コーヒーを通じて若者に夢を! GOOD LUCK COFFEEが目指す理想のカフェの姿

2017.3.11

長岡駅から車で約5分、信濃川に架かる長生橋にほど近い新潟県長岡市山田。住宅や店が立ち並び、通勤通学する/人々でにぎわう通りを進むと、真っ白な外観が目を引く一軒のコーヒースタンドが現れる。店の名は「GOOD LUCK COFFEE(グッドラックコーヒー)」。訪れる人は若者だけでなく、小さな子供を連れたママ、仕事帰りのサラリーマン、ご近所のおじいちゃんなど実に様々。地域の人がふらりと訪れては一杯のコーヒーを飲み、そこに居合わせた者同士で自然と会話が始まる。誰でもウェルカムな居心地のよい空気がここには流れている。

入口付近では植物たちがいきいきと葉を伸ばす。お隣は花屋さん。

入口付近では植物たちがいきいきと葉を伸ばす。お隣は花屋さん。

店主の青柳拓郎さんは実は前職が庭師という異色の経歴の持ち主。今でこそ「カフェの仕事は天職」と語るが、本当にやりたかった仕事へたどり着くまでの道のりは決して平坦ではなかったようだ。

それでも夢をもち続け、それを叶えるまでの日々とは?お店自慢のブレンドコーヒーをいただきながら、お話を伺った。

グッドラックラテ(L)470円は深み酸味のバランスがよい一杯。店のオリジナルカップでいただける。

グッドラックラテ(L)470円は深みと酸味のバランスがよい一杯。店のオリジナルカップでいただける。

 

スターバックスで受けた衝撃
回り道を経て「天職」へ

意外なことに学生時代の青柳さんの夢は「プロミュージシャン」だった。当時から人気だった「Mr.Children」に憧れを抱き、音楽専門学校に入学。さっそく仲間と共にバンドを組んでボーカルを担当し、「ミスチルと同じ事務所に所属してメジャーデビューする」と具体的な目標を掲げた。

夢に向かって音楽に打ち込む日々……。しかし、なかなか手ごたえがつかめず限界すら感じていた。そんなとき、専門学校の研修先として訪れたロンドンのスターバックスで鮮烈な衝撃を受けることとなる。

「カフェという空間に触れたのはこれが初めてでした。日本の喫茶店は暗くてひっそりとしたイメージだったけど、ここは明るくて開放的でめちゃくちゃカッコいい!誰にでもフレンドリーに話しかける気さくな雰囲気もまた良くて、一気にカフェの虜になっちゃいました」

それからまもなく、青柳さんは自身の目標を「カフェ開業」と定めると、あとは実現に向かって行動するのみ。専門学校卒業後は念願のカフェに就職し、接客や経営について学んだ。数年後には自身の店を持とうと夢が膨らむ中、唐突にその道は絶たれる。父親が急遽し、実家の造園業を継がなければならなくなったのだ。

goodluck_04

「若干21歳で取締役になりました。自分が造園を継ぐとは思っていませんでしたが、右も左も分からないまま仕事をこなす中で亡き親父の偉大さに気付き、背筋がしゃんと正されましたね。それで僕もこのフィールドできちんとした知識とスキルを身に付けようと思ったんです」

こうして、造園を生業とする覚悟を決めた青柳さん。だが、彼の「カフェ開業」の熱意は冷めていなかった。ようやく仕事も慣れてきた26歳の頃、造園とカフェの両立を図り始める。なんと2年間造園業を営みながら、長岡市内のカフェで働くことにしたのだ。

修業時代はいつでも「未来の自分のカフェ」をイメージしながら働いた。考え抜いた末に描いた店の設計図は、寸法から色合いまで驚くほど明確。

修業時代はいつでも「未来の自分のカフェ」をイメージしながら働いた。考え抜いた末に描いた店の設計図は、寸法から色合いまで驚くほど明確。

青柳さんはいつでも「有言実行」の人で、目標を決めたらそこへ向かってとことんやり抜く。2年間のカフェ経験を経たあとは、稼業の傍らカフェ開業を見据えて起業準備を始めた。東京中のカフェを巡り、メニュー、内装や外観、動きやすい導線などを研究。いいなと思う場所は写真やスケッチで記録し、自身の店のイメージを固めていった。

そして造園業に携わって10年後、本格的に自分の道を進む決意を固める。「最高の状態で終えたい」との想いから、最後には青柳さんの父も成しえなかった1級造園技能士の資格も取得。カフェへの情熱を燃やしながらも、稼業は決して疎かにしなかった。

いよいよ開業に向けて動き出すと、やるべきことは山のようにあった。資金調達、物件探し、設備機器の調達……。なかでも苦戦したのは物件探し。当初は生まれ育った信濃川西側の長岡造形大学に近いエリアを狙っていたが、なかなか思うような物件が出てこない。エリアを少し広げてみようかと考え始めたとき、昔は割烹だったという好物件と出会った。信濃川の東側にあるが、青柳さんは直感でピンときたという。

「この物件を紹介してくれたのは、長岡市内の建具屋さん。理想としていた木製カウンターを作ってくれた方でもあります。こんな調子で、あきらめずに行動していると、幸運な出会いの数々で良い方向へと進めました」

味と鮮度にこだわり、コーヒー豆は信頼している焙煎所のものを使用することに。

味と鮮度にこだわり、コーヒー豆は信頼している焙煎所のものを使用することに。Photo:nanairo*

物件が決まると内装工事がスタート。同時進行で設備機器の調達やメニュー決めをし、店の心臓部としてイタリア製のエスプレッソマシンも購入した。ひたすら調べ動き回る事で仕入れルートも確保でき、次第に長年の夢が形になっていく……。そして2014年3月、ついに青柳さんのこだわりが詰まったコーヒースタンドが誕生した。

 

地方でも好きな仕事はできる!
みんなの背中を押す場所でありたい

青柳さんが長年じっくりと計画を立てただけに、店のあちこちにこだわりが散りばめられている。

真っ白な壁にきりりと映えるイスや窓枠の黒。そこにグリーンをさりげなく配置し、赤色をアクセントに。

真っ白な壁にきりりと映えるイスや窓枠の黒。そこにグリーンをさりげなく配置し、赤色をアクセントに。

遊び心のあるインテリアがあちこちに。キュートすぎない男性的センスが光る。

遊び心のあるインテリアがあちこちに。キュートすぎない男性的センスが光る。

ママにだってコーヒーを楽しんでほしいから子連れもウェルカム!

ママにだってコーヒーを楽しんでほしいから子連れもウェルカム!

意識したのは「会話が生まれやすい空間」。大きなテーブル(通称コミュニティテーブル)を設けたことで初対面同士でも「おとなりいいですか?」のちょっとした会話が生まれ、入口近くに置かれたスタンドテーブルは来店客や店主に話しかけやすく、会話を楽しみたい人々でにぎわう。

日本中を旅してきたという20代の女性が来店。青柳店主とカフェ談義に花が咲く。

日本中を旅してきたという20代の女性が来店。青柳店主とカフェ談義に花が咲く。

「僕は幸運にも周りに支えられて夢を叶えられました。だから次は自分が恩返しする番だと思っています。地方でもコーヒースタンドを生業に暮らしていけることが証明できれば、この地に根付いて何かをしたいという若い方の希望になれるのではないかと。だから、僕の経験値を伝えることはできますし、面白い出会いや発見がここでおきたら嬉しいですね。そういう応援の気持ちを込めて店名に『GOOD LUCK』と名付けたんです」

ドアには「情熱を抽出した、あなたを勇気付けるコーヒー」のメッセージが。店のメインコンセプトだ。

ドアには「情熱を込めて抽出します。あなたを勇気付けるコーヒーを」のメッセージが。店のメインコンセプトだ。

常に人生に目標を持ち、仕事もプライベートも逆算して今何をすべきかを考え、行動し続けてきた青柳さん。造園の仕事を経て、経験値と共に人生の深みが増したからこそ、今ここに、彼にしか作れなかった場所が存在している。そんな青柳さんから何かヒントを得ようと、夢を模索する若者の来店は後を絶たないという。

そんな時どんなアドバイスをするのですか?と尋ねると「本気で叶えたいと決めたら、言葉にして信じて行動すること」という応えが返ってきた。自分の人生だからこそ本気で取り組む、そして叶わないときにも言い訳せずに前に進み続ける。事実、これは彼が愚直に行い続けてきたことだ。

長岡市の人気パン屋「ブレッドアース」のドーナツ。ケーキは「パティスリーカフェVIGO」のもの。

長岡市の人気パン屋「ブレッドアース」のドーナツ。ケーキは「パティスリーカフェ VIGO」のもの。

店内の一角に置かれたアルビレックスグッズ。「アルビレックス座談会」も不定期に開催している。

店内の一角に置かれたアルビレックスグッズ。「アルビレックス座談会」も不定期に開催している。

そしてもう一つ「できること、できないこと、しないことを明確にする」という考えも大事だと教えてくれた。実際、グッドラックコーヒーでは料理やデザートを作らない。それはコーヒーと接客に専念したいという想いもあるし、地元の大好きな職人さんに作ってもらった方が美味しいという判断から。それでも「コーヒーによく合い、片手で食べられて、このお店でしか食べられないもの」というコンセプトは決して曲げない。

また、「できること」――自分の得意なことや経験してきたことをどうやって日々の仕事に生かすかを考えることも大事だ。造園業の経験も十分特殊だが、意外なことに青柳さんは17年間社会人サッカーチーム「長岡FC」でプレーしてきた経験を持ち、アルビレックス新潟の大ファンという一面も持つ。サッカーへの恩返しをするために何かできないかと考えた末、チームが勝利した翌日はコーヒーのサイズアップ無料(期間限定)というお得なサービスを始めた。サッカーを身近に感じてもらうためにオリジナルサッカーボールの製作も企画中なのだとか。「夢はビッグスワン(アルビレックス新潟のホームスタジアム)でコーヒーをサーブすること!」と宣言する。きっとその夢も数年後には叶えてしまうに違いない。

店のオリジナルグッズは続々と増えている。縁でつながった長岡市在住作家の小物も販売するようになった。

店のオリジナルグッズは続々と増えている。縁でつながった長岡市在住作家の小物も販売するようになった。

「実際に店を始めてみたら予想外なこともたくさんありました。若い世代だけでなく、様々な年代の人が訪れてくれるようになったのは嬉しい誤算でしたね。お客さんの要望は日々変わっていきますし、店も変化が求められています。これからも芯をぶらさずフレキシブルに進化していくつもりです」

 

県内初のコーヒーフェスティバルが3/26(日)開催!

goodluck_13

「夢を叶えたその先は未知数。どんどんやりたいことが増えています」と楽しそうに語る青柳さん。店だけにとどまらず、コーヒーの魅力をもっと多くの人に伝えたいと企画した一大イベント「NIIGATA COFFEE FESTIVAL」が2017年3月26日(日)にいよいよ開催される。県内外のコーヒーショップが10店舗集まり、個性豊かなコーヒーを提供。新潟からはなかなか行く機会のない東京の有名店も多数出店し、会場を盛り上げる。コーヒー好きにはたまらない特別な一日となりそうだ。

goodluck_14

出店者のうち5割が県外。渋谷「THE LOCAL」、神保町「GLITCH CAFFEE」、国分寺「Life Size Cribe」などの人気店も。写真提供:GOOD LUCK COFFEE

goodluck_15

開催のきっかけとなったのは2015年秋の東京でのコーヒー屋巡りだった。新潟市で「THE COFFEE TABLE」を営む本間さんと各所を巡っている道中、ふとした会話から二人のテンションはMAXに……。

「新潟でコーヒーフェスやろうよ!」「いいね!」

こんなノリから開催はあっさりと決まった。

新潟市のカフェ「THE COFFEE TABLE」本間さんとの2ショット。コーヒー仲間として交流が深い。

新潟市のカフェ「THE COFFEE TABLE」本間さんとの2ショット。コーヒー仲間として交流が深い。Photo:nanairo*

会場を盛り上げるのは、コーヒーショップだけはでない。青柳さんが出会ってきた人たちとの縁で、看板やゲート製作、植物を配置した空間デザインを作り上げる。

インテリアショップ「SEQUEL design」は看板用の黒板にチョークアートを施す。

インテリアショップ「SEQUEL design」が製作した黒板に、イラストレーター「me-ya」がチョークアートを施す。写真提供:GOOD LUCK COFFEE

会場入り口を「緑のゲート」で彩りを添える「マウンテンリバーgreen works」。

会場入り口を「緑のゲート」で彩りを添えるのは、造園会社の「マウンテンリバー green works」。写真提供:GOOD LUCK COFFEE

「世界各国でコーヒーは飲まれているけれど、その愛され方は国によってまったく違います。だから『日本独自のコーヒー文化』が根付いてほしい。日常にはコーヒーがあり、生活にごく自然になじんでいるという具合にね。一杯のコーヒーが、みんなの日々の活力になってくれると嬉しいです」

ペーパーフィルターに書かれたお客さんからの温かなメッセージ。イベント当日はこれらをガーランドとして飾る予定だ。

ペーパーフィルターに書かれたお客さんからの温かなメッセージ。イベント当日はこれらをガーランドとして飾る予定だ。

青柳さんがここまでコーヒーにこだわるのはなぜか? それは「人が好き、地域が好き」という想いが根源にあるからだという。落ち込んだ時にほっとできたり、誰かと会話できたり、ときには人と人とが出会う化学反応で新しいアイディアが生まれたり……。コーヒーがある空間には、訪れる人の人生をほんの少しハッピーにする力が宿っている。それを提供できる仕事は「この上なくエキサイティング」と青柳さんは微笑む。

青柳さんをはじめ、各店主たちの情熱が詰まった「NIIGATA COFFEE FESTIVAL」。ふだんカフェに行かないという方にこそ、まずは会場の雰囲気を感じてみてほしい。最高の一杯に出会えれば、きっとコーヒーの虜になってしまうはずだ。

 

Text & Photos : Mariko Watanabe

GOOD LUCK COFFEE(グッドラックコーヒー)
※店舗は2018年にすずらん通りへ移転しました。
[住所]   長岡市東坂之上町2-6-8遊和ビル1F
[電話番号] 0258-84-7829
[営業時間]9:00~17:00
[駐車場] なし
[定休日] 月曜
[facebook] https://www.facebook.com/glc.nagaoka

 

NIIGATA COFFEE FESTIVAL
[日時]2017年3月26日(日)10:00~18:00
[会場]シティホールプラザ「アオーレ長岡」ホワイエ(長岡市大手通1丁目4−10)
[facebook]https://www.facebook.com/events/593981367457532/

 

関連する記事