雪国初心者必見!雪かき伝道士が教える「大雪の前後にやるべきこと」※大雪防災情報・公的支援リストつき
2021/3/2
2020年の暮れから2021年の初頭にかけて、記録的な大雪に驚いた人は多いだろう。豪雪地帯である新潟県長岡市の中でも雪深い山古志種苧原(やまこしたねすはら)地区では、最大積雪量317センチを観測。とくに年末や成人の日前後の大雪は交通機関のトラブルを生み、たくさんの人の日常生活が混乱した。
筆者は昨年秋に東京から引っ越し、今年新潟で初めての冬を迎えているが、「当たり年に来たね」と冗談交じりによく言われる。人生のなかで雪になじみのない生活を送ってきた身にとっては、この冬は毎日が発見と驚きでいっぱいだ。雪の大変さだけではない。降ったばかりのふわふわな雪を踏みしめる楽しさ、夜になってもうっすらと明るい優しげな雪あかり、晴れた日に見える雪化粧した山々……目をみはるような美しい光景に出会うたび、頬にあたる冷たい風を忘れるくらいじっと見入って感動していた。
一方で雪が人間社会に及ぼす影響も知り、白くてふわふわしたロマンチックなものというかつての印象から、生活に支障をきたす煩わしいもの、そして人の命を脅かす恐ろしいものという雪の知られざる一面とも向き合うことになった。筆者自身、そもそも雪の上の安全な歩き方すらわからず、何度か怪我をしそうになった。初めて大雪が降った翌日の朝は、アパートのほかの住人に混じって初めての雪かきに挑戦したが、かいた雪をどこに置くのがベストなのか、そもそもどんな道具を用意しておくべきだったのかも最初は分からなかった。そして、一度経験してしまえばもう自信たっぷりかというと、そうでもない。雪かきについて知人に教わろうとするものの、意外にも言うことがみんなバラバラなのだ。「なんとなく」「こんな感じ」と、ほとんどの人は我流で雪かきをしているように思う。
そんなとき、雪かきを基礎から教えている「越後雪かき道場」という活動が長岡市にあると聞きつけた。県内外から参加者があり、学び終えた者は地元で“師範”として活躍するという。雪かきの奥義を教えてもらうべく、雪深い山古志地域へと向かった。
重くて水分の多い新潟の“ぼた雪”
そもそも新潟県に雪が多い理由は、冬に大陸から北西の季節風が吹き、暖流である対馬海流の上を通過する際に風がたくさんの水蒸気を含み、その風が越後山脈にぶつかって雪になるからだ。冬に新潟へ来たことがある人なら、トンネルを抜けて湯沢に入った途端に景色が真っ白になるという経験をしたことがあるだろう。
関東平野に雪が降らず、冬もよく晴れているのは越後山脈のおかげなのだ。かつて田中角栄は新潟と群馬の県境にある三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばし、崩した土砂で日本海を埋めて佐渡まで陸続きにするというトンデモ構想を考えていたという。
「全国的に見て、新潟県中越地区の雪は珍しいんです。水分をたっぷり含んだ、重たくてねばりのある、いわゆる“ぼた雪”ですね」と話すのは、今回お話を聞いた中越防災フロンティア事務局長の田中康雄さんだ。
この冬はじめて雪が積もったときに雪合戦をしたのだが、雪玉の打撃が痛すぎて真顔ですぐ中止した。北海道のスキー場でつくった雪玉は当たるとほろほろと崩れた記憶がある。しかし、新潟の雪玉は硬くて頑丈なのだ。重たい雪の雪かきは体力を想像以上に消耗し、万が一の危険を伴う。田中さんは、雪かきは必ず2人以上でしたほうがいいと言う。
「屋根から落ちてくる雪に当たって怪我をしたり、屋根から転落して雪に埋もれてしまったり、死に至るケースも少なくありません。地方紙で小さく扱われるだけですが、実は、雪おろしの関連事故により毎年全国で100名以上は亡くなっているんです。2人以上で作業をしていれば、助かる確率はぐっと上がります」。雪をかくタイミングは、降雪中の見通しの悪いときよりは、周囲の状況を把握できるよう、降雪が落ち着いた日中が望ましい。どうしても夜に雪かきをする必要があれば、事故に巻き込まれないよう蛍光色の服やリフレクターを身につけよう。
大雪が降るとわかったら
すぐやるべきこと
「そもそも、雪が降る前にしておくべきことがある」と田中さんは言う。たとえば、数日後に大雪予報が出たとすると、まずは何から準備すればよいのか?
「まずは車のガソリンを満タンにして、必要なものを揃えましょう。スコップや車を傷つけないスノーブラシ、フロントガラスが結露で汚れるので窓拭き用のタオルを数枚、立ち往生や事故を予想して暖をとれる毛布や携帯トイレを車の中に常備します。食べ物や水もトランクにあれば安心ですね」。
フロントガラスに雪が積もってワイパーが凍ると動かせなくなり、また無理に動かすと破損するため、ワイパーは窓から離して立てる。サイドミラーも凍るのでたたんでおく。雪国の暮らしに慣れた人には常識でも、移住してまだ間もない人や滞在予定がある人には一番に思い浮かぶことではない、ということも多数あるだろう。雪が降る前に、やることのチェックリストなどを作っておくのも手だ。車対策ができたら、次は意識を家へ。まずは自宅の庭や玄関、駐車場などを眺めて除雪範囲をシミュレーション。雪が降ると何もかもが埋もれてしまい、どこに何があるのかわからなくなって雪かきで物を傷つけてしまう可能性もある。水道管や排水溝の位置を把握し、また雪を集める場所を考えておく。雪の置き場所のポイントは建物の隅や冬場の使わない庭など、日常生活の動線ではなく、かつ公共の場所ではないところだ。
アパートやマンションの場合、雪かきによって他の入居者に迷惑をかけることもあるので、事前に管理会社や大家さんに雪の置き場所を確認しておくほうがよさそうだ。いつも同じ人ばかりが雪かきをしている、なんてことになると、長年にわたって不平不満が溜まってトラブルに繋がる恐れもある。田中さんが勧めるのは、当番制にすることと雪かきをしてくれた人へ感謝の言葉を伝えること。雪かきは誰かがやらなければならないことなのだ。
雪かき道具の使い方を実践!
さて、いよいよ実践編。雪が降り積もったこの場所を実際に田中さんに雪かきしてもらった。
「まず用意しておく必要があるのは、スコップとスノーダンプ(通称:ママさんダンプ)です。コメリやムサシなどのホームセンターにあります。選び方のポイントはどこで使うかと自分の筋力がどれくらいあるか。たとえば都市部に住んでいて雪かきの範囲も広くない人は、スコップと雪を押すためのスノーラッセルがあれば十分です。一方で田舎の一軒家などに住んでいる方は離れた場所に排雪する必要があるので、雪を運ぶスノーダンプも必須。スコップやスノーダンプの素材には、プラスチック、アルミ、スチールなどがありますが、雪の硬さに合わせて使い分けます。圧雪によって氷のように硬くなった雪には金属がいいですが、重い。自分の体力にあったものを選ぶのがよいでしょう」。
雪かきはあまり一生懸命やりすぎず、淡々と同じ動きをするのがポイントだと田中さんは語る。「ここからここまで」と範囲を決めてしまうと終わるまでやり続けてしまうので、30分、1時間と時間を決めて雪かきを区切るのがおすすめだ。まず排雪場所を定めたら、そこから雪かき現場まで雪の道をつくる。スノーダンプをなめらかに滑らせるための道で、道路のコンクリートによってスノーダンプが傷つくのを防ぐ狙いもある。
さて、雪の塊に対峙したら、まずはスノーダンプを上から地面と垂直に落とすようにして切れ目を入れる。一旦道具を抜いたら、今度は下から地面と水平に切れ目を入れる。すると、ポコッと雪の塊がとれてスノーダンプに載っかるので、そのまま排雪場所へ滑らせる。雪を放る時にはスノーダンプを押すのではなく、クッと手前に引くと楽に雪が離れる。新潟に来たばかりの人がスノーダンプを上手に使っているとほめられることも。スノーダンプを上手に使えてこそ新潟人として認められる気がするのは自分だけだろうか。
「雪とともに生きる」ということを学ぶ
今では雪かき道場のような雪かきを基礎から学べる機会があるが、これまで長岡の人たちは雪かきの技術をどう伝えてきたのだろうか。
「私は小学1年生から屋根に登って雪かきを手伝っていましたよ。親のやり方を見よう見まねで。自然と家族のなかで技が継承されていく感じです。昔は今のように道路除雪が整備されていなくて、家の周りに2mくらい雪が積もって二階の窓から出入りできました。雪かきが終わったあと、屋根から雪におもいっきり飛び降りるのが楽しかった! 今は除雪車が通ったあとコンクリートの道路がむき出しになるので、絶対やってはだめですけどね」。
雪かきは昔から基本的に自己責任で行うものとされてきた。だが、除雪の技術も向上して便利になっているからこそ、逆に自分の手で雪かきができない人が増えているのが課題だと田中さんは言う。「雪かき人口の高齢化も進んでいます。人によりますが、40代から上の世代しか、本格的な雪かきを経験していないのではないかと思います。だからこそ雪かきの知恵を伝授する場が必要になってくるんです」。
平成18年に起きた大雪災害では、152名もの尊い命が失われた。全国から志願したボランティアを受け入れたくても、雪の扱いに慣れていない人たちの力を活かすことができず、せっかくの援助も断わるしかなかった。そんな教訓から雪かき道場は生まれたのだ。田中さんにとって、雪はきっと立ち向かうべき敵なのではないか。そう思っていたら意外な答えが返ってきた。
「毎年降らないでほしいなと思いつつ、やっぱりそこそこは降ってほしいなと思うものです。雪が降ると季節の移ろいを肌で感じますから。それは子供の頃からずっと続いていることです。それに、豊富な雪解け水のおかげで美味しいお米やお酒ができ、さらに窒素を含む雪が畑に降ることで土壌を豊かにして野菜を美味しくしますからね」
新潟人の雪に対する思いは複雑だ。雪の恩恵を受けつつ、雪によって苦しむことのないように身を守る。筆者も自分の周りの雪くらい、自分でなんとかできるようになりたいと思った。それはこの冬、長年雪に慣れ親しんできた家族や友人、知人が雪に対して不満を漏らすことなく日々辛抱強く雪に対処している姿を見てきたからだ。雪を嫌わず、疎まず、雪とともに生きる。美しい雪景色や楽しい雪遊び以上に、筆者にとっては雪に対する新潟の人たちの姿勢が、この冬もっとも感動したものだったように思う。
text & photo:橋本安奈
*雪に関連した防災情報は下記、長岡市のWEBサイトやSNSをチェック。
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*そのほか、除雪ボランティアや除雪費の助成については下記を参考にしてください。
町内会などの除雪機燃料費補助(長岡市除雪作業支援事業補助金)
町内会、自主防災会、集落、PTA、ボランティア団体等の営利を目的としない団体に対し、除雪作業1時間当たり、燃料費相当額として500円を共助組織に補助。
電話問い合わせ:長岡市地域振興戦略部 0258-39-2260
積雪による事故を防止し、生活不安を解消するため、要援護世帯(高齢者、母子、障害者世帯など)のうち、住居等の除雪ができない世帯に対し除雪費を助成。
電話問い合わせ:長岡市福祉総務課 0258-39-2217 または地区の民生委員・児童委員(※令和2年度の助成受付は終了しました)
長岡市内の公衆用道路(国・県道は除く)に消雪パイプを埋設する場合、配管・井戸・ポンプ・制御盤・降雪感知器等の新設・更新工事に対して、工事費の一部を補助。
電話問い合わせ:長岡市道路管理課 0258-39-2232
小型除雪機の無償貸与
地域ぐるみで自主的な除雪活動を行う町内会等に小型除雪機を無償貸与。
電話問い合わせ:長岡市道路管理課 0258-39-2232
(※令和2年度の貸し出しは終了しました)
排雪経費に対する補助
市道(私道を含む)の排雪事業を実施する町内会等に対し、費用の50%以内の額を補助。
電話問い合わせ:長岡市道路管理課 0258-39-2232