生ごみから電気ができる!? 「発酵・醸造のまち」長岡が取り組むバイオエコノミーの現場を訪ねた

2021/3/16
“発酵・醸造のまち”を掲げる新潟県長岡市。醤油・みそ・日本酒などの製造が盛んですが、まちに蓄積されてきた発酵技術を活かすフィールドは、食品だけに限りません。生ごみを微生物分解することでバイオガスを発生させ、電気エネルギーをつくるバイオエコノミー推進にも力を入れ、全国から注目を集めています。
バイオエコノミー(直訳すると「生物経済」)とは、生物資源やバイオテクノロジーを用いて“持続可能な循環型社会”をつくろうとする概念のこと。長岡市は世界の最先端をいくバイオエコノミーの拠点となるべく、研究機関や大学などが連携して、様々な活動を行っています。
その活動の一つが、全国の自治体で最大規模の生ごみバイオガス発電。地球にやさしい先進的な取り組みです。これまで廃棄するだけだった生ごみが、いったいどのような過程を経て資源となるのでしょうか。中心市街地のほど近くにある、「長岡市生ごみバイオガス発電センター」を訪ねました。

生ごみバイオガス発電センター。ごみ焼却施設や下水処理場が隣接している。
燃やすごみを減らすためにスタートした
生ごみの電気エネルギー化

(左)武内豊さん(中央)景山兼之介さん(右)小林芳文さん。
長岡市生ごみバイオガス発電センターが本格稼働したのは、8年前のこと。そのきっかけは、燃やすごみを減らさなければならないという課題からだったそうです。
「長岡市では、ごみを燃やした後の燃えがら(焼却灰)やリサイクルできない残さの処理に、長年頭を悩ませていました。それらは最終処分場に埋め立てられることになるのですが、残余容量には限りがあります。そこで、燃やすごみの中に含まれる“生ごみ”の資源化を検討することにしたのです」(武内さん)

焼却灰や資源にならないごみを埋め立て処分している柿最終処分場。(写真の新施設は2021年3月完成)
それでは、どの方法が自分たちのまちに最適かと考えた時、ポイントとなったのが「市民の負担度合い」でした。
「生ごみの細かな分別を市民の皆さんにお願いするのは、負担がかかりすぎると考えました。なかでも堆肥や家畜飼料にするのは純度が高い生ごみが不可欠のため、分別のハードルが高くなり、実行するのは難しくなります」(武内さん)
その結果、市民のごみ分別の負担がさほどは大きくない方法として、「生ごみのバイオガス化」に決定。この方法であれば、生ごみに紙おむつや卵のカラなど発酵しないものが混ざっていたとしても、機械で分別し資源として有効利用できます。
当時、生ごみのバイオガス化を行なっている自治体は数えるほどしかなく、先進地である北海道の砂川市や深川市に赴き、施設の維持管理方法などについて視察したそうです。
生ごみが電気エネルギーになるまで
それでは、生ごみはどのような工程を経て、電気エネルギーへと生まれ変わるのでしょうか?施設を運営する景山さんに案内してもらいました。

生ごみの処理量は最大で1日65トン。ピンク色の袋は生ごみ、黄色の袋は紙おむつが入っています。

(左)生ごみを受け入れる工場棟と(右)発酵した液体をためておく調整槽。

発酵槽の容量は1800㎥。常に8割の液体が入っているように、量が調節されています。

タンクの天辺。上部から希釈した生ごみの液体を、定量ずつ加えていきます。
ちなみにメタン菌は特にめずらしい菌というわけではなく、あらゆる所に存在する微生物とのこと。こちらでは、隣接する下水処理場で採取したメタン菌を株分けしてもらっています。

タンクの小窓からは、液体の表面に浮かぶ固形物(果物の種など)が見えました。

発酵分解しきれない残りかすを有効活用したバイオマス燃料

生成されたバイオガスを保管するガスホルダー。

騒音対策のためセメント壁で囲われた、クリーンで静かな発電設備。

バイオガスを燃焼させてガスエンジンを動かし、その力で発電機を回して発電します。発電量は最大で1日12300kWh。

敷地内にある電気自動車の急速充電器。午前8時から午後8時まで無料で利用できます。

生ごみが電気とバイオマス燃料になるまでの流れ。
市民の協力を得ることが
バイオガス発電成功のカギ
年間約1万トンの生ごみを発酵処理し、そのすべてを資源として活用している長岡市。生ごみのバイオガス発電を始める前の年と比べて、燃やすごみの量を約2割減らすことに成功しています。発電量は、令和元年度で年間246万キロワット。これは一般家庭の約600世帯分に相当する量です。

生ごみ処理量はポリ袋や紙おむつなど発酵不適物を含んでいます。令和2年度の()内は処理計画量。
「市民の理解と協力を得ることが、一番大変でしたね。バイオガス発電を行うために必須なのは、原料になる生ごみの確保です。市民にとって、これまで燃やすごみとして出していた生ごみを、わざわざ分別するのは大きな負担になります。ていねいな説明と協力のお願いを意識して行ってきました」(武内さん)

ごみ情報誌「ながおかのごみ改革」
ところが、本格的に生ごみ分別収集がスタートした早々、問い合わせの電話が鳴りやまない状態に……。その内容は苦情ではなく、「魚や肉の骨は生ごみ?」「貝殻やカニの殻は燃やすごみ?」など、分別に関する質問がほとんどでした。そのたびにていねいに説明を行い2年ほど経った頃、ようやく市民がごみの分別に慣れてきた雰囲気を感じられるようになったそうです。

生ごみ専用ごみ袋は、市内のスーパーやコンビニなどでも購入可能。
「実は、最近は生ごみの総量が少しずつ減ってきているのですが、バイオガス発生量は以前と変わりありません。市民の皆さんのご協力によって、生ごみの水切り状態が良くなっているのでしょうね」(武内さん)
バイオガス発電にとって最も大切なのは、発酵を行う微生物に必要なエサである有機物が豊富にあること。つまり、8年間かけて市民の協力体制が整い、“質のよい生ごみ”が得られるようになってきたといえます。とはいえ、生ごみに発酵不適物(衣類、チラシ、ビン・缶など)が混ざっていることもまだ多く、時には機械が破損する事故が起こることも。分別をさらに徹底して、市民一人ひとりとの協力体制を作っていくことが重要です。
地球にやさしい取り組みを
もっと市民に伝えたい
長岡市民にとって、生ごみを分別することは今や日常的な行為となりました。しかし、その先で生ごみが発酵することでバイオガスやバイオマス燃料になり、電気がつくられているという認識はまだ薄いのが現状です。

親子でごみ処理と再利用について学ぶ「夏休み子ども環境体験フェア」。

全国各地から視察が殺到。バイオガス発電のノウハウを惜しみなくレクチャーしています。

膜分離リアクターによる実証実験。
未来を見据え、バイオエコノミー推進に力を入れる長岡市。いま世界で広がりを見せるSDGsや環境問題解決にも関わりが深く、“持続可能な社会”をつくるために不可欠な活動だといえます。今後も、さまざまな方面でバイオテクノロジーを活用した地球にやさしい事業を実施予定。時代をリードする長岡の取り組みにぜひご注目ください。
Text & Photo: 渡辺まりこ