漁師さんに密着取材!風味豊かな珍味「かじか酒」ができるまで

2017.4.20

「かじか」という魚をご存知でしょうか。日本各地の清流で見られる、小型の淡水魚です。

塩焼きにするととても香ばしく、魚類図鑑や辞書には「美味」の字が踊る、食用の川魚でもあります。ほかにも唐揚げなど、どんな食べ方でも美味しくいただけます。

なかでも、かじかの焼き干しを、熱く燗をした酒に浸してつくる「かじか酒」は、珍味として全国各地で親しまれています。

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「かじか酒」

かじかを串に刺し、焼き上げ、コップに入れて超熱燗の日本酒を注ぎ、しばらく待つと完成。凝縮されたかじかの旨味がとけ込んだ、独特の風味を味わうことのできるお酒です。

以前、新潟県長岡市の中山間部に位置する川口地域で「狩猟・冬の暮らしツアー」を取材した際、漁師さんたちが参加者に振舞ってくれたのが、このかじか酒。そのビジュアルも相まって、参加者に大好評でした。

その際に聞いたのは、「川口の漁師さんは、ものすごく力を入れてこのかじか串を仕込んでいる」ということ。

これは気になります。ということで、今回は「かじか酒」がどのように作られるのか、その過程を追うため、漁から焼き干しにいたるまで同行させていただきました。

 

真冬の川でかじかと追いかけっこ

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今回同行させてもらったのは、中林道男さん、阿部知重(さとえ)さんのおふたり。ともに漁師歴50年以上という大ベテラン!

前出の「狩猟・冬の暮らしツアー」でかじか酒を振る舞ってくれた漁師さんたちです。

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(左)中林道男さん (右)阿部知重さん。 ともにこの道50年以上の達人。

ふたりがこの日の漁場に定めたのは、信濃川の支流「魚野川」の上流域。

河川はふつう、上流ほど水の流れが速くなりますが、そのかわり水量は少なく、入ることができます。これを利用して、直接川に入る漁法をとります。

かじかは水温の低い場所を好む習性があり、水が綺麗で低水温の場所が多い上流域に多く生息しているため、なるべく川の上(かみ)で漁を行うことが多いのだとか。

中でも、ゴツゴツした岩場が狙い目のポイント。川底の石の下に潜り込む習性があるからです。

漁の方法は実にシンプル。川の中に入り、足やスコップを使い石をひっくり返し、出てきたかじかを網の中に誘い入れるという方法をとります。

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前日は生憎の雨。そのため川は増水し、流れは普段よりも急です。少しでもバランスを崩したらひっくり返ってしまうような激しい流れです。

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漁師さんたちはスイスイ進むが、流れはとても急である。

そんな中、漁師さんたちはスイスイと川の中を進み、「ほれ、居たった(居たぞ)!」と次々にかじかを捕らえていきます。

「お前さんもやってみっか」と中林さん。お言葉に甘えて筆者も挑戦してみましたが、全く発見できません。

「あっち(対岸)に行ってみ」と勧められますが、流れが急で、とても辿り着けないという始末。

捕らえたかじかは、腰にくくり付けたカゴに入れる。

捕らえたかじかは、腰にくくり付けたカゴに入れる。

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網にかかったかじかを手際よくカゴに放り込む阿部さん。

魚野川上流域は透明度が高く、晴れている日は川底までくっきりと見ることができます。しかしこの日は増水の影響でほとんど見えません。そんな環境にもかかわらず、次々にかじかを見つけ、網に追い込んでいく中林さんと阿部さん。

おふたりにコツを伺うと、笑いながら「勘!」と即答でした。

長年の経験から瞬時に導き出される「勘」には到底かないません。

休憩を挟みつつ、午前と午後の2部構成でたっぷりと漁を行った漁師さんたち。

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この日獲れたのは、200匹以上!と思いきや、「こんなもんか。いつもと比べて三分の一ってとこかな……」と漏らす中林さん。

気象条件が良い日は、もっと多く獲れることもあるそうです。

 

いよいよ焼き干しの開始!

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漁を終え、川口の作業場へと移動。いよいよ、焼き干しの始まりです。

中林さんが用意したのは、半分にカットされた巨大なドラム缶。その中に燃料となる木炭を置き、バーナーで着火。実にワイルドです。

火が安定するまでしばらく待ちます。その間、かじかを串に刺し、仕込みを行います。

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慣れた手つきで次々に串に通していく中林さん。かじかは岩場に棲むため、ゴツゴツした環境の中、体を保護するために粘膜状の液体で覆われています。ヌルヌルしているため非常に刺しにくいのです。

しかし、中林さんと阿部さんが仕込む串は、尾ビレが綺麗に揃っています。

「(試しに)ちょっと刺してみ。こうはならねえはずだぞ」と中林さん。

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まっすぐ揃えて刺そうと試みますが、ぬるぬるしていてなかなかうまくいきません。いろんな方向に向いてしまいます。

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一方で、中林さんは小気味よく串に通し続けます。よく見ると、ヒレが平行になっています。かじかの姿勢がほぼすべて一致する、熟練の技ですね。

その後も、さりげない動作で次々に形を整えていく中林さんと阿部さん。

川口でずっと漁師を続けてきたおふたりが長年の経験から編み出した、真似のできない技術なのです。

 

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串に通したあとは、炭に近づけ直に炙って微調整をする。美しく整っていく。

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一本一本丁寧に形を整えていく中林さん。

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炭火でしっかり焼き上げ、旨味を閉じ込めたまましばらく干すと完成。

それでは、なぜここまで入念に形付けを行うのでしょうか。

焼き干しを行いながら中林さんは、自身のポリシーを語ってくれました。

 

「美しく仕上げること」が大事

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談笑しながらも絶えず目を配る中林さん。

自分が最も大事にすることは「いかに美しく仕上げるか」ということだ、と中林さんは話します。「美がいちばん大事だよ。もちろん、綺麗に仕込んである方が高値で取引されるってのもあるが、それだけじゃないな」と中林さん。

商品価値を高めるという意味合い以外に、獲物であるかじかに対する漁師さんなりの敬意が含まれているのかもしれません。

川口を流れる魚野川は、非常に豊かな恵みをもたらしてくれます。川口の漁師さんたちは徹底的に「美」にこだわることで、それを最大限活かしている。そんなことを感じた密着取材でした。

 

Text and Photos: Junpei Takeya

 

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