銘酒が生まれる蔵と、昭和建築の粋を訪ねて――「朝日酒造」見学体験記
最先端の設備に驚き!
60分見学コースを体験
朝日酒造は、長岡の市街地から車で30分ほど、JR信越本線の来迎寺駅から徒歩でも10~15分ほどのところにある朝日という町にあります。朝日酒造では酒造りの流れや歴史を学べる見学コースが用意されており、瓶詰などの最終工程が見られる「20分見学コース」(予約不要)と、日本酒の製造現場に足を運ぶ「60分見学コース」(10月から4月下旬の期間限定、要予約)があります。
60分見学コースを予約し、広報の信賀祐希さんに案内していただきました。エントランスに入ると、ステンドグラスに高い天井、ギリシャの古代建築を思わせるような装飾が施された柱……酒造メーカーというよりは、まるで美術館か音楽ホールに来たかのような雰囲気に驚かされます。「エントランスホールは音響が非常によいので、毎月第三土曜日にコンサートを行っているんです」(信賀さん)。
このエントランスホールをぐるりと回りながら、日本酒づくりの基本を教えてもらうまでが20分コース。原料となる米の違い、「精米歩合」の説明、どんなお酒になるかなどを学ぶことができます。また、ホールからは製品工場が見られるようになっていて、次々送られてくる瓶に日本酒が注がれ、製品として出荷準備を整えていく様子に目を奪われます。工場見学のおもしろさを味わったあとは、酒造りの現場を訪れる60分コースならではの場所に移ります。
「朝日酒造には朝日蔵と松籟蔵というふたつの蔵があり、それぞれに杜氏がいます」(信賀さん)。60分製造工程見学コースで入れるのは松籟蔵。白衣に帽子と服装も衛生的に整え、いざ、蔵へ。酒蔵というと日本的な木造建物のイメージがありましたが、こちらは2011年に竣工してまだ6年のピカピカの建物。最新の設備を導入しているというだけあって、清潔感のある現場です。
「こちらが今仕込み中の部屋です」(信賀さん)と、もろみ製造工程にある仕込みの部屋に入れていただきました。見通しがよい広い部屋。床には蓋らしきものが並んでいるだけです。お米の発酵するいい香りがあたりに漂っていますが……お酒はいったいどこに? 実はここはタンクの上部。中をのぞくと、仕込み中のお酒の発酵具合が確認できます。この下の階には白いタンクがズラリ。それにしても、あたりがひんやりとして冷蔵庫にいるかのようです。「酒造りは微生物を相手にしているので、衛生的であることと、温度と湿度の管理が第一条件。人が使う部屋や麹室を除いては、蔵全体が冷蔵庫のようになっているんです。温度管理などの設備は最新ですが、その一方で、酒の造り方そのものは昔からの三段仕込みを続けているんです」(信賀さん)。
昔ながらの酒造りの基本工程を忠実に守りつつ、現代ならではの技術で高品質な吟醸酒を安定して造る。最先端の酒造りに触れ、驚くばかりの見学体験でした。
朝日酒造
[所在地]新潟県長岡市朝日880−1
[電話]0258-92-3181
[見学・問い合わせ受付時間]平日9:00~17:00
[HP」http://www.asahi-shuzo.co.jp/
日本酒好きなら立ち寄りたい!
試飲が楽しめる土産処
見学のあとはお酒を買って帰りたいもの。隣接する「酒楽(さら)の里 あさひ山」では、なんと朝日酒造のお酒全部が無料で試飲できるそう。車で訪れているのが口惜しいくらい……。次回来るときは駅から歩いてきます!
店長の平田さんに、この時期おすすめのお酒を教えてもらいましょう。「吟醸酒『越州 里紅葉(さともみじ)』はいかがでしょう。家飲み用にちょうどいい500mlのボトルなんです」(平田さん)。帰宅後、さっそくいただいたのですが、華やかな旨みが口中に広がって本当に美味しい。メリハリがきいて印象あざやか、まさに里山の紅葉の景色が浮かんでくるようです。秋の味わい、いただきました。
酒楽の里あさひ山
[所在地]新潟県長岡市朝日 584-3
[電話]0258-92-6070
[営業時間]10:00~19:00(12~3月17:30まで)
[定休日] 元旦のみ
[オンラインショップ] 酒楽の里あさひ山 http://www.asahiyama-shop.com/
機能とデザインの融合
細部に見惚れる松籟閣
朝日酒造にはもうひとつの見どころがあります。それは、工場のすぐ隣にある、昭和初期に朝日酒造の創立者・平澤與之助が建てた住宅「松籟閣」です。伝統的な日本家屋にステンドグラスなど洋風の装飾を取り入れた和洋折衷の建築。朝日酒造が製品倉庫を新たに建設するにあたり、予定地が松籟閣の敷地にかかってしまうことになったのですが、取り壊しはせず、東側に70m曳家されました。2003年には国の登録有形文化財に。2004年には中越地震が起き、壁が落ちたりと被害を被ったのですが、それも復元。今でも茶会をはじめとした文化活動で活用されている建物です。
案内人は朝日酒造広報課の小嶋基成さん。建物中央の茶の間はお客様を迎える場所ということもあり、名の知られた銘木や、珍しい木材を使い、贅を尽くし、凝った造りになっています。「茶の間の欄間も見てください。強度を増すために縦桟(たてざん)が入っているのですが、斜めに入っているのも強度を増す効果があります。でも一見、強度のためとは見えないですよね。機能とデザインを融合させている特徴的な欄間です」(小嶋さん)
廊下には大きなガラス窓。「今でこそサッシのような一枚ガラスは当たり前ですが、昔はガラスを大きく作ると割れてしまうため、小さく仕切って一枚に見せる工夫をしていました。このガラスは斜めから見るとゆがんでいるのでわかるように、当時のガラスそのままなんです。でも、2004年の中越地震の際も割れませんでした。それは、この耳(木枠の角の装飾)があったからと言われます。欄間の縦桟と同じく、デザインと機能が融合されているんです」(小嶋さん)
松籟閣の向かって右側は緑の屋根の洋風建築になっており、暖炉を備え、シャンデリアが下がり、窓にはステンドグラスのはめこまれた優雅な洋風の応接室があります。奥の主の書斎や寝室にもステンドグラスのはまった丸窓や寄木細工のあしらいなど、見どころがたくさん。ここではご紹介しきれないくらいです。和と洋、デザインと機能とを融合させ、技巧を凝らした建築「松籟閣」は一見の価値があり。ぜひ足を運んでみてください。
松籟閣
[所在地]新潟県長岡市朝日880−1
[問い合わせ] 朝日酒造(株) 0258-92-3181
[開館時間]10:00~15:00(冬期休館12月1日~3月末日)※予約不要ですが、貸切イベント等で閉館していることもあるため、事前に問い合わせをすると確実です。
見どころたっぷり朝日酒造探訪記、いかがでしたか? 60分コースの見学は新酒の仕込みが始まる10月からスタート、一方、松籟閣は12月から冬期休館になるので、どちらも見たいなら11月に訪れるのがおすすめです。合わせて立ち寄りたい「もみじ園」も11月前半が見ごろですよ。越路にはほかにも観光スポットがたくさんあり、組み合わせて回れば満足感一杯の一日になるはず。秋のショートトリップ、楽しんでくださいね!
もみじ園をはじめ、秋の越路観光の名所を紹介した記事はこちら。
Text & Photos : Chiharu Kawauchi