生ごみから電気ができる!? 「発酵・醸造のまち」長岡が取り組むバイオエコノミーの現場を訪ねた

 

“発酵・醸造のまち”を掲げる新潟県長岡市。醤油・みそ・日本酒などの製造が盛んですが、まちに蓄積されてきた発酵技術を活かすフィールドは、食品だけに限りません。生ごみを微生物分解することでバイオガスを発生させ、電気エネルギーをつくるバイオエコノミー推進にも力を入れ、全国から注目を集めています。

バイオエコノミー(直訳すると「生物経済」)とは、生物資源やバイオテクノロジーを用いて“持続可能な循環型社会”をつくろうとする概念のこと。長岡市は世界の最先端をいくバイオエコノミーの拠点となるべく、研究機関や大学などが連携して、様々な活動を行っています。
その活動の一つが、全国の自治体で最大規模の生ごみバイオガス発電。地球にやさしい先進的な取り組みです。これまで廃棄するだけだった生ごみが、いったいどのような過程を経て資源となるのでしょうか。中心市街地のほど近くにある、「長岡市生ごみバイオガス発電センター」を訪ねました。

生ごみバイオガス発電センター。ごみ焼却施設や下水処理場が隣接している。

燃やすごみを減らすためにスタートした
生ごみの電気エネルギー化

(左)武内豊さん(中央)景山兼之介さん(右)小林芳文さん。

今回、お話をお聞きしたのは、長岡市役所環境施設課の武内豊さんと小林芳文さん、事業の運営会社「長岡バイオキューブ」の景山兼之介さん。全国の自治体で最大規模の“廃棄物系バイオマス”を活用する拠点として、これまでに数多くの視察を受け入れ、ノウハウや導入方法を伝えてきました。

長岡市生ごみバイオガス発電センターが本格稼働したのは、8年前のこと。そのきっかけは、燃やすごみを減らさなければならないという課題からだったそうです。

「長岡市では、ごみを燃やした後の燃えがら(焼却灰)やリサイクルできない残さの処理に、長年頭を悩ませていました。それらは最終処分場に埋め立てられることになるのですが、残余容量には限りがあります。そこで、燃やすごみの中に含まれる“生ごみ”の資源化を検討することにしたのです」(武内さん)

焼却灰や資源にならないごみを埋め立て処分している柿最終処分場。(写真の新施設は2021年3月完成)

ごみの埋め立て処分における残さ処理については、全国どの地域でも深刻な課題です。当時の市職員は様々な事例を調べるうちに、生ごみを燃やさずに処理する方法として、「堆肥化」「家畜飼料化」「バイオガス化」で資源化する選択肢があることがわかったそうです。どの方法も、生ごみの分別が必要であり、市民に質の高い生ごみを提供してもらう必要があります。

それでは、どの方法が自分たちのまちに最適かと考えた時、ポイントとなったのが「市民の負担度合い」でした。

「生ごみの細かな分別を市民の皆さんにお願いするのは、負担がかかりすぎると考えました。なかでも堆肥や家畜飼料にするのは純度が高い生ごみが不可欠のため、分別のハードルが高くなり、実行するのは難しくなります」(武内さん)

その結果、市民のごみ分別の負担がさほどは大きくない方法として、「生ごみのバイオガス化」に決定。この方法であれば、生ごみに紙おむつや卵のカラなど発酵しないものが混ざっていたとしても、機械で分別し資源として有効利用できます。

当時、生ごみのバイオガス化を行なっている自治体は数えるほどしかなく、先進地である北海道の砂川市や深川市に赴き、施設の維持管理方法などについて視察したそうです。

生ごみが電気エネルギーになるまで

それでは、生ごみはどのような工程を経て、電気エネルギーへと生まれ変わるのでしょうか?施設を運営する景山さんに案内してもらいました。

生ごみの処理量は最大で1日65トン。ピンク色の袋は生ごみ、黄色の袋は紙おむつが入っています。

まずは、収集車が集めた生ごみを貯留装置へ投入。その下に続く破砕装置で粉々にしたのち、ポリ袋や紙おむつなど発酵不適物はより分けられ、隣接するごみ焼却施設で処分されます。残るのは、ドロドロの液体。これがバイオガスを生み出すための微生物のエサとなります。

(左)生ごみを受け入れる工場棟と(右)発酵した液体をためておく調整槽。

液状化した生ごみは管を通って、隣にある調整槽へ。非常に濃度が高い液体のため、隣接する下水処理場からの希釈水で約3倍に薄めます。

発酵槽の容量は1800㎥。常に8割の液体が入っているように、量が調節されています。

そして、その液体は量を調節しながら少しずつ発酵槽に注がれます。この中で活躍しているのが、バイオガスを生み出すメタン菌です。メタン菌とはその名の通り、メタン発酵を行う微生物。有機物(タンパク質、脂肪、糖類など)をエサにして、メタンガスの他、二酸化炭素や硫化水素などを発生させます。

タンクの天辺。上部から希釈した生ごみの液体を、定量ずつ加えていきます。

「メタン菌は、酸素や光のない約40℃の環境で活発になる菌です。うまく発酵させるポイントは、かき混ぜ続けることですね」と景山さん。高さ13メートルのタンク上部へ階段で上ってみると、そこには攪拌ミキサーが。24時間かき混ぜ続け、約4週間発酵させるのだそうです。

ちなみにメタン菌は特にめずらしい菌というわけではなく、あらゆる所に存在する微生物とのこと。こちらでは、隣接する下水処理場で採取したメタン菌を株分けしてもらっています。

タンクの小窓からは、液体の表面に浮かぶ固形物(果物の種など)が見えました。

発酵分解しきれない残りかすを有効活用したバイオマス燃料

「タンクの中に生ごみの液体を流しつつ、常に8割の容量を保つために余剰の液体を抜いていきます。発酵分解しきれない残りかすも無駄にはせず、脱水と乾燥を行うことで、1日最大4トンのバイオマス燃料ができるんです。この燃料は県外のガス化溶融設備に売却して、設備の補助燃料として使われ、最終的には電気に生まれ変わります」(景山さん)

生成されたバイオガスを保管するガスホルダー。

液体の中でメタン菌が元気に活動をすると、タンクの上部にはバイオガスが発生。そのうち電力を生み出すために使うのはメタンガスのみなので、不要な硫化水素などは除去した後、ガスホルダーに蓄えられます。

騒音対策のためセメント壁で囲われた、クリーンで静かな発電設備。

バイオガスを燃焼させてガスエンジンを動かし、その力で発電機を回して発電します。発電量は最大で1日12300kWh。

敷地内にある電気自動車の急速充電器。午前8時から午後8時まで無料で利用できます。

生ごみが電気とバイオマス燃料になるまでの流れ。

バイオガスは工場棟内にある発電機の燃料となり、電気に生まれ変わります。発電した電気の1割は敷地内の設備運営や電気自動車の充電に利用され、残り9割は電力会社に売電。バイオマスの再生可能エネルギーを用いてつくった電気は、通常よりも高い価格で売ることができます。こうして生ごみは無駄なく100%が資源化しているのです。

市民の協力を得ることが
バイオガス発電成功のカギ

年間約1万トンの生ごみを発酵処理し、そのすべてを資源として活用している長岡市。生ごみのバイオガス発電を始める前の年と比べて、燃やすごみの量を約2割減らすことに成功しています。発電量は、令和元年度で年間246万キロワット。これは一般家庭の約600世帯分に相当する量です。

生ごみ処理量はポリ袋や紙おむつなど発酵不適物を含んでいます。令和2年度の()内は処理計画量。

バイオガス発電を始めた当初から、生ごみの処理自体は順調に進めてきたそうで、安定して年間1万3千トンの生ごみ処理をし、燃やすごみ量を減らしています。それでは、これまでどんなことに苦労したのでしょうか?

「市民の理解と協力を得ることが、一番大変でしたね。バイオガス発電を行うために必須なのは、原料になる生ごみの確保です。市民にとって、これまで燃やすごみとして出していた生ごみを、わざわざ分別するのは大きな負担になります。ていねいな説明と協力のお願いを意識して行ってきました」(武内さん)

ごみ情報誌「ながおかのごみ改革」

長岡市はバイオガス発電が2013年7月から稼働することを見据えて、同年4月から生ごみの分別収集を開始しました。市民への周知は、ごみの収集やリサイクル、市民への啓発などを担当する環境業務課を中心に、早い段階から始めたとのこと。実施3年前には数カ月に一度配布する情報誌「ながおかのごみ改革」で特集を組み、半年前には、町内会単位で説明会を開催しました。市役所の担当職員総出で600回以上開催した説明会は、生ごみの分別が必要な理由や、これまで廃棄物だったものが資源になる意義を伝え、累計2万人(世帯全体の約5分の1)の参加を得られたそうです。

ところが、本格的に生ごみ分別収集がスタートした早々、問い合わせの電話が鳴りやまない状態に……。その内容は苦情ではなく、「魚や肉の骨は生ごみ?」「貝殻やカニの殻は燃やすごみ?」など、分別に関する質問がほとんどでした。そのたびにていねいに説明を行い2年ほど経った頃、ようやく市民がごみの分別に慣れてきた雰囲気を感じられるようになったそうです。

生ごみ専用ごみ袋は、市内のスーパーやコンビニなどでも購入可能。

「市からの一方的な分別のお願いではなく、市民の声に耳を傾けるように心がけています」と武内さん。例えば、当初、生ごみ専用袋は約10リットルの小サイズと約5リットルの極小サイズのみでしたが、「もっと小さなサイズが欲しい」との要望から、約2リットルの超極小サイズも追加。その他にも「分別表をわかりやすくしてほしい」などの要望も届いており、担当する市職員は、状況をふまえながら検討する姿勢を大切にしています。その成果は、こんなところにも表れている様子。

「実は、最近は生ごみの総量が少しずつ減ってきているのですが、バイオガス発生量は以前と変わりありません。市民の皆さんのご協力によって、生ごみの水切り状態が良くなっているのでしょうね」(武内さん)

バイオガス発電にとって最も大切なのは、発酵を行う微生物に必要なエサである有機物が豊富にあること。つまり、8年間かけて市民の協力体制が整い、“質のよい生ごみ”が得られるようになってきたといえます。とはいえ、生ごみに発酵不適物(衣類、チラシ、ビン・缶など)が混ざっていることもまだ多く、時には機械が破損する事故が起こることも。分別をさらに徹底して、市民一人ひとりとの協力体制を作っていくことが重要です。

地球にやさしい取り組みを
もっと市民に伝えたい

長岡市民にとって、生ごみを分別することは今や日常的な行為となりました。しかし、その先で生ごみが発酵することでバイオガスやバイオマス燃料になり、電気がつくられているという認識はまだ薄いのが現状です。

親子でごみ処理と再利用について学ぶ「夏休み子ども環境体験フェア」。

多くの市民にエコな活動を知ってもらおうと、長岡市生ごみバイオガス発電センター稼働当初から続けているのが、小学生の社会科見学ツアー。毎年約2000人の児童が参加しており、普段の生活で出る生ごみが資源として生まれ変わる循環を伝えてきました。さらに、毎年夏には「夏休み子ども環境体験フェア」を行い、ごみ焼却施設のバックヤードを探検、ごみクレーン体験やごみ収集車の見学も含めた、親子で学べる機会をつくっています。

全国各地から視察が殺到。バイオガス発電のノウハウを惜しみなくレクチャーしています。

また、バイオガス発電に興味がある団体・個人の視察や見学も積極的に受け入れ。運営方法や導入方法のノウハウを惜しみなく伝えることで、バイオエコノミーに対する理解がより広まるよう努めています。(2021年2月現在、見学・視察は新型コロナウイルス感染拡大防止のため休止中)。

膜分離リアクターによる実証実験。

現在は、国のバイオ産業の研究開発事業として、新しい試みもスタート。市や大学、化学メーカーなどと協力しながら、排水から汚れを分離する処理に使用するための膜分離装置の実証実験をしています。微生物の力を利用することで排水を浄化し、自動稼働を安定して成功させるのが目標。工場から出る排水処理のコストカットにつながると期待されています。

未来を見据え、バイオエコノミー推進に力を入れる長岡市。いま世界で広がりを見せるSDGsや環境問題解決にも関わりが深く、“持続可能な社会”をつくるために不可欠な活動だといえます。今後も、さまざまな方面でバイオテクノロジーを活用した地球にやさしい事業を実施予定。時代をリードする長岡の取り組みにぜひご注目ください。

Text & Photo: 渡辺まりこ

関連する記事