家庭ごとの個性がにじみでる
郷土料理「煮菜」を介したコミュニケーション

郷土料理・煮菜。大豆を潰して乾燥させた「打ち豆」を入れると味に深みが出る。

“多世代交流”を進める「になニーナ」の名物企画といえば、毎年2月7日に開催する「煮菜の日」。「になニーナ」開設時から14年間欠かさず行ってきたイベントで、地元のお母さんたちに煮菜の作り方を実演してもらい、集まった人たちで試食を行うという内容です。

 

「新潟県中越エリアの郷土料理・煮菜は、お店で提供されることは珍しい、家庭ならではの素朴な料理です。おもしろいことに、家庭ごとに工夫があり個性がでるんですよ」と馬場さん。その作り方を詳しく教えてもらいました。

「まず用意するのが、“漬け菜”です。材料には、体菜、味美菜、野沢菜、大根菜、長岡菜などが使われ、それぞれ味わいや色味が異なります。最近では、きれいな緑色に仕上がる味美菜が人気ですね。これを約1か月以上塩漬けにして、乳酸発酵させます。この漬け菜は、12月~3月頃、新潟県中越エリアの直売所やスーパーで手に入れることもできますよ」

「続いて、漬け菜の塩抜きをします。丸のまま、もしくはカットした漬け菜を鍋に入れてたっぷりの水を加え、沸騰するまで火をかけたら、一晩おいて塩気を抜いていく工程です。塩気が残りすぎていると塩辛いし、逆に抜けすぎているとぼんやりして味気ない。絶妙な塩抜き加減が、煮菜の味わいを決めます」

「次に、塩抜きした漬け菜を油で炒めて、その他の食材を加え、味付けをしてだし汁で煮ます。漬け菜以外に入れる食材は、人参、打ち豆、油揚げ、練り製品、キノコ、車麩など何でもOK。味付けは、みそ、醤油、酒粕、砂糖など。漬け菜の塩気を活かして味付けの調味料は入れないという作り方もあります。このだし汁もまたバラエティ豊かで、昆布カツオだし、煮干しだし、干し貝柱だしなど、各家庭で個性があるんですよ」

になニーナが手がけた「山のお母さんの料理帖」。煮菜についても詳しく紹介されています。

「ちなみに、わが家の定番は煮干しだしに打ち豆、油揚げ、酒粕です。油で炒めずあっさりと仕立てるので山盛り食べます!」と馬場さん。子供向けにシーチキンを入れることもあるのだとか。漬け菜独特の香りが炒めて煮ることでまろやかな旨みに変化し、体になじむやさしい味わいになるのだから、不思議です。

 

「になニーナ」発足当時に初開催した「煮菜の日」は、参加者が“わが家の煮菜”を持ち寄り、それぞれを味見して、違いを楽しむという内容でした。馬場さんはそこで、今までこれが当たり前だと思っていた“わが家の煮菜”が、家庭ごとに全く違うことのおもしろさに気付いたそうです。

煮菜を実演する地域のお母さん。参加者の子育て世代ママは興味津々。

「煮菜の日」で作った5種類の煮菜。それぞれ個性的で味わい深いです。

その後は地域のお母さんを講師に招いての実演会&試食会という形に落ち着きましたが、ここでも発見の連続だったのだとか。だし汁をつゆだくにしたり、逆に汁気がほぼなかったり。副材料を加えず、煮菜とだし汁のみというごくシンプルな作り方もありました。馬場さんは「みんな違って、みんないいんですよね」と話します。

 

実は今、家庭で煮菜を作る人は少なくなっています。漬け菜の消費量は年々下がり、若い世代が煮菜を食べる機会はほぼないのが現状です。「煮菜の日」でいただく煮菜は、市内出身の若い世代はもちろん、別の地域から長岡に移住してきたママやパパたちにとっても新鮮で、子供たちが喜んでパクパク食べる姿も多く見られるのだとか。作り手側も「素朴な料理が、こんなに喜んでもらえるなんて!」と感動があるそう。孤独を感じやすい子育て世代にとって、煮菜を食べながらの交流はリラックスできる貴重なひとときです。美味しいものを食べておしゃべりが弾むことで親同士のコミュニティも生まれ、この場は子育てセーフティネットの役割も果たしています。

 

2021年の「煮菜の日」は
Youtubeの動画配信で開催!

「になニーナ」開設以来、毎年2月7日に開催してきた「煮菜の日」。例年、地域のお母さんを講師に招いた実演と試食を行っていましたが、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため断念することに。その代わり、初の試みとしてYoutubeの動画配信で「煮菜の作り方」を公開します。その内容は、川口地域に住むお母さんの自宅を「になニーナ」スタッフが訪ね、みそ味の煮菜の作り方を教わるというもの。ぜひ2月7日公開の動画でチェックしてみてください。

※「になニーナ」Youtubeチャンネルへのリンクはこちらから。

 

ちなみに、昨年の「煮菜の日」の様子は、以下の記事で詳しくレポートしています。

煮菜(にな)の日レポート

本来「煮菜の日」は世代を超えて交流を楽しむ場ですが、今はできることをできる形で続けると決意した馬場さんたち。多世代交流の魅力を世界に発信したいと、今後もYoutubeでの動画配信にチャレンジしていくそうです。様々な価値観とふれあうことは、共存して生きていくために不可欠なこと。多世代交流やコミュニティづくりを通じて「誰も孤独じゃないまち」を作るべく、これからも「になニーナ」の挑戦は続きます。

Text:渡辺まりこ

 

多世代交流館になニーナ

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