スピードメーターの名門「日本精機」の新製品は…CO₂測定器!? 変わる時代と、変わらぬ技術への誇りを聞いた
2021.10.4
新型コロナウイルスの流行から一年半。感染症予防の対策として、こまめな換気が今や必須とされています。しかし、暑さ寒さの厳しい季節は室内を密閉しがちですし、定期的に換気をしていても、室内の人数によって空気環境はすぐに変わるもの。厚生労働省は、二酸化炭素濃度1000ppm以下を、換気が良好にされている状態の目安としてあげていますが、目に見えない二酸化炭素濃度について、人の感覚で判断しきれるものではありません。換気をしなければいけないタイミングを知りたい。この課題を解決してくれるのが、CO₂メーター(二酸化炭素濃度測定器)です。
この秋、新潟県長岡市の企業が個人消費者向けCO₂メーター市場に参戦します。その企業とは「日本精機」(にっぽんせいき)。自動車のスピードメーターをはじめとした車載計器の開発製造を行う、知る人ぞ知る世界的な企業です。これまでメーターを通して「見えないものを見える化」する技術を磨いてきた日本精機が満を持して世に送り出す国産CO₂メーター。その開発背景と、新製品の注目ポイントに迫ります。
世界一のシェアを誇る
ヘッドアップディスプレイの技術
訪れたのは長岡市北部の工業地帯にある日本精機本社。CO₂メーターを見せていただく前に、そもそも日本精機はどんな技術を持つ会社なのかをお聞きしました。製品展示室を案内してくださるのは、サービス・ディーラー事業部のシニアマネージャー熊倉伸也さんと、事業企画部で広報を担当するシニアマネージャー麻王徹雄さんです。
麻王 弊社が今、力を入れているのは、車のヘッドアップディスプレイです。ドライバーが前方に視線を向けたまま、車速やナビゲーション表示などのさまざまな情報を、より早く確実に確認できるシステムです。まずは、どういうものなのか、体感してみてください。
麻王さんの案内先には、車のフロントウィンドウの一部と黒い機器がありますが、いわゆる車速を表す数字や針といった表示はどこにもありません。「?」と疑問に思いながらその前にドライバー目線で立つと……。 なんとフロントウィンドウの「向こう」に速度や進路などの情報が映って見えるのです。でも、何もないはずのところに映像が見えているのはどういった仕組みなのでしょう?麻王 これは、フロントウィンドウに映し出された遠方虚像なんです。このヘッドアップディスプレイと呼ばれるデバイスは、ダッシュボードの下に入っていて、その内部は表示器や光源、光を折り曲げる反射鏡、表示を拡大する凹面鏡などで構成され、表示像を歪みなく、美しく、見やすいように映像を飛ばしているんです。これだけ大きな画像を、遠く視線の先に見えるようにできるのは、弊社が磨き続けてきた光学設計技術の成果。それを用いて、車のメーカーさまと協力しあいながら作り上げてきたものです。
ヘッドアップディスプレイの紹介動画はこちら(白い画面上の三角をクリック)麻王 ヘッドアップディスプレイは、自動ブレーキなどと同じく、安全運転をサポートするシステムのひとつで、特に欧米で急速に普及しています。欧米の高速道路って時速200~300kmで走ることもありますよね(※)。その速度で走行するとなると、視線や焦点を変えずに運転するほうが安全性が高い。なので、ヘッドアップディスプレイは、海外で最初に導入され始めました。頭(Head)を下げずに上げたまま(Up)見ることができる表示(Display)ということで、ヘッドアップディスプレイという名前がついています。海外だけでなく国内メーカーの車にも、既に搭載されてきていますよ。
※有名なのはドイツのアウトバーン。最高速度は無制限とされる区間があり、欧米では全体的に日本より最高速度が高く設定されている国が多い。
熊倉 海外にも競合メーカーはもちろんありますけれど、うちが世界一のシェアを誇っていて、しかも画像の美しさは世界一と言われているんですよ。
実際に体感してみると、その見やすさや視線移動がないことのラクさに驚かされます。メーターの精度の高さはもちろん、光学設計技術も世界クラス。また凹面鏡などの部品も社内で製造していて、超精密加工の技術を磨き続けているとお聞きし、世界と戦う日本の製造業のクオリティの高い仕事ぶりに圧倒される思いでした。
時計からスピードメーターへ……
見えないものを見せる技術の進化
先端技術を見せてもらったところで、日本精機がどのようにして現在の技術力を得るにいたったか、その沿革をお聞きしました。
熊倉 創業は1945年12月。終戦の年から半年たらずで創業しています。元々は置時計作りからスタートしたんですよ。長岡は空襲も受けましたし、当時はものの少ない時代でしたから、なるべく部品が少なくて材料をあまり使わなくてすむ、コンパクトな製品くらいしか作れなかったのではないでしょうか。そうした条件下で世の中に役に立つものを作ろうと考えて出てきたのが、目覚まし時計などの置時計や計器類だったんです。 麻王 それが、オート三輪(三輪トラック)の計器を作ることになったのをきっかけに、二輪車、四輪車のメーターを作るのが本業になっていきました。特に、世界最多の販売台数を誇る「スーパーカブ」のメーターを受注したのが、会社の業績を大きく躍進させたと言われています。ほかにもボートなどの船舶や、建設機械、農機具のメーターも作っていますよ。かつては F 1のメーターなども作っていました。置時計と車のメーター、どちらも数字と針が使われていて、確かに見た目が少し似ています。時計から車載機器への転換が、高度経済成長期の日本車需要と相まって、日本精機の業績を大きく飛躍させていったことになります。
麻王 自動車もバイクも、メーターは次第に複雑になり、画面が液晶部分になったり、面積も広がったりしてきたわけですが、各社各様の車のデザインに合わせながら、我々は部品の一つ一つ、枠の成型からきちんとやりながら設計し、製造し、技術を進化させて、作りこんできました。ライトひとつをきれいに光らせることにもこだわってきました。そうした技術の先に、先ほどお見せしたヘッドアップディスプレイがあり、今回のCO₂メーターがあるんです。技術陣が、我々の DNA を製品に体現化させているんですよ。
センシングと液晶技術の横展開。
住宅設備機器の開発へ
メカニカルな美しさが際立つ車やバイクの車載機器が並ぶ展示室の一画に、見慣れた家庭用機器が並ぶコーナーがありました。これはいったい? 説明してくださったのは、民生ビジネス本部のシニアマネージャー笠柳勇人さんです。
笠柳 実は、車のメーターで培った技術を横展開して、民生品も作っているんですよ。
民生品とは、主に一般家庭での使用が想定された製品のことです。展示されているのは、トイレに入ると水音が鳴る製品に、エアコンのリモコン、コピー機の操作パネル、家庭用発電機(エネファーム)の台所・風呂用リモコンなどなど……。どれも身近なものばかり。もしかすると、私たちは家や勤め先、ショッピング先などで何かしら日本精機の製品に触れている、ということではないでしょうか。笠柳 ここに展示されている住宅設備機器やコピー機には、よく見てもらうとほとんどに液晶が付いていますよね。うちは1960年代から液晶事業をやっているので、液晶を手掛かりに、住宅設備分野でも勝負していったんです。
麻王 うちには、もともと車のメーターで培ってきたセンシング技術(センサーで様々な情報を計測して数値化する技術)があります。車の走っている速度をいかに表示するか、燃料がどれだけ入っているのか、そのセンシングをしながら「見える化」する技術です。それに、この液晶技術が加わって、民生分野の製品が増えていきました。
熊倉 さらにそこから、今日の本題になるCO₂メーターのアイディアが出てきた、という流れなんです。
麻王 自動車のメーターの技術や住宅設備分野の製品技術を使って、「二酸化炭素をセンシングして、綺麗に分かりやすく表示する」ことを追求したというわけです。
インテリア性と実用性を
両立させたCO₂メーター
日本精機の製品や社史に触れて、CO₂メーターの開発には、自動車のセンシング技術や光学技術、住宅設備の製品技術が生かされていることがわかりました。それでは、いよいよ今回の主役、CO₂メーターのお披露目です。場所を展示室から会議室に移して、機能を詳しく解説してくださるのは民生ビジネス本部の和田涼介さんです。
和田 今回のCO₂メーターの開発目的は、新型コロナウイルスの感染防止のため、換気の重要性が世の中で急騰していたことです。コロナでお困りの飲食店様や、法人様、個人ユーザー様へ「空気環境の見える化」という点でお助けできないか、ということから製品の開発をいたしました。例えば、飲食店などでは、感染症対策として換気をしていても、それをお客様に伝えることは難しかったですよね。こういったCO₂メーターを置いていただければ、換気ができていることが伝わり、お客様にも安心してもらえると思います。私たちも日常生活において、換気で窓の開け閉めをする時間は感覚で判断するしかありませんでしたが、CO₂メーターがあればどの時点で窓を閉めればいいかわかるので、効率よく換気ができます。 商品名は「CO₂ Lamp」。サイズ感は直径82mm、高さ60mmとコンパクトで、リビングにあっても会社の会議室にあっても違和感のない、シンプルで小さなルームランプといった感じです。CO₂センサーは光音響式(※)を搭載。CO₂が赤外線の波長に反応することを利用した次世代小型センサーで、密閉空間の二酸化炭素濃度を正確に検出できるそうです。※厚生労働省推奨のNDIR式と同様に、光学式センサーを用いて空気中の二酸化炭素のみを検出する方式
本体の下にあるスイッチを押すと、青い色が灯りました。CO₂メーターには二酸化炭素濃度の数値が表記されるタイプのものもありますが、このCO₂ Lampは数値を表記しないタイプです。
和田 一般ユーザーの方にもわかりやすいように、上のランプ全体の光の色で、正常、注意、要換気の三段階を知らせるようにしました。1000 ppm 以下であれば「正常」ということで青色に。1000 ppmを超えると「注意」という意味で黄色に。2000 ppmを超えると「換気をしてください」という事で赤色に光ります。
麻王 数値も表示しようとすればできるのですが、あえて、シンプルに。でも信頼性と精度は抜群ですよ。
確かに360度、どこから見ても光で空気の状態がわかります。また、色によって空気の状態を段階化しているため、対応して取るべき行動がはっきりわかるのもポイント。信号機を連想させる青・黄・赤の3色ですよね。ところで、取材中はここまでずっと、ランプは青。「二酸化炭素の濃度が上がると本当に色が変わるのでしょうか?」と聞いてみました。
和田 では、試しに、CO₂ Lampの下のほうに向けて息を吹きかけてみてください。測定間隔が30秒ごとなので、少し待つと色が変わるはずですよ。
早速、言われたとおりに思いっきり息(つまりCO₂)を吹きかけてしばらく待つと、ピピと電子音が鳴って、赤色に!!
思わず動揺すると、皆さんが「いやー、黄色にはなるけれど、赤にはなかなかならないんだけどね!」「今の反応、動画に取りたかったぐらいだね(笑)」と笑っています。思いっきり息を吹きかけすぎました……。でも、色だけでなく警告音も鳴るので、変化がとてもわかりやすいです。和田 黄色になるのはそんなに珍しいことではないんですよ。この部屋でも、会議が盛り上がってくると黄色になりますね。
ところで、高性能な国産CO₂メーターとなるとどうしても高価格なのでは、と気になりますよね。しかし、このメーターは「社会貢献のための製品」として本体価格3,980円(税込4,378円)(※)で販売されるそうです。手に届く価格なのが嬉しい!※ACアダプター付は税込5,456円
購入サイトはこちら
https://prpage.biz/co2lamp/
また、長岡市ではふるさと納税の返礼品としても入手できます。
ふるさと納税のサイトはこちら
楽天:https://item.rakuten.co.jp/f152021-nagaoka/k2-01/
ふるなび:https://furunavi.jp/product_detail.aspx?pid=407631
飲食店、学校や学習塾、公共施設、オフィスや会議室、ホテルの客室やネットカフェのような場所で使うメリットは大きそうです。また、飲食店で使うことを想定して、簡易な防水機能も付いているそうです。10m²くらいのスペース(6畳間相当)で1個使用することを想定しているとのことなので、オフィスなど広い空間では複数置くといいかもしれません。
感染対策におおいに役立ちそうなCO₂メーターですが、注意したいのは、これはあくまで換気状態を明らかにするためのものであって、これを使えば他の感染症対策はOKというわけでは決してないということです。マスクなどで飛沫対策をしたり、手洗い消毒をするなど、基本的な対策と合わせて使うことで、より安心な対策につながります。
また、実はCO₂メーターを使うメリットは感染症対策だけではありません。CO₂の濃度が上がって1500ppmを超えると、眠気が増してうとうとしたり、集中力が低下し、意思決定能力や問題解決能力が下がり、2500ppm以上ともなると健康に悪影響が出てくるといわれます。アフターコロナを考えても、CO₂の濃度をお知らせする機能は、生活の役に立つと考えられます。