世界シェアNo.1の品質、誰もが働きやすい制度設計。進化を続ける100年企業・鈴民精密工業所
かつて、衣類を作る縫製の工程においては、「糸切り作業」に膨大な時間をとられていました。これを効率化すべく世界各国のメーカーが開発に挑んだものの、どこも実現できなかった「自動糸切り」。それを実現したのが長岡の会社だったことをご存じでしょうか。長岡市寺泊に本社・工場を構える「鈴民精密工業所」(以下、鈴民)が、工業用ミシンのトップブランド JUKIと共同で、昭和46年に開発したものだったのです。
縫製工程はまず衣類の各パーツを作り、それを組み立てていきますが、アタッチメントを代えて色々な縫い方に対応する家庭用ミシンと違い、工業用ミシンは各工程ごとに多様な機種が存在します。つまり、それぞれの機種ごとに組み込まれる部品が変わり、それだけさまざまな型の部品が必要になるということ。それに応えて、鈴民では約2,700アイテムもの工業用ミシンの刃物類をつくってきました。特に、衣類のボタン穴を開けるボタンホールナイフは「SUZUTAMI」ブランドとして全世界に供給され、「鈴民の赤箱」の名称で高い評価を得ています。
世界中で使われている
「SUZUTAMI」製品
創業は今年で104年、2018年に創業100年を迎えた鈴民。酒造会社や建設業では100年超えの企業を見かけるものの、メーカーで100年を超えるというのは珍しい存在です。鈴民は工業用ミシンの世界トップメーカー、JUKIが88%の株式を保有する子会社であり、JUKIは世界シェア32%、世界180カ国に販売網を持つ工業用ミシンメーカー。すなわち、鈴民も世界のトップメーカーとなるわけです。「海外ドラマを見ているとふとJUKIのミシンが映るシーンがあって、驚きとともに嬉しくなる」という社員の声も。また、工業用ミシン刃物の種類と生産量、世界一を誇る鈴民の特徴として、ブラザーやジャノメ、トヨタミシンなど、いわゆるライバルメーカーにも部品を提供していることが挙げられます。
「ミシンというと衣料品を想像してしまいますが、実は想像以上に多くのものがJUKIミシンで縫われているんですよ。バッグやシューズ、さらには車のシートやシフトレバーなどの縫製も、工業用ミシンで縫っているのです。革製品の縫いは一度針を通すと穴が残ってしまうので、修正がきかない一発勝負。正確なJUKIミシンでないと縫えないとも言われています。新幹線の『グランクラス』やトヨタのレクサス、メルセデスベンツのシート等の革張りシートの縫製にも採用されています」と、鈴民の部品が支えるJUKIミシンの性能の高さを嬉しそうに語ってくれたのは、社長の永山雅彦さん。 「鈴民はカッターを得意としていますが、カッターは単純に切れればいいというわけではなく、糸に傷がつけばアウトです。多くの高級ブランドの縫製現場ではJUKIのミシンが導入されていて、鈴民のカッターがそこで活躍していますが、糸がすぱっと切れて美しい仕上がりになることも、選んでもらっている要因のひとつではないでしょうか。ボタンホールをあける鈴民のボタンホールナイフも生産輸出量が世界一となっていて、中国をはじめ世界中のさまざまなメーカーに納めています。もともと鈴民は1918年にタバコのキセル製造からスタートしているため、鍛造工場も熱処理工場も自社内に持っています。社内工場で一貫で生産ができるので、さまざまな部品製造に対応できることが強みですね」
また、鈴民の近年の挑戦と言えば、テントなどのロープを地面に固定するペグを鍛鉄(鋳型からとるのではなく、叩いて圧力を加えながら成形した鉄)でつくっていることが挙げられます。キャンプでテントやタープを張るとなっても、固い地盤にプラスチックや鋳物のペグはなかなか刺さりにくいものです。しかし、鈴民が1本1本こだわって鍛えながらつくるペグは非常に強度が高いため、硬い地盤にもするすると打ち込めるのに抜けにくいつくりになっていて、 叩いた時の音も抜群に良いと評判です。 ペグ以外にも鍛造の製品がいくつかあり、アルミの鍛造を行うこともあるといいます。会社としてつくっている製造品目の登録は1万種類を超え、常時おおよそ2500種ほどの部品を100人ほどでつくっています。また、これほどの多品種小ロット生産の実現を支えるために、独自の生産管理システムを導入。常に途切れのない製品供給も、世界中から信頼を得ている理由なのです。 また、鈴民ではミシンの部品だけでなく、船のエンジンに使われる部品など、さまざまな領域の機械部品もつくっています。普段私たちの周りにあるようなものから大型の乗り物、世界180カ国で販売されるミシンまで、至るところで鈴民から巣立った部品たちが使われているのです。社員の技術向上と機会平等を
制度設計で後押しする社風
社員の割合は女性3割、男性7割ほどで、地元の人を中心に積極的に採用を行っている鈴民がこだわっているのが、社員それぞれの技術力向上。社内には黄綬褒章の受賞者と瑞宝単光章の受章者が1名ずつと、「高度熟練技能士」として認定された技術者が2名います。「社員100名程度の規模の会社で、褒章者を2名だしているところはなかなかないんじゃないでしょうか」と、永山社長も誇らしげです。
社員の技術力アップのため、鈴民ではオリジナルの制度として、国家認定の技能士と社内認定技能士のふたつの技能士制度を設けています。社内技能士制度にも学科と実技の試験があり、国家技能士や社内技能士に合格すると月給に手当をつけているとのこと。国家技能士に合格すると一時金で報奨金を払う会社は多くとも毎月手当をつける会社は珍しく、従業員のやりがいにもつながっています。また、近年は世界的な環境意識の高まりからeco検定(環境社会検定試験)取得も後押ししていて、すでに社員の20%が検定に合格しています。 さらに、社員の50%以上が国家技能士の資格をもつ“ものづくり技術集団”であり、新潟県の認定するハッピー・パートナー企業(新潟県男女行動参画推進企業)にも名を連ね、長く働ける職場であることを大事にしています。年齢や性別などに関係なく、きちんと技術を身につけた人がきちんと評価される会社であることは、働く人にとって大きな魅力になります。また、女性社員の活躍も目覚ましく、平成15年に黄綬褒章を受けた品質保証部の大越栄美子さんは全国最年少での受章となり、部署の部長も務めています。現在も、鈴民で作られている部品のすべては大越さんをはじめとした品質保証部の厳しい目を通らないと出荷されません。
工場は絶えず繁忙期な状態で、現場はいつもフル稼働。それでも社長の永山さんは、クオリティに妥協せず満足してもらえる製品を届けることが自分たちの使命だと言い切ります。「だからこそ従業員の教育、スキルアップに力を入れているんです」とおっしゃる姿が印象的でした。 鍛造から熱処理、加工、組み立て、検査等を高い水準で一貫で行える技術力。そして、研鑽を積んで力をつけた人がきちんと評価される企業風土。100年以上をかけてこの二つを築き上げてきた鈴民の展望について、永山社長に最後にうかがいました。「まだまだ手作業部分が多いので、ロボットアームなどを導入して量産物の単純作業はどんどん自動化していきたい。それでも、磨きやデザインに関しては熟練の技術を持った人じゃないとなかなかできません。そういった技術とクリエイティビティが必要な、人でないとできない仕事の比重をあげて、従業員の働きがい・技術力の向上に繋げていきたいですね」
確かな技術をベースに寺泊の地で品質を追求し、世界で愛される部品をつくり続ける鈴民の挑戦は、これからも続きます。
text & photo:な!ナガオカ編集部
●インフォメーション
鈴民精密工業所
所在地:〒959-0161 新潟県長岡市寺泊竹森1411
主な事業内容:刃物製品(部品)の製造、熱処理・鍛造
電話番号:0256-97-2145
Webサイト:http://www.suzutami.com/