本が「居場所をつくる」ってどういうこと? 本好きが集った「本と居場所 ほんとの居場所」イベントレポート

あらゆる情報がスマホで手軽に得られ、ドラマや映画、動画をサブスクで安価に楽しめる昨今、本をまったく手に取らない人が増える一方、本をこよなく愛し、本に携わる活動をする人も多く、二極化が進んでいるといわれています。
2025年3月2日、新潟県長岡市の照覺寺(しょうかくじ)内「ののさま文庫」を会場に、「な!ナガオカ」の主催で「本と居場所 ほんとの居場所」を開催しました。まちの文化を考える新しいイベントシリーズ「NAGAOKA CULTURE MEETING」の記念すべき第1回で、テーマは「本」。長岡市内で本に関連するスペースを運営しているお三方、竹内幸子さん(ののさま文庫)、三浦かおりさん(NEMARU ほんとぐらし)、ひろかわかよこさん(littlebooks)をゲストにお招きしたトークと、参加者それぞれが持ち寄った本について紹介し、それを売ってもよし、買ってもよしという「みんなのブックマーケット」を行いました。単なる商品ではなく、「居場所をつくるもの」としての本について、みんなで考えてみようという試みです。各地から愛書家が集い、語り合い、新たな出会いも生まれたイベントのレポートをお届けします。
お寺の本堂に開かれた私設図書館に
本を通じて居場所を営む3人が集結
長岡市の与板地域にある照覺寺。こちらは田園風景の中に佇む真宗大谷派のお寺で、日曜と月曜の朝7時からオープンする「ののさま文庫」は、誰でも利用できる私設図書館として地域の人たちに親しまれています。
“ののさま”とはご本尊の阿弥陀如来のこと。読書好きな竹内幸子さんが管理人となり、息子で住職の竹内清史さん、その妻の竹内美穂さんと3人で運営に当たっています。

ののさま文庫がオープンする日は、門や玄関の前に「ののさま文庫OPEN」という手書きの看板が置かれ、「どうぞお入りください」というウェルカムな雰囲気があふれています。

靴を脱いで階段を上がり、本堂の中へ。絵本、小説、実用書など、3000冊の蔵書があり、季節ごと、テーマごとの展示も。イベントが始まる前に、本を手に取ってパラパラとページをめくったり、自分が持ってきた本を並べ、おすすめコメントを書いたり。居心地のいい空間で、参加者は思い思いに過ごしていました。


開始時刻が近づくにつれ、子どもから大人まで30人ほどが集まり、ゆるゆるとトークがスタートしました。
本との関わり方は三者三様…
それぞれの「きっかけ」を聞く
登壇したのは、「ののさま文庫」管理人の竹内幸子さん、この場所からほど近い場所で、本と暮らす宿「NEMARU ほんとぐらし」を運営する三浦かおりさん、長岡市新町のちいさな書店「littlebooks」オーナーのひろかわかよこさん。司会は「な!ナガオカ」編集長の安東嵩史が務めました。

——過去に『な!ナガオカ』で取材をしたこともあるお三方は、それぞれの形で本を媒介に活動されています。ただ本を売る、あるいは貸すだけでなく、他者と何かを共有する場所を作っていらっしゃるお三方が何を大事にしているのか、また、そこに集まる人たちはなにを求めてやって来るのだろうか、今日はそんな話をしていきたいと思います。まずは自己紹介からお願いします。
竹内 「ののさま文庫」の管理人をしている竹内幸子です。「ののさま文庫」は2022年8月のコロナ禍の時期に始めました。お寺の行事が縮小され、人が来られなくなり、お寺と人との距離を感じていたころで、人を呼べるようにするにはどうしたらいいか、この本堂のガランとした空間がもったいない、なにかできないか……と考え、本が好きなので、ここを図書館にして、少しでも人が来るようになって交流ができたらという思いで始めました。

竹内 チラシを近隣の家にポスティングし、檀家さんにも配って「来てくださいね」と伝えましたが、最初はあんまり反応がなくて。本は敷居が高いのかなと思ったりもしましたが、Instagramを始めたところ、それを見て来たという方が少しずつ増えて、その方たちのつながりで、さらに来る方が増えました。近所のお子さんもいれば、市外からの方もいます。お寺なので、いろいろな人が来るという想定で、本好きな人はもちろん、ふらっと来てみたという人にも「これはおもしろそう」と思ってもらえるように、幅広いジャンルを置いています。
ひろかわ 私は絵本を中心に扱う書店「littlebooks」を始めて11年目です。自宅のリビングでずっとやっていたのですが、2年前の夏にいまの場所に移転しました。古い一軒家を仲間たちとリノベーションして、1階が書店、2階はイベントなどに使うフリースペースとして運営しています。そのほかに、絵本の講師として子育て支援施設や保育園で絵本の大切さを伝えたり、セラピストとしてカウンセリングをしたり、高齢者施設で造形教室をしたり。長岡市の教育委員をしていて最新の教育の動向などを学ぶので、そういったホットな話題を絵本の講座で保護者の方々に伝えています。

ひろかわ 子育て中の方、メンタルケアに興味がある方も足を運んでくださり、心のサポート関連の書籍も増えました。時代のニーズもあるかもしれません。もっと自分の気持ちを吐露してもいいんじゃないか、シェアすることで楽になれるんじゃないか。書籍を介してそんな話になることもありますし、カウンセリングに来ていただくこともあります。週の前半は講師業、後半は書店の営業で、バランスよくやっています。

三浦 「NEMARU ほんとぐらし」はもともと夫が始めた一棟貸しの古民家宿なのですが、結婚後に私が「本を魅力として打ち出した宿にしよう」と言ったことで、本を扱うようになりました。お客さんは関東の方が多いですが、新潟県内の方もお盆や年末年始に泊まって、お友だちを呼んでパーティーをするとか、そんな感じで使ってくれています。本好きの方は半分くらいという印象ですが、チェックアウト後に本棚を見てみると「大人しかいなかったのに絵本の棚がめっちゃ動いてるな」とか、お客さんの興味を間接的に感じることも。本は買って帰ることもできるので、あとから聞いて「え、これ買ってくれたの?」なんて驚くこともあります。

三浦 もともと、私は新発田市の商店街で古本屋を短期間、その後しばらく移動本屋と、本を売る活動は2012年からしていたんです。イベントなどでお客さんと話す楽しみを感じていましたが、コロナでイベント出店がなくなり、つながりもなくなったときに「NEMARU」にたまたま泊まって、そのうちいまのようになりました。活動を始めた当初といまでは、お客さんとの距離感がだいぶ変わったなと感じます。

——コロナ禍で人が集まる機会を断たれた経験がその後のアクションを変えたという人は多いと思います。いままで当たり前にあったものがなくなったことによって新しいことを始めたという部分が、竹内さんと三浦さんには共通していますね。ひろかわさんがお店を移転されたのもコロナ禍の間ではありますが、たまたまそのタイミングだったのでしょうか。
ひろかわ お店を10年やってちょうど50歳になったとき、次の10年を考えると、60歳で大きなアクションを起こすのはちょっとキツイなと思って。自分の年齢と子育てとか家族のライフバランス、そういったものすべてを考えたときに、いまだと思ったんです。
——竹内さんはお寺に人を呼びたくて、本が好きだから「ののさま文庫」を始めたとおっしゃいましたが、人が集まる居場所づくりに本のどういう点が役立つと考えたのでしょう。
竹内 本で人が呼べるかどうかはわからなかったのですが、好きじゃないと続けられないと思って。お客さんと話していて「50歳を過ぎたら好きなことやらなきゃダメよ。周りのことを気にしている時間がないよ」って言われたこともあり(笑)、人が来ればラッキー、来なかったらここを自分の図書館だと思えばいいという、それくらいの感じでした。いまとなっては、本には人をつなげる力があるなと思います。お客さんはただ本を選んで借りて帰るのではなく、ここで何気ないおしゃべりをするんですが、その時間がとても心地よくて。自分では選ばないような本を借りていかれたり、その感想を聞いたりすると、私の読書の幅が広がって、自分自身にとってもよかったなと感じています。
——先ほど三浦さんから「意外な本が動いてる」というお話もありました。他者は自分が思うようには動かないものですが、その思ってもみなかったリアクションがおもしろいんですよね。
竹内 そうなんですよ。すごくおすすめしたい本をInstagramで熱く紹介しても、反応がなくて「え?」みたいなことも(笑)。でも、その反応も楽しんでいます。

なんなら買っても読まなくていい!?
本との付き合いに正解なし
——そういった不確定性というか、思ったようにボールが返ってこないというのが、人と人のコミュニケーションそのものですよね。みなさんご自身は、本に出会ったことによって、他者への働きかけ方が変わった経験はありますか。
三浦 子どものころは自己対話的というか、「自分と本」という感じだったので、読書には孤独なイメージも持っていました。一箱古本市みたいなものに参加し始めたころから、本は人と話すきっかけになるんだということを発見して、すごく嬉しくて。町ですれ違うだけでは絶対に話さない人と、本という共通のものを通して話せる、それで世界が広がる。自分で完結するだけではなく、いろいろな人との関わりや偶然の出会いが生まれていくものだなと、本を売り始めてから感じるようになりました。
——ひろかわさんは絵本を介して他者の中に分け入る仕事をされていると思います。絵本セラピーではどういうことをしているのでしょう。
ひろかわ 複数の絵本を使ってプログラムを作り、絵本を読む中で起きる内部の感情を見つめることで自己理解が深まるというものです。絵本は字数が少なくて余白が多いので、思考や感情を手繰り寄せることができるというか、自分の中で心の動きが起きる余地が大きいんです。本というものは自己対話を促しやすいツールですし、人によってその捉え方や価値観、深め方も異なりますから、それぞれの感想を持ち寄ることで他者への理解も深まります。自分だけで完結しない世界があり、本によって動いた気持ちには正解がなく、否定もなく、誰にジャッジされることもない。これからのシェアリング文化にフィットするアイテムだと感じています。
——本や漫画は文字やコマの流れる方向があって、それを追って読むものだという暗黙のルールがありますが、絵本は本当に自由ですね。主役は1ページや見開き単位の絵なので、そのどこを見て何を思ってもいい。文字量が増えるに従ってルールに縛られていくともいえます。そこでなにが起こっているのでしょうね。
ひろかわ 大人が絵本を楽しむ会では、「大人は文字があると無意識に文字を追う習性があります。今日は私が文字を読むので、みなさんは意図的に絵に集中してください。言葉を獲得する前の子どもたちと同じ気持ちで絵本の世界に没入できますよ」と参加者に伝えます。そうすると、まったく違う経験になります。子どもたちがどれだけ豊かな感性で絵本に親しんでいるか。文字を追わずに絵を見ている時間は内面が動くので、ひとつの体験でも深さがまったく変わってきます。
三浦 逆に文字だけだとなにが変わってくるのかなと考えると、想像の余地が出てくるというか、絵がない分、自分の頭で好きな世界が見られるという点が違う気がします。大人になった特権って、文字だけを見てイメージできること。むしろ余計な情報を入れないでほしいと思うときもあって。例えば人物の挿絵が入ると、「私のイメージと全然違うんですけど」とか(笑)。文字だけの本を集中して読めない人も多くなっているとは思うのですが、その分すごくいろいろな景色を見せてくれるんじゃないかなと思います。
竹内 原作本が実写化された映画やドラマなど、私は基本的に原作を読んでから見る派なのですが、『リラの花咲くけものみち』というドラマは原作を読んでいなくて、見てから読んでみたらすごくよくて。「見てから読んでもオッケーなんだ!」という発見がありました。絵本に関しては、子どものころ、そんなに親から読んでもらったり、自分で読んだりもしなかったので、私は最初から字の多い本で、絵本は子育てで初めて触れたくらい。そのときは子どものためだったけど、いまは自分と向き合うために読むことの楽しさと大切さを絵本から教えてもらったなと感じています。

——よく「行間」と言ったりしますけど、文字に表れてない情報、ビジュアルとして載っていない情報を自分の中で膨らませたり、絵があっても、この絵の背景にはなにがあるのか、なにを表しているのかというところまで思いが至れば、また違う作業になるという気がします。そういう話を人とするのは楽しいですよね。
竹内 たとえば「本屋大賞」候補とか、話題になっている本について、同じような絶賛の感想がネットに書かれているようなとき、「私はそんなにいいと思わなかったけど……」みたいなことはなかなか書けないんですよね。そんなとき、ここに来るお客さんと「あの本読んだ? どうだった?」「うーん、私はあんまり……」「だよね!ネットでは絶賛されてるけど」などと、気軽に話せて楽しいです。本を介してのお客さんとのおしゃべりの時間は大切ですね。
——インターネットはいつのまにか、「間違ってはいけない空間」のようになっていますよね。あんまり豊かではないというか。もっといろいろな感想があるはずなのに、それを素直に出すことができない場所になっている。心理的安全性が高い場所で自由に語り合うという場面が、いまは必要な気がします。
ひろかわ 絵本セラピーなどで「もっと自分を出して、もっと楽に生きていこうよ」という話もするんです。そういう方がネットで高評価の本を買ってみて、「自分はいいと思わなかったけど、かよこさんの言葉を思い出して、思い切ってレビューにおもしろくなかったって書きました。そうしたら、いいね!がめっちゃついたんです。もっと自分を出していこうと思います」って(笑)。小さいアクションかもしれませんが、そういう窮屈さをみんなどこかで感じていて、行動することで変わることもある。本を介するとやりやすいのかもしれないですね。
——世の中のムードとか空気って、どこから来ているものなのか、よくわからないじゃないですか。誰が言ってることなのか、誰がその価値を判断するのか、なぜこのスピード感でないといけないのか、誰もわからないままになんとなく左右されてしまう。しかし、本はページをめくるという自分の身体のアクションがあって、それを読んでいる時間はいくらでも自分のペースを調整できる、完全な自分のものなんですよね。そういう行為としての体験もすごくいいなと。そもそも、本を買ったところで読んでも読まなくてもいいというレベルから、自分次第ですから。そういえば“積ん読(つんどく)”という言葉もありますね。ここにいらっしゃるみなさん、すごく積ん読が多そうな感じですが……。
竹内 私は図書館の本をいつも20冊借りている状態で、週一で行って5冊返してまた5冊借りて、入れ替えながら積んでおいてます。
三浦 積ん読の循環ですね(笑)。
竹内 買った本も積ん読になるんですが、それが景色になっちゃダメ。その時々で手入れをしないとね。植物のように日々育てるというか(笑)。
三浦 いまの自分にフィットした積ん読。すごく共感できます。本は必ずしも、ぜんぶ読むのが大事ではないと思うんですよ。積ん読のいちばん上に自分が気になっているものがあって、いま自分がなにに関心があるか、それを見ればわかるというのも大事なことで。……積ん読だけでトークできそうですね(笑)。
ひろかわ 私はちょっと違うタイプの積ん読で、いつも10冊くらい、車の中に置いて持ち歩いているんです。ちょっとカフェに行く時間があるかも、ちょっと仕事で読むかもとか、常に本を持っていないと不安で……(笑)。同時進行で読んでいる本は何冊くらいあります?

竹内 図書館の本は返さないといけないから早く読まないといけないし、多いと4、5冊。普通は3冊くらいですね。
三浦 私は読みかけの本が膨大にあって、一番読みたいものは20ページくらい読むんですが、2、3ページしか読んでない本もたくさん。頭の中がミックスされてます(笑)。
——先ほど三浦さんが「本は必ずしもぜんぶ読まなくていい」と言いましたね。そういう意識はけっこう大事で。長らく本の出版に携わっている私が言うのもなんですが、順番は著者や編集者が「これがいいはずだ」と勝手に決めたものなので、読者は別にそれに従わなくてもいい。最初のページから最後のページまでなぞって読まなければならないと思うと、途端に窮屈になりますから。目次を見て気になったところから読んでもいいし、別に内容を理解しなくてもいい。好きなように読めばいいんです。
三浦 本を読むときには不真面目さも重要ですよね。教科書的に読書しようとすると、最初から最後まで読まないと「読んだ」って言っちゃいけないように思ってしまうけど、パラッと見ただけでも「読んだ」って言ってもいいし、もっと気軽でいいんじゃないかと思います。
——敷居が高いものと思ってほしくないですね。「この1行で人生が変わりました」という人だっているかもしれない。
竹内 そう思います。「そんなにたくさん、どうやって読んでるの?」って、よく聞かれるんだけど、ぜんぶがぜんぶ真面目にじっくり読んでるわけじゃないですから。例えば最近文庫化された『百年の孤独』(ガルシア=マルケス)とか、「よくわからないけど、なんか、たぶん、こういうこと言いたいのかな」って、自分の中で納得したら終わりです(笑)。
三浦 全然ありですよ。その本とそのとき出会った自分に必要なのはここぐらいですという、時期によって自分が受け入れられる限度みたいなものがあるじゃないですか。腑に落ちるところもタイミングによって変わるし、その時々でいいんじゃないかなと思います。
ひろかわ 子育て中のお母さんに絵本の講座をするときも、「最初から最後まで真面目に読まなくていいんですよ」という話をします。途中で子どもが前のページに戻ろうとしたり、そのページに見入ったりしているのに、親は順番を追わないといけないと思って無理に先に進もうとするようなこともありますが、そうじゃなくてかまわないんです。親は最後までページをめくってしっかり読むことで「読んであげた」という気持ちになるけど、子どものほうは「この1ページだけで今日はおなかいっぱい」ということもありますから。
三浦 立場が変わるといきなり真面目になってしまうことはありますね。もうすぐ2歳のうちの子に読むときは「あと1ページだから早く読もう」と言ってしまうこともあって。自分の読書は自由なのに、ちょっと反省します(笑)。

——「理解しないといけない」と思って読むと、つまらないですよね。その時にわからなくても3年後くらいに読み返したら急に理解できるかもしれないし、理解できないままでもいい。人によって読み方はまったく違うもので、他者と話すときに読み方や接し方の交換のようなことができたら楽しいですね。ここにいるみなさんも、実はそれぞれ個性的な読み方をしているかもしれない。どなたか、「こんな読み方をしています」という人はいますか?
参加者の八木あゆみさん 私もけっこう本を読むのですが、推理小説以外は「はじめに」と「おわりに」を先に読んでしまいます。後書きや解説を読んで、ざっくり全体を把握してから読みたいんです。
ひろかわ 私も後書きを先に読みますね。それと、よくお風呂で本を読んでいて、途中で必ず落とします。ブヨブヨの本がいっぱいあって、乾かすのが大変(笑)。
参加者ののどかさん 私もお風呂で読みますが、蓋を閉めて湯気が当たらないようにして、ふやけない程度でキリのいいところでやめます。もし本がふやけたら、冷凍庫に入れるといいですよ。
——冷凍すると水分が抜けて、繊維が収縮しますからね。

ひとつのものを挟んで集う
読書会というコミュニティづくり
——みなさん、読書会をやったことはありますか? 本屋さんでイベントとして行われるだけでなく、最近はやりたい人たち数人で本を持ち寄って、喫茶店などでやったりもしていますよね。既存の場所でないところで、そういう動きが現れているのがおもしろいと思います。
三浦 ひとりで本を読むのもいい時間なんですけど、人との関わりや視野の広がりがほしいということもきっとあって。近所のお茶のみ話の媒介として本があると、もっと話しやすいと思うんです。みんな、人と話したいという欲求を満たす場がほしいんじゃないのかな。
竹内 やっぱり語りたいんですよ。感想とか、みんなはどう感じたんだろうって。私は映画はひとりで観たいタイプですが、観たあとにはやっぱり人と「どうだった?」って語りたくなる。本にもそういうところがありますね。読むのは自分だけど、みんなで語り合うのが楽しいですね。
——同じものを挟んで誰かと一緒にいるというのは、ある種セラピー的というか、精神の健やかさにつながってくるかもしれませんね。
ひろかわ 感想のシェアリングでなにが起きるかっていうと、まず自己理解。自分はこんな風に感じてるんだ、というのを言葉にする。そして、ほかの人の感想も知ることで得られる他者理解。人の視点を知ることで自分の視点も広がりますから、いままで見えなかった視点を自分の中に入れることで自分も成長できる。共感が起きることによって集合意識がより拡大していくとか。本の感想をシンプルに述べ合うだけでも、その内側では「自分のことを認めてもらった、私の意見を受け入れてもらった」という安心感があり、心の健やかさにつながるといわれています。
——本屋を開かなくても、5、6人集まれば読書会ができる。「私にもできる」ということって、とても大事だと思うんです。人はつい「プロじゃなければできない」「特別な技術がなければできない」と思って縮こまってしまいがちですよね。そうじゃなくて、自分がほしいもの、自分がいたい場所があるなら、自分でそれを始めたっていいんです。今日はZINE(自主制作の冊子)を作っている方もいらっしゃいますが、自分で本を作ることもできる時代ですから。
ひろかわ 大きなところに発信するのはなかなか勇気がいるけど、小さいコミュニティで等身大のアクションでの発信はやりやすいですよね。自分らしく発信していれば、その点と点がつながっていくようなイメージで、少しずつ広がっていくものだと思います。
三浦 完璧じゃなくても世の中に出していく、そんな雰囲気がもっと広がるといいですね。ZINEもそれぞれが秘めている趣味の世界を小さく出しているものですし、それを買って読んだ人の中で、また「私も作ってみよう」と世界が広がるかもしれません。誰もが当事者になれる、自分が売り手にもなれるし、読み手が売り手にもなれるというのが、すごくいいなと思います。
登壇者と参加者が持ち寄った
おすすめ本や自作のZINEを紹介
——今日は本をお持ちいただいた方もいると思いますが、おすすめの本はありますか。
ひろかわ 私は『50歳からはこんなふうに』を持ってきました。『暮しの手帖』編集長だった松浦弥太郎さんが書かれた本で、「行き詰まったら行動の量を増やす」「軽やかに過去を手放す」とか、これからを生きるのにワクワクさせてくれるような言葉がたくさんあって。これから50歳を迎える方も、もう過ぎた方もぜひ読んでほしいです。

ひろかわ 弥太郎さんつながりで、もう一冊。『しごとのきほん くらしのきほん100』(マガジンハウス)です。現金を稼ぐことだけが仕事じゃないし、仕事の基本ってなんだろうということが、わかりやすい言葉でシンプルに書かれています。「休むことは寝ることではない」というふうに、日本人は休むのが苦手ですが、休み方をしっかり学ぼうということも書かれていて、いつも疲れていて休むことに罪悪感がある人におすすめです。
竹内 私はこちら、『うろおぼえ一家のおかいもの』です。買い物に行っても「なにを買いに出たんだっけ?」ってわからなくなっちゃう、うろおぼえのひどい家族のお話です。実は今日とても緊張していたのですが、そういうときに読むと「こんな感じで大丈夫なんだなぁ」って思えて、とても気持ちが楽になりますよ。もう1点は去年出た木内昇さんの小説『雪夢往来』。『北越雪譜』(江戸時代後期に南魚沼の商人・鈴木牧之が記した、雪国の暮らしの諸相を伝える書物。江戸で大ベストセラーとなった)が出版されるまでの出来事が書いてあり、新潟県民なのにまったく知らなくて。県民なら読むべき一冊かなと。それと、最近お気に入りの作家、吉田篤弘さんの月舟町三部作(『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』)は没入感を得たい読書タイムにぴったり。幻想的であったかい、おすすめの本です。

三浦 私が持ってきたのは谷川俊太郎さんの『すき好きノート』。左右のどちら側から本を開いてもいい作りになっているのですが、自分の好きなものを本に書き出せるようになっていて、左から開く『すきノート』は小さい子向けの質問が書いてあるので、子供心に戻って自分はなにが好きだっけ、というのを書いていく。右から開く『好きノート』は縦書きで、またちょっと雰囲気が違う問いがあります。どこから書き始めてもいいので、日記代わりに「今日はこのページに書いてみようかな」という感じで使ってもいいと思います。
『街と山のあいだ』は雑誌『山と溪谷』の副編集長だった若菜晃子さんが書いたエッセイ。週末にあちこち出かけた話で、弥彦山にも登っているんですが、そのシーンがすごく幻想的で、ちょっと山に行って森林浴したいなという気持ちにさせてくれました。
最後は宣伝ですが、私が作った『蔵ぽん』というZINEです。本好きの友人といろいろなテーマで雑談をして、最終的にお互いに本を勧めるというのをまとめて、去年発行しました。例えば「お風呂に入るのが面倒で、こたつで2時間寝てた。そういうときどうする?」「パンの焦げ、どこまでなら食べ物として許容できる?」といったテーマを定めて雑談をするんですが、そこから本の紹介に至るのは非常に難易度が高くて(笑)。どう着地するかも見どころです。興味のある方はぜひ見てください。

——参加者の方で、紹介したい本を持ってきた方はぜひお願いします。
参加者の松元那々子さん 4年前に夫の転勤で奈良県から長岡に引っ越してきました。長岡のことを知りたいなと思って、まちを散歩して、探検しているときに、ここがおもしろいなとか、発見がたくさんあって。奈良と長岡って文化がまったく違って、そのおもしろい部分を作品にできないかと思って作りました。写真を撮ることが趣味なのですが、100項目選んで写真と説明文を載せた図鑑みたいな感じで本にしています。限定で販売もしているので、興味のある方は手に取ってみてください。

参加者の増井和之さん 加茂から来た増井です。僕は『そらいろ男爵』というフランスの絵本を紹介します。福岡の博多にあるブックカフェでたまたま見つけて、これはいいなと思い、ののさま文庫に持ってきたら、「ぜひうちでも」と竹内さんが購入されました。戦争中の物語で、飛行機乗りの兵隊がなんとかして戦争をやめさせる方法を考えるという内容です。ウクライナやガザなど、いろいろなことがありますが、早く平和が訪れてほしいということで、ぜひ読んでみてください。終わらせ方がこの本のミソなので。

——あっという間に時間となりました。この後も会場はオープンしているので、持ち寄った本を売ったり買ったり、本について語り合っていってください。本日はどうもありがとうございました。
本を通じて縁が生まれ、人がつながり
それぞれに語り合う豊かな時間
トーク終了後もたくさんの参加者がその場に残り、持ち寄ったおすすめ本について、またトークの続きの話など、畳の上で膝を突き合わせて語り合う光景があちこちで見られました。参加者のみなさんの声をご紹介します。
「私も私設図書館をつくりたいと思っていて、今日はその参考に、本好きな人とつながりたいと思って来てみました。まだ物件探しの途中ですが、読書会などもやっていきたいと思っています」
「絵本はあまり読まなかったのですが、ここで(竹内)幸子さんに勧められた『まばたき』(穂村弘著・酒井駒子絵、岩崎書店、2014年)を読んで、人生って一瞬なんだなと思ったりして。一冊の本との出会いが人生を変えることがありますね」

「紙の上で表現することがしっくりきて、ZINEを作って移動本屋で売っています。今日はほかに柴田元幸さんや岸本佐知子さんの翻訳本とか、『ののさま文庫』になさそうな本を持ってきました。県内各地のイベントに出店していて、売れるときは売れるし、売れないときはまったく。いつか実店舗を持ちたいとは思っているんですけど、なんせ家賃が……。いまはイベント出店を楽しんでいます」
「本について語っていると、昔から知り合いみたいな感じになるんです。意気投合するのがすごく早い気がします」


感銘を受けた本についての熱い話、そこから派生した雑談など、終わらない話がどこまでも続き、お開きの時間となりました。
ののさま文庫で読書会が始まるという話も聞こえてきました。関心がある方はぜひInstagramをまめにチェックしてみてください。
このイベントを通じて生まれた愛書家のネットワークが今後どのような広がりを見せるのか、新しい展開への期待が高まります。

Text: 松丸亜希子 / Photo: 池田哲郎