』に相談し、進めていきました。どう恩返しするかを考えたとき、心に浮かんだのはやはり花火でした。上京してからも長岡花火にあわせて帰省していて、花火が中止になった2020年は夏が来なかったと感じたほどでしたから」(渡部さん)
恩返しプロジェクトは2020年5月ごろから始動し、まずはどんな形で恩返しをするかを考えるために、長岡市民の皆さんが困っていること、必要としていることについて話し合いを重ねてきました。折しもその頃、2020年の長岡花火の中止が発表され、SNS上で長岡市民だけでなく全国の花火ファンの方々など多くの人々が長岡花火の中止に関する投稿をしているのを見かけたそうです。
「中止を残念に思う投稿ももちろん見られましたが、それ以上に温かい言葉や、来年の花火大会を期待する投稿がたくさん見られました。私たちは、『皆さんの心には長岡花火がある』『長岡の方々だけでなく、全国の皆さんが長岡花火を応援している』ことを改めて感じ、花火を通して私たちの感謝の思いや全国の皆さんの応援の気持ちを伝えることができないかと考えました。長岡花火には、1945年の長岡空襲で亡くなられた方々への慰霊、戦災からの復興、平和への祈りの想いが込められています。2004年の中越大震災で長岡が大きな被害を受けた翌年には、『復興祈願花火フェニックス』が誕生し、被災者へ感動と勇気を与えてくれました。長岡にとって花火は、逆境から立ち上がるという復興の象徴なのです」(渡部さん)
「特産品詰め合わせには花火のポスターも入っていたんですけど、熱い思いが伝わってきて嬉しかったです。SNSでも『長岡すごい!』と言ってる学生が多く、そういう想いを形にして長岡に還元したいなと。行政の方や長岡花火財団の方といろいろ調整した結果、クラウドファンディングで集めた資金で花火玉を買って打ち上げることにしました。今年仕事が減ってしまった花火師の方に還元すること、間接的に財団に還元できるということ、返礼品として今年売れるはずだった花火のグッズを使うことで、グッズ制作の会社にも還元できることを考えました。」(羽鳥さん)
全国からの支援で形になった「恩返し」の想い
地元の同級生は全国各地に散らばっているものの、8月の頭になると一斉にSNSで花火に関する投稿を見かけることから、長岡人の花火に対する熱い思いを感じ、離れてからより一層長岡のことを想うようになったと話す羽鳥さん。
「18歳まで長岡で暮らしていて、花火は小さいときからあって当たり前のものでした。今回中止になってしまってすごく残念に思うのと同時に、なにか応援したいという気持ちが生まれました。僕は大学のテストと長岡花火が毎年かぶるので帰省はできませんが、YouTubeやSNSで花火を見ていましたね」(羽鳥さん)
長岡の夏を彩る長岡まつり大花火大会。全国各地から100万人もの人が訪れる大イベントで、長岡市民にとって心の拠り所であり、ふるさとの誇りです。
「わたしも、長岡を出てからのほうが、花火を含め、より一層地元が好きになったと感じます。長岡花火があることで世代問わずみんなが話せる共通の話題があるのは、すごいなと思います」(渡部さん)
とはいえ、プロジェクトはすべてがすんなり進んだわけではなく、困難もありました。花火の打ち上げには多くの関係者がいることから、各方面との調整はかなり大変だったそうです。直接話すことも難しいなか、直筆の手紙を書くなどして、想いをすり合わせていきました。
目標額500万円のクラウドファンディングでの資金集めも、手放しでお金が集まるわけではありません。渡部さんを中心に運用するSNSをはじめ、PRにも力を入れました。自らメディアに連絡し、テレビやWebメディア、ラジオ等で取り上げてもらい、さまざまな年代へのアプローチを行いました。恩返しに賛同し、なにか手伝いたいという学生からのメッセージも届いたそうです。
「9ヶ月の準備期間を経て、最終的に花火を長岡にお届けできることになりました。楽しみにしてくれている方も多くて、頑張ってよかったなと思っています。学生の力で形にした花火を、多くの方に見てもらいたいです。長岡、いや全国を元気にできたら嬉しいですね」(渡部さん)
「支援してくださった方がたくさんいたことと、それを花火というかたちにできて嬉しいです。大変な状況の中でも長岡出身の方が全国で頑張っていると思うので、今回の取り組みを通してみんながひとつになれるきっかけになれたらいいなと。さらには、これまで長岡に縁がなかった方、長岡花火を見たことがない方にも、長岡や長岡花火への関心が広がってくれたらいいなと思います」(羽鳥さん)
「いつでもふるさとが応援しているよ」という想いを届けた長岡市学生応援プロジェクトと、その想いを受け取り長岡に還元したい気持ちをかたちにした恩返しプロジェクト。長岡市恩返しプロジェクトの花火は、2月20日の長岡花火「雪花火」プログラムにて、ベスビアス超大型スターマインとして打ち上げられます。当日はYouTubeでの生配信も予定されていますので、長岡市民の方はもちろん、いまは長岡に来ることが難しい方も、多くの人の想いを乗せて打ち上がる大輪の花火を眺めてみてはいかがでしょうか。
長岡雪しか祭り
第36回長岡雪しか祭りは、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策を踏まえての開催となります。
※21日(日)の来場者は新潟県内在住の方のみとなります。
会場:ハイブ長岡 千秋が原ふるさとの森(長岡市千秋3丁目315番地1)
日時:2021年2月20日(土)~21日(日)
20日(土)午後4時~午後6時30分
※長岡花火「雪花火」は午後6時〜を予定
21日(日)午前10時~午後4時
当日の花火の模様は、長岡花火公式YouTubeチャンネルで生配信を行う予定です。
長岡花火公式YouTubeチャンネル
※現地で観覧される場合は、マスク着用などの感染症対策をお願いします。
Text: Ayumi Yagi
Photo: Hirokuni Iketo