豊かな自然の中、地域の未来をつなぐ子育てを。海辺の保育所「かいじゃり」の日々

 

子どもたちが森や山など屋外で自然環境と触れ合い、主体的に遊びながらそれぞれのペースで学んでいく体験を通して、生きる力や人間性を育む野外保育「森のようちえん」の活動が全国に広がっている。2020年8月現在、「森のようちえん全国ネットワーク連盟」に登録されている団体の数は約240にも上るという。ロケーションもスタイルも実に多種多様だが、長岡市の寺泊地区にも、海辺の地域ならではのダイナミックな地の利をフル活用して近隣に暮らす人々とゆるやかにつながり、支え合いながらユニークな保育を行っている場所がある。
観光客でにぎわう魚の市場通りから南へ、日本海沿いの道を10分ほど車で走った高台に佇む「海辺のこども園かいじゃり」を訪ねた。

海が一望できる民家で過ごす
思い思いの満ち足りた時間

絶景で知られる越後七浦シーサイドライン(国道402号)。そこから少し内陸に入った山間の静かな集落、寺泊志戸橋に「かいじゃり」はある。

本拠地は築35年の民家だが、子どもたちが遊ぶフィールドは海、近隣の人たちが所有する里山、畑など広大だ。

 

天気のいい日は佐渡島も見える、この絶景を望むロケーションが自慢。夏は週1、2回、海に出かけて遊ぶという。

敷地に足を踏み入れると子どもたちのはしゃぐ声が聞こえ、「かいじゃり」を運営する太田真さんと太田真耶さんが「こんにちは!」と笑顔で迎えてくれた。

いずれも保育士のおふたり、太田真さんと妻の真耶さんは野外保育の実践者。

 

真さんは長岡市の市街地で、真耶さんは長野県で生まれ育った。真さんは保育士のキャリアの出発点をこう語る。

 

「中学時代の職業体験で自分が卒園した幼稚園に行って、保育はおもしろいなと思って。幼児教育を志して関東の大学に進学したのですが、都会の生活がまったく肌に合わず、とても辛い時間でした。進路に悩んでいたときに、ゼミの先生が『長野の森のようちえんに行ってみたらどうか』と勧めてくださったんです」

 

卒業後、長野県安曇野市の「野外保育 森の子」で「こんなスタイルの保育があるのか!」と驚き、大いに心を動かされた真さん。「これだったら一生の仕事にできる」と確信し、のめり込んでいったという。7年間「森の子」でキャリアを積む中、同市にある里山生活を日常とする保育施設「響育の山里 くじら雲」に勤務していた真耶さんと出会った。

ふたりは結婚して2015年に長岡市に居を移すことに。自然豊かな寺泊を拠点に自分たちの野外保育をやってみようと海岸沿いを中心に物件を探し、この家を見つけた。

名称には「個々の色・形・大きさを、しっかり認められながら、“海のじゃりっ子”としてたくましく育ってほしい」という想いが込められている。

日本海が一望できる居間はまるで海の家。「クーラーなしでも風が通って涼しいんですよ」と真耶さん。元は大工だったオーナー自作の別荘だとか。

 

長岡市内の「森のようちえん ふたばっこ」や隣町の出雲崎保育園(現 出雲崎こども園)で働く傍ら、野外保育活動をスタート。2016年、まずは親子を対象とした週末の自然体験教室「楽童(がくどう)かいじゃり」を開き、2019年9月には認可外保育施設「海辺のこども園かいじゃり」として未就学児の保育も開始した。今年度は月曜から金曜まで10人の子どもたちがここで共に過ごしている。

*真さんが3年間にわたり野外保育に携わった「森のようちえん ふたばっこ」については、こちらの記事も参照を。

雑木林が丸ごと幼稚園に!? 自然派ママ注目の「森のようちえん ふたばっこ」
https://na-nagaoka.jp/nagaoka/2672

広い空間にみんなが共存できる造りになった昔ながらの民家で、一心に絵を描いたり、絵本を読んだり、外ではチャボとたわむれたり、虫を捕まえたり……。子どもたちはのんびりくつろぎながら、自由気ままに好きなことをして過ごす。
この日の午前中はみんなで海に出かけたが、昼食とおやつの時間が決まっているくらいで、それ以外の過ごし方は子どもたちに任されている。決めるのは保育士ではなく子どもたち。「かいじゃり」ではいつも子どもが主役だ。

「好きなことや興味があることをやり続けて、できなかったことができるようになって、友だちに『すごいね!』って褒められたり、うれしさに共感してもらったり。自分の遊びを見つけると生き生きして、その子の自信につながります。思い悩み、考えて、自分で決める過程も大切です」(真さん)

子ども部屋には絵本がぎっしり詰まった本棚があり、座ったり寝そべったりしながら、いつでも好きな本が読める。

通常の保育所にあるような遊具や玩具はないけれど、子どもたちは自ら発見し、なんでも遊び道具に変えていく。

 

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