名建築と紅葉と美味の里。秋の長岡・越路をめぐる旅

2017.10.30

いよいよ、紅葉のシーズンの到来! ドライブや小旅行にうってつけの季節を迎えて、観光スポットとしておすすめなのが、新潟県長岡市の越路地域です。歴史ある建築物、庭園、神社が点在し、秋はとりわけ見どころの多いこのエリアを、地元グルメスポット巡りも織り交ぜてご紹介。里山の魅力豊かな越路の楽しみ方を情報盛りだくさんでお届けいたします。

メイン写真: もみじ園四季のフォトコンテスト2016の最優秀賞・茂野誠一郎「巴ヶ丘山荘の秋」

 

見ごろは11月上旬~11月中旬!
その名もズバリの紅葉スポット
「もみじ園」

越路めぐり、最初にご紹介するスポットは「来迎寺」というエリア。もみじ園、朝日酒造、松籟閣という三つの観光スポットが隣接しており、越路の見どころを一気に回れてお得な気分が味わえます。長岡の市街地からは車で30分ほどですが、JR信越本線の来迎寺駅から徒歩でも10~15分ほどで着くため、ちょっとしたハイキング気分で巡ることもできますよ。

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紅葉シーズンの夜間ライトアップの様子。もみじ園四季のフォトコンテスト2016 銀賞・郷勝美「ライトアップ」

もみじ園は明治29年頃、越路・神谷の大地主である高橋九郎によって作られた別荘とその庭園です。管理人のおひとり、吉原さんに案内していただき、まずは庭園を散策。取材時はまだ緑に覆われていましたが、10月末にはモミジ、カエデが赤く色づき、巴ヶ丘山荘の静かな佇まいもあいまってそれは美しい景色になるそうです。ハイシーズンには夜間ライトアップもされて、いつもは静かなこのエリアが多くの観光客でにぎわうのだそう。新潟県を代表する紅葉の名所のひとつなのです。

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庭から見た巴ヶ丘山荘。テレビ中継の際、カメラが置かれるというポイントからの眺めです。

もみじ園の美しさのヒミツのひとつが、園内に多く植えられているイロハカエデ。本来は主に日本列島の太平洋側に野生するもみじの一種ですが、高橋家がわざわざ京都から優れた品種を移植してきたのだそうです。よく見ると、ところどころに紐が結んである木があります。「年をとった樹も多いので、造園業者さんが手入れをする木に目印をつけているんですよ」(吉原さん)。樹齢150~200年のもみじが今も多く残り、枝を広げているもみじ園。美しい景観を守るために、大切に手入れされているんですね。

「山荘から見る庭園もいいですよ」とお誘いいただき、庭の中心にある国登録有形文化財、巴ヶ丘山荘に上がらせていただきました。さくらの間、もみじの間、さつきの間、茶室など、各間の窓が切り取る景観が、それぞれ趣が違っていておもしろい!もみじ園を鑑賞するのにこの眺めを見逃してはもったいない、という発見がありました。

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山荘からの眺めも格別です。

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緑の季節も美しい「もみじ園」。

「秋の紅葉シーズンだけでなく、山桜が多く植えられていますので、桜の季節もおすすめです。また、5~6月の深みのある新緑の美しさも私は好きですね」(吉原さん)。季節ごとに変化する魅力も見逃せない庭園です。

もみじ園
[所在地]新潟県長岡市朝日600
[開園期間]4月~11月
[入園料]無料(山荘使用料は有料)
[開園時間] 9:00~21:00
[問い合わせ]長岡市越路支所 産業建設課 商工観光係 0258-92-5903

 

もみじ園の山をおりるとすぐに見えてくるのが、全国的にその名を知られる日本酒「久保田」の蔵元、朝日酒造。そして、朝日酒造の創立者が建てた和洋折衷の住宅「松籟閣」があります。朝日酒造の見学体験と松籟閣のレポートは別記事でどうぞ。もみじ園とともに、三カ所巡ってみてはいかがですか?

→銘酒が生まれる蔵と、昭和建築の粋を訪ねて――「朝日酒造」見学体験記

 

コシ、のどごし抜群!
地元で評判の手打ちそば

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天池手打ちもりそば(800円)、天ぷら盛り合わせ えび天入り(800円)

お次に、来迎寺には地元で評判の手打ちそばのお店があると聞いてやってきたのは、来迎寺駅にほど近い「天池」です。この店を営んでいるのは、小川正平さんと律さんご夫妻。正平さんは長岡市の山間部、小国地域の大貝の出身なのですが、ここはかつて春まつりにはそばをうつ、という土地柄だったそう。脱サラして蕎麦屋をやると決めた正平さん、お母様に作り方を聞いてその味を再現したのだそうです。

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特徴はつなぎにヤマゴボウを使うこと。ヤマゴボウは畑を借りて自分たちで栽培しています。「ヤマゴボウの葉の白い部分の繊維を使うのですが、本当に微々たるものしかとれない。でも、それを入れるとコシ、のどごしが違うんですよ(小川正平さん)」。「ヤマゴボウもそうだけど、天ぷらの野菜も自分の畑からとれたものを使うことが多いんです(律さん)」。そば粉も越路や小千谷など地元のもの。つるりとしていながら噛みごたえがあり、素朴な風味もしてそば好きにはたまりません! いつも笑みを絶やさず働くご夫妻の人柄もうかがえる丹念に寝られた味に、多くのファンがついているのもわかります。人気の手打ちそばは一日に用意できる数に限りがあるので、昼過ぎにはなくなることもあるそう。電話予約しておくと確実です。

天池
[所在地]新潟県長岡市浦654−1
[電話]0258-92-5330
[営業時間]11:00~14:30 / 16:00~20:30
[定休日]木曜日

 

笹の青さは新鮮さの証!
1日16本限定の
クリームロールケーキ

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朝一番に焼いたスポンジで作る「朝仕込みクリームロール」(756円)。潔いまでのシンプルさなのですが、そこが魅力。筆者と、80歳になる父が、二人とも止まらず、二切れ続けて食べてしまいました。

続いて訪れたのは、来迎寺駅前にある洋菓子店「本條屋菓子店」。こちらの一日16本限定「朝仕込みクリームロール」がお目当てです。スポンジで生クリームを巻き込んだシンプルなロールケーキですが、紅葉の里、越路らしいものをと、中にメープルゼリーがしのばせてあるのが特徴。独特なのは、青笹の葉を乗せてあるところです。この笹は何のため? 香り? 防腐効果?「鮮度のよさをお客様の目に見える形にしたくて乗せています。青笹の葉は、時間がたつと黄色っぽく変色してしまう。緑鮮やかなのは出来たての証拠なんです」とパティシエの小林正樹さん。フレッシュさにこだわったロールケーキ、ふんわりとしてクリームの口どけがよくて、あとをひく味。手土産にもおすすめの一品です。

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越路土産にこちらもおすすめ。もみじ園のサブレ(1枚100円)。

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来迎寺駅そば、山吹色の看板が目印です。

本條屋菓子店
[所在地]新潟県長岡市来迎寺甲2725−4
[電話]0258-92-2222
[営業時間]8:00~20:00
[定休日]火曜日

 

ローソクの火が
神と人との縁を結ぶ
宝徳山稲荷大社

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宝徳山稲荷大社は本宮、内宮、奥宮の三つに分かれ、春から秋は本宮、降雪時期には内宮に参拝します。

続いてご紹介するのは、来迎寺から車で10分ほどのところにある越路の「岩塚」エリア。JR信越本線の越後岩塚駅を起点に回ることもできます。この越後岩塚駅から森の中に見える朱の建物が、宝徳山稲荷大社(ほうとくさんいなりたいしゃ)。「ほうとくさん」「ローソクさん」と親しまれ、全国からあつい信仰を寄せられる神社です。初めて訪れると、その広さ、大きさに驚くのではないでしょうか。リーフレットによれば歴史は縄文の昔にさかのぼり、瓊名乃里(現在の越路原)に日の宮のみやしろ(現奥宮)を建立したと古記録にあるとのこと。祈願の神社であり、厄除け、病気平癒、五穀豊穣、商売繁盛など様々な願い事を、五色のローソクに立ててお参りするのが最大の特徴です。

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空撮写真。写真:宝徳山稲荷大社ホームページより

禰宜の鷲頭親昌さんにご案内いただき、参拝してきました。まずは受付で五色の祈願ローソク(300円)を買い求めます。そして、拝殿内にてローソクを一本ずつ立てながら祈ります。緑は身体健全、赤は商売繁盛、黄は五穀豊穣、白は家内安全、紫は心願成就と、色ごとに願い事のテーマが決められています。初めての参拝スタイルでしたが、ローソクの炎が集中力をもたらすのでしょうか、気持ちが研ぎ澄まされるようで、独特の体験でした。

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写真提供:宝徳山稲荷大社

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写真提供:宝徳山稲荷大社

この宝徳山稲荷大社で毎年11月2日の夜に執り行われるのが「神幸祭(よまつり)」です。赤いローソクに願いを書き記して祈願するという神事で一日に数万本、多い年では十五万本ものローソクが立てられるのだそう。その夜は赤いローソクの炎が何万とゆらめき、絵巻物のような世界になるとか。ぜひ目にしてみたい祭のひとつです。

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写真:宝徳山稲荷大社ホームページより

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写真:宝徳山稲荷大社ホームページより

宝徳山稲荷大社
[所在地]新潟県長岡市飯塚870
[電話]0258-92-3341
[HP]http://www.houtoku.or.jp/

岩塚エリアのみどころは、宝徳山稲荷大社だけではありません。地元で有名な米菓メーカー「岩塚製菓」の直売所は必見。大人気の直売所のレポートはこちらの記事をどうぞ。

→「せんべいアウトレット」岩塚製菓直売店。なぜお客は爆買いしてしまうのか

また、越後岩塚と隣駅の塚山のあいだには、長年越後の豪雪に耐えた頑丈な古民家から採った古材を取り扱う「井口製材所」もあります。井口製材所の訪問レポートはこちら。

→リノベーション人気で大注目! 古材のワンダーランド「井口製材所」

また、越後岩塚駅のそばには、その農産物の美味しさが評判の「清造農園」直売所もあります。この季節に買って帰りたいのは、新米コシヒカリやサツマイモ。こちらのサツマイモは焼き芋にすると最高で、長岡駅直結の「アオーレ長岡」で春から秋にかけて月に2回行われているBaku Baku Marché(ばくばくマルシェ)でも人気の商品です。

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清造農園
[所在地]新潟県長岡市飯塚2188−3
[電話]0258-92-2987
[営業時間]7~10月は9:00~18:30 / 11~ 3月は9:00~17:30
[定休日]1~3月は水曜定休、4~6月は不定期営業
[HP]http://www.seizounouen.com/

 

新潟最古の民家「長谷川邸」で
江戸時代の暮らしを
ディープに体感

21長谷川邸表門

最後にご紹介するのは、越路の塚山エリア。新潟県内で一番古い民家「長谷川邸」です。長谷川邸の庭も、紅葉の時期は美しく秋を感じるスポット。そして何より歴史を感じられるスポットとしておすすめなんです。「長谷川邸は江戸時代の庄屋の屋敷。庄屋は農民の身分ではありますが、村の長でもあるので、土地を管理する、年貢を集める、幕府や藩の役人を迎えるなど、その家は半ば役所の機能を持っていました。私邸と公邸が合体しているところが長谷川邸の見どころです」と語ってくれたのは、長岡市立科学博物館の新田康則さんです。

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長岡市立科学博物館の主査、新田康則さん。

長谷川邸には土間、板の間、畳の間があります。「まず、農民が出入りするのは土間。畳の間は使えません。一段高いところに板の間があり、その奥に畳の間。ここは武士が使うところでそれも手前は下の役人たち、奥に行くほど位の高い人が使う部屋となります。視覚的に、江戸時代の社会の壁を表現しているんですよ。長谷川邸はそれがコンパクトにまとまっているので、わかりやすいんですよね」(新田さん)

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長谷川邸には玄関が二つあり、左の大きな入口は身分の高い武士専用。右の入口は土間につながる。

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武士専用の玄関の出入り口。身分の高い人を迎えるために、頭を低く、座って戸を開け閉めしやすいように、戸の下に指をかける部分が。こんなところにも身分制度のビジュアル化が。

「土間から板の間への高さがまた重要。万が一飛び掛かられても避けられるという防御的な意味もあるのですが、見下ろす、見下ろされるという心理で、両者の身分関係をビジュアル化しているんです」(新田さん)。

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土間から板の間を仰ぎ見たところ。新田さんに見下ろされてみました。これが江戸時代の農民の視点……。たしかに超えられない身分の差を感じます!

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「奥の部屋には、本来自分のうちなのに長谷川さんだって、許しがなければ入れません。ここで偉い人の話を聞くんですね」(新田さん)

 

この地の豪農だった長谷川家ですが、江戸時代、門を構え、大きな屋敷を許されるには、領主の許可が必要でした。「為政者の与えた役割が建物に表現されているんです。長谷川邸には江戸時代の身分制度や社会の特徴が反映されています。そこに目をつけるとおもしろいですよ」(新田さん)。

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板の間に続く畳敷きの玄関の間。ちなみに、長谷川邸には越路出身の漫画家、和月伸宏さんの『るろうに剣心』の原画やキャラクターパネルも展示されている。和月伸宏さんのインタビュー記事はこちら。 →『るろうに剣心』と「伝えるこころ」について〜漫画家・和月伸宏氏インタビュー

 

長谷川邸
[所在地]新潟県長岡市塚野山773−1
[電話]0258-94-2518
[開館時間] 9時00分~16時30分
[入館料]大人420円/小人210円
[問い合わせ]長岡市越路支所 産業建設課 商工観光係 0258-92-5903

 

江戸時代の庄屋屋敷・長谷川邸、明治の大地主の別荘・もみじ園と巴ヶ丘山荘。さらに昭和初期の酒造会社創立者の住宅・松籟閣を合わせて巡れば、越路という地域に貢献した人たちの残した建造物を巡る旅として発見の多い一日になりますよ。また、宝徳山稲荷大社の夜幸祭やもみじ園のライトアップを目当てに、秋の夜長を楽しむ旅も素敵ですね。今回は秋の見どころを中心にご紹介しましたが、夏にはホタルが多く舞い飛ぶことでも知られる地域です。みなさんもぜひ、越路で季節を感じる旅をしてみませんか?

 

Text & Photos : Chiharu Kawauchi

 

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