「ここにしかない、おもしろさ」の見つけ方とは?「視点の学校」第1回レポート
個人の発信や、ひとつの記事が拡散されて話題になり、人が動くインターネットの時代。人口減少や地域活性の方策に悩む地方にとって、webを使った情報発信は、住む人、訪れる人を増やすチャンスをもたらすものとして、今や見過ごせなくなっています。
「な!ナガオカ」も、新潟県長岡市の魅力を全国に広めることを目指しているwebメディア。その編集部が、若い世代に、地域の魅力を発見する視点と、発信力を養ってもらおうと企画したのが、webメディアの手法を学ぶワークショップ「視点の学校」です。
2017年1月と2月に開催されたこのワークショップに参加したのは、長岡造形大学の学生11名。ほとんどが県外出身の学生たちが「長岡市にしかないおもしろさ」を探すことにチャレンジ。最終ゴールは「な!ナガオカ」の記事を実際に作ってみること。学生たちはどんなことを学び、発見し、どんな記事を作ることにしたのか、レポートします。
「みつける力」を鍛えよう
第一回ワークショップのテーマは「みつける力」。自分にとっての「ふつう」は、外から見ると実は面白いものだったりします。その外からの視点を身に着けるヒントを話していただこうとゲスト講師にお招きしたのは、みんなで旅を作るソーシャル旅行サービスtrippiece代表の石田言行(いあん)さん(27歳)。
「ユーザーが旅のコンセプトをたてて、集まった仲間たちと旅をする。誰でもこの指とまれ、ということができる」という新しいサービスで、4年間で2万人を超える利用者に旅を提供した「trippiece」。このサービスが多くの若者たちに支持された背景として、石田さんは「SNS&モバイルデバイスの流通により、人の動かし方・動き方が今、変わってきていることを、意識しよう」と学生たちに語りました。
「ハワイに行こう」と場所からスタートするのではなく、「できる経験」や「かなえられる価値」からスタートして、「どこに行くか」を伝えることで、「その経験をしたい」「そこに価値を見出す」人たちを集めることができるという石田さんのお話しに学生たちは真剣に聞き入ります。
「きれいな星空が見たい」という人たちに「長野県の阿智村に行こう」というツアーがヒットしたことや、「スカイダイビングがしたい」という人たちが「(スカイダイブ藤岡のある)栃木県の藤岡町に行く」ようになったり、「第二の故郷が欲しい」という人たちが「年貢を納めて村民になろう」という秋田県南秋田郡五城目町のシェアビレッジに集まっている話なども紹介されました。埋もれていた町の宝を発見し、その「体験価値」を伝えることが「町おこし」につながっていくことも語られました。
話はもうひとつのサービス、「RETRIP」という旅行まとめサイトへと移り、記事によって多くの人が動いた事例が紹介されました。例えば「ジェラート博開催」という記事で、人があふれるほど集まったり、鹿児島県にある美しいビーチ「百合が浜」の記事で、若い層が与論島まで来るようになった……などなど。
ソーシャルメディアの普及によって、どんな絶景があるのか、どんな体験ができるかといったことが、よりわかりやすく伝えられるようになったことを踏まえ、石田さんからは、口コミ、写真・動画の重要性が語られ、また、「情報発信は誰でもできる時代、情報まとめの力が必要」という話がされました。
「視点の変え方」や「webメディアの使い方と可能性」について、さまざまなヒントにあふれた、石田さんのゲスト講義でした。
長岡の魅力を再発見してみよう
続いていよいよ実践編のワークショップ。「長岡の魅力を再発見してみよう」をテーマに、3チームに分かれた学生たちは、長岡の印象やイメージを洗い出すところから作業を開始しました。
な!ナガオカの編集者と石田さんが各チームにメンターとしてつきます。アドバイスを受けながら、自分が持っている長岡のイメージをどんどん付箋に書き出していく学生たち。さらに、それを「いいところ」「わるいところ」に分類していきます。
その中から、記事のテーマとなりそうな、特徴的なものをふたつピックアップして、「なぜそう感じるのか」を掘り下げます。
その際のテクニックとして使うのが「因数分解的思考」の仕方。例えば、「駅前に人がいない」という現象を見つけたら、まずは5W1H(何を、どこで、いつ、誰が・誰と、なぜ、どのように)の疑問をあてはめてみる。「いつ?→昼は人がいるが夜はいない」、「誰が?→若者がいない」、「なぜ?→車社会だから」と分析します。さらに、「駅前に昼は人がいるのに夜はいないのは、なぜ?」など分解を進めることで、現象を構成する要素がいくつも浮かび上がってきます。
要素が出そろったら、最後に、「どう伝えるか」、取材の切り口と仮タイトルを考えます。これまで楽しみながら、長岡の印象を書きだしてきた学生たちも、このあたりから大苦戦。自分の発見を「実際に記事として、どう伝えるか」「どうすれば興味をひくか」「どう取材すればいいか」。初めての編集作業に頭を悩ます姿もあちこちで見られました。
各チームがそれぞれの記事のテーマを発表し、ワークショップ一日目は終了しました。
編集のコツとスキルを学び、
いよいよ記事作り!
2日目は、な!ナガオカの編集チームが、アクセスの多かった記事をとりあげて、その記事がどのように作られたか、なぜアクセスが多かったか、実践的なコツとスキルを詳しく解説。その話を受けて、学生たちは、自分たちの記事をどう伝えていくかを考えます。
そして、前回選んだテーマをもとに、各自、事前取材してきた内容をすり合わせ。おもしろい、と思ったネタも、調べるとっかかりがつかめなかったり、調べたけれど取材が難しいネタだったり、思っていたよりおもしろくまとめられないかも……と頓挫したり。難航するチームもあれば、本取材に向けて、着々とアイデアをまとめるチームもあり。
さて、いったいどんな企画が出てきたかといいますと……。
発表!造形大学生による、
長岡を「再発見」するためのテーマ
「長岡のバス停ではよくおばあちゃんが話しかけてくる」という心がほっこりするような体験から、市民の足として欠かせない「バス停での雪国ならではのコミュニケーション」に注目した企画、「ナンパおばあちゃんと黄色いスコップ!? 長岡のバス停で一体何が……(仮題)」。
「長岡ってどこからどこまでなのかよくわからない」という発見から、「長岡市民は長岡のカタチをちゃんと知っている?」という切り口を見つけ出した企画、「あなたは知ってる?”ナガオカ”のカタチ、誰か教えてください!(仮題)」。
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「長岡珍名所」をピックアップしていたチームのメンバーから、「バイトをしていた某和菓子屋さんの事務室が大変インパクトある部屋で……」という大ネタがとびだした企画、「饅頭屋の奥に広がる異空間!誰も知らない、社長の『偏愛コレクション』に迫る」。
造形大の学生らしく、ギャラリーをテーマにした企画、「アートギャラリー長岡ベースが2年間築き上げて来たもの(仮題)」などの記事が実際に作られることになりました。
2回のワークショップを経て、学生たちも視点の変え方、webメディアの発信の仕方に多くの気づきがあったようです。
「石田さんの話を聞いて、自分の考え方も『何をやりたいからそこに行く』というようにしたいと思いました。自分が(大学の)課題をやるときにもあてはめられる考え方だと思いました」(2年 長谷川文佳さん)
「ワークショップでは、1個キーワードがあっても、話しているうちに方向性が変わったりすることもあるんだな、ということがわかりました。記事の読み方や見方が変わったと思います」(1年 綿引沙南さん)
学生たちの再発見した長岡の「おもしろいところ」、彼らはどんな伝え方をしてくれるのでしょうか。近日、公開です!
Text & Photos : Chiharu Kawauchi