戻って来たい、住みたい地域へ
波音が夢見る寺泊の未来

イベント終了後、木村さんとメンバーは集めたゴミをカヌーに積んでせっせと陸に運び、片付けに追われた。プラスチックゴミなど、軽トラック1台に満載の量になったそうだ。

「ゴミ集めは今年初ですが、5月以降、海で遊ぶようなイベントを月2、3回くらいのペースでやっています。感染予防のため参加人数は通常より少なめに設定していて、今回も定員の倍くらいの申し込みがあったんですよ」(木村さん)

「ここは元は海だったのですが、プラスチックゴミが多くて驚きました」

波音は、長岡市の寺泊地域委員会から「もっと若い人たちの意見がほしい」と言われて木村さんが参加したことがきっかけとなり、地域の若者の意見を発信するために発足した。木村さんが周辺の人たちに声をかけ、人と人のつながりが生まれ、次第にメンバーが集まっていったという。「現在20人ほどいますが、自分からやりたいと言って加わってくれた人がほとんどですね」と木村さん。

様々な組織や人と連携し、お互いにサポートし合うことが波音の活動の力となっている。例えば、長岡技術科学大学とのコラボレーションでは、ゴミ拾いを技術的に科学的に、もっと楽しくやれるように研究している教員や学生たちと実験的なクリーン活動を展開。浜辺の砂鉄を使って花火を作ったり、海水で塩を作ったりしたことも。また、長岡市国際交流協会が主催し、地元のスーパーマーケットが協賛する「原信Presents 輝け!高校生プログラム~Youが明日のグローカリスト~」は、世界の課題や自分たちにできることを参加者自らが地球規模で考え、足元から行動することを目指す全5回の講座で、波音は寺泊で開催された回に協力。プログラム卒業生が立ち上げた市民活動団体「WA!!」のメンバーと共に、ゴミ拾いやサンドアートなどを通じて留学生を含む市内の高校生が身近なSDGsを体験するサポートを担った。さらに、寺泊小学校では高学年の児童に向けて波音の日々の活動について伝える講演を定期的に行っている。

「原信Presents 輝け!高校生プログラム」で生徒たちが砂浜に描いたサンドアート。写真提供:てらどまり若者会議〜波音〜(撮影:能登義仁、古川原渉ほか)

 

住民減少で存続の危機にある地域での新潟の伝統行事「塞の神」の運営にも協力。写真提供:てらどまり若者会議〜波音〜(撮影:能登義仁、古川原渉ほか)

「いま世界中で取り組んでいるSDGsですが、『海の豊かさを守ろう』の外国での活動事例も知りたいので、長岡市の姉妹都市ホノルルともつながりを持ちたいですね。寺泊は小さな地域で人も少ないので、ここだけで活動していると行き詰まってしまって。外に出ていろいろな人たちと連携することで、たくさんのアイデアや解決策が生まれます」

寺泊で生まれ育ち、大学と就職で10年ほど地元を離れていた木村さんだが、いつか戻って来たいと考えていたという。「ここには海も山もあり、豊かな地域資源があります。私たちが自ら楽しんで魅力を発信することで、子どもたちにも寺泊を好きになってもらえたら。海はハードルが高く見えるかもしれませんが、意外と気軽に親子で体験できるので、ぜひ遊びに来てほしいです。私たちは安全に気を配りつつ、遊び方を紹介するだけ。今日もわりとみなさんを放置気味でしたが(笑)、それぞれ学んで見つけてくださいます。いろんなことは自然が教えてくれますから」

エネルギッシュに寺泊を牽引するリーダー、木村さんは看護師で3歳児の父でもある。夜勤入りと明けに波音の仕事をこなしていると聞いて驚愕。

「海辺の活動は夏が本番ですが、10月には総まとめのお祭りを、また秋冬のお楽しみとしてテントサウナを体験するイベントを考えています。ほかにも空き家の利活用をする団体のサポート、宿泊業のパイプ役、キャンピングカーで車中泊できるRVパークの計画とか、あちこちからお声が掛かり、やることが増え過ぎているので整理しないと」と木村さんは笑う。

「波音の活動をしていく中で、私の元に県内外からいろいろな相談が寄せられるようになっていて。今日カヌーの先生をやってくれた山形の堀江さんたちもそうですが、おふたりは寺泊への想いをお持ちで、地域経済循環を考慮されていたので波音としてぜひ協力したいと思いました。寺泊の宿泊施設を利用する方や観光に来た方々に提供する、地域体験プログラムの開発を一緒に進めていく予定です。実は私の家の離れもその事業の一部となり、民泊として開業する計画になっているのですが、狙いはこの地域の宿泊形態の多様化です」(木村さん)

寺泊での事業展開を考えていた堀江さんたちは地元のキーパーソン探しに奔走、インターネットで波音と木村さんに辿り着き、アプローチしたという。堀江龍弘さんが代表を務める株式会社ホリエがプロデュースし、寺泊に近日オープン予定の宿泊施設はこちら。

VILLA VOIX(ヴィラヴォワ)蒼ノ庵 ─あおのいおり─
https://villavoix.com/teradomari/

オフシーズンは浜辺でテントサウナを。アウトドアの経験豊富なメンバーが秋冬にも楽しい企画を考え中。写真提供:てらどまり若者会議〜波音〜(撮影:能登義仁、古川原渉ほか)

「寺泊にこれまでなかった人的交流が生まれ、多様性と持続性のある地域として発展していってほしいですね。そして、波音の中で新しい世代や新しい団体が生まれて、地域の中で活躍してくれたらと願っています」(木村さん)

テレワークの普及やライフスタイルの変化が契機となり、故郷へUターンする人、思い切って見知らぬ土地へ移住する人、都市と地方の二拠点生活を始める人など、新しい視点で新天地を探し求める人が増えている。もし海が好きでダイナミックな自然の近くで暮らしてみたいと考えているなら、寺泊を候補に入れてみては。バイタリティのある若い世代がきっと歓迎してくれるはずだ。

寺泊にさらなる活気と賑わいを!自ら楽しむことで、地域の魅力を広く発信する波音メンバーと支援者・協力者のみなさん。たまたま男性ばかりだが、女性も活躍している。寺泊を愛するメンバーを随時募集中。

 

Text: 松丸亜希子 / Photo: 池戸煕邦

●インフォメーション
てらどまり若者会議〜波音(はね)〜
https://www.facebook.com/てらどまり若者会議波音-176982142957405

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